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第三章 普通

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昆布茶をゴクリと飲むとジッと見つめていた千陽が、

「バ~カ鈍感主人公」

「千陽の物語の主人公は、お前だろう?」

「俺の物語の主人公はリュウちゃんだよ」

「だったら、チート能力を持つ主人公になりたいよ」

「パンツを奪い取るような魔法使って?」

「・・・・・・あいつはチートではないな。そんな冗談言えるなら大丈夫だな?」

「・・・・・・うん」

男らしい千陽が返事が小さく告白を断る勇気を出すという行動は、人の痛みを考えられる千陽にとって辛い事なのだろう。

肩に手を回し、ぎゅっと抱きしめてやると、必死に堪えていた感情が爆発してしまったのかワンワンと泣く。

「仕方ねぇな。親友として付き合ってやるよ」

・・・・・・一時間もワンワンと泣くと俺のシャツをぐしょぐしょにして、

「冷たい」

「自分の涙だろ」

「リュウちゃんにこすりつける体液」

「バーカ」

にへっと笑う千陽は少しはすっきりしたようだった。

「小学校高学年の頃からよくあるんだ、こういうの」

冷めた昆布茶を飲み干して語り始めた。俺の知らない海外での学校生活。

「海外でもあるのか?」

「むしろ海外だからこそじゃないかな?日本より同性愛って一般的だし」

「そうなんだ・・・・・・」

「俺さっ、こんなんだから女の子に好きになって貰えちゃうんだよね、もう、それは認めるよ。今まで何回もあったし、過ぎたる謙遜は嫌味でしかないのはわかっているから。みんな百合に憧れる年頃なのかもしれないし」

女からの告白、自慢にしか聞こえないが千陽の体もだが、心は実はちゃんと女、知っているよ、そんなこと。

そう口にしてしまえば、きっと何かは失い、なにか新しい物語が始まるのだろうが、その一歩を踏み出すには9年の間を埋めるのには、まだ日は浅すぎる。

せっかく戻ってきた親友を失う言葉になりかねない。

その一言は言えない。

「好きですって言われるたびに、ちゃんと誠心誠意断っていたんだけどね。ある日ね、突然、誰も声かけてこなくなったの。男も女も」

「・・・・・・海外でもあるのか?いじめ?」

「うん。ふった女の子がもて遊ぶだけもて遊んだとか、好き放題に噂流してさっ」

「それを信じる奴らはクソだな」

「やっぱり外国人って壁がもともとあったから余計にね」

「で、高校は日本に?でも、よく同じ学校になれたな?」

「やっぱり聞いてなかったんだ?おばさんに手紙で聞いたもん」

「え?」

「リュウちゃん絶賛反抗期で、おばさんと話さなかった期間だったみたいだよ?愚痴が書かれた手紙返ってきたもん。で、高校はどこに進学予定だよっと教えてくれたんだ、意外に偏差値高いとこ選ぶから大変だったんだからね。帰国子女枠なかったら絶対無理だったよ」

確かに今の滝音みたいな期間が俺にもあった。

家族と距離を取ってしまった時期。

暴れるわけではない、兎に角何かがむずかゆく、苛立ち、何かが腹だたしく、原因不明のイライラがあり両親と距離を取っていた。

ほとんど家で口をきかなかった。学校でも話す機会がなかったのだから、一日中声帯が活躍することがなかった日もあるくらいだ。

今でも、その時期の苛立ちを説明せよ!と、言われると難しい。説明しがたい。

中学二年から三年秋頃までの短な期間だったが、それに名を付けるなら、きっとそれが思春期なのだろう。

残念ながら思春期症候群には巻き込まれなかったけど。

巻き込まれていたら、助けてくれる誰かと出くわして親友になれたのだろうか?

千陽は助けに来てくれたのだろうか・・・・・・。
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