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スマイル24

本当の自分・1

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 結局昨日は、解っちゃいたがオトコの事情を消化できることも無く、冷蔵庫の如く寒い自分の部屋に帰って来て、淋しい一人寝で、欲求不満は募る一方だった。

 オイ、美羽! 俺様みたいなイケメンを独り放置って、コレは大問題だぞ!
 世の女共から、非難されちまうぞ!?

 もう、こーなったらせめて夢でもいーから、美羽としたい。
 そう思いながら眠ったが、残念ながら夢は見れなかった。
 仕方がないので妄想したら、余計辛くなった。

 俺、このままいくと、煩悩に支配されて、爆発するんじゃねーだろーか。
 一体何時、美羽とのエロい初体験ってヤツができるんだろう。早くしたい。
 このままじゃ、仕事にも支障が出そうで怖いな。


 そうそう。今日は、キングフェザーの初取引を完結させる日だ。気合入れなきゃいけねーのに、いつまでも頭悩ましてちゃ、決まるもんも決まらねーぞ。
 俺にとっちゃー美羽とのコトは死活問題ではあるんだが、そうも言ってらんねーから、とりあえずこの問題は、一旦置いておこう。

 手配していた印鑑等は、既に出来上がっているだろう。出社前に取りに行って登記や証明の書類整えたら、会社には外出許可貰って、横山のトコへ行こう。
 午前九時になったら、彼には入金確認の連絡は入れておいた方がいいな。万が一の事があっちゃ、取引自体がパーになっちまうからな。


 今日は、色々初めての日だ。
 こーいう特別な日は、やっぱアイツ等の顔見てから、仕事に行きたい。
 美羽にも、行ってらっしゃいのキスしてもらいたい。

 横山の案件なんだ。美羽だって、キスのひとつくらい、俺にしてくれるだろ。
 それ以上は・・・・のぞ・・・・まないぞ。今日のところは、勘弁してやるっ。


 俺の戦闘服であるスーツのジャケットの袖に手を通し、用意をして、早めに家を出た。
先に施設に寄ろう。いってらっしゃい、って言ってもらうんだ。

 アイツ等に今日も会えると思うと、スゲー嬉しくなる。

 俺が、幼い頃から欲しくて求めていたものが、手を伸ばせばすぐそこに、手の届く所にあるんだ。
 こんな幸せな事は無い。だから、大切にしよう。


 美羽のことも、お前達のことも、ずっと、ずっと――



 ※



 施設付近の大通りのコインパーキングに自分の車を停め、施設までの路地を歩いた。
 相変わらず舗装の悪い道だ。砂利が俺の足にまとわりついてくる。角を曲がって少し歩くと、ボロの門扉が見えてきた。

 ここは、何も変わらない。美羽が大切にしているこの場所は、彼女と同じで何も変わらずに、俺を何時でも迎え入れてくれる。

 腕時計を見ると、午前七時十五分。施設の朝食時間中だ。ガキ共は、美羽の作った朝食をそれぞれ食ってるところだろう。
 今行ったら、邪魔になるよな。仕方ないから、三十分くらい待つか。頃合いを見計らって、中に入ろう。


 今日だけは、どうしてもお前達の顔を見てから行きたい。
 美羽やガキ共が、心からの笑顔で言ってくれる『いってらっしゃい』で、俺を送り出して欲しい。

 本当に淋しいんだな、俺。
 今までそれに気が付かずに、どうやって生きてきたんだろう。不思議でたまらなくなる。
 知らないって怖いな。それが当たり前だったからな。

 でも、知ってしまったから。
 お前達のおかげで、俺にもあったかく迎え入れてくれる場所ができたんだ。
 だから、離したくないんだ。ずっと繋がっていたい。
 ここは、俺が初めて手に入れた、心から笑える場所なんだ。

 錆びた門の所から施設の玄関を眺めていると、ガラガラと音を立てて横開きの玄関の扉が開いた。
 中から現れたのは、美羽だ。

「中、入らないの?」

「えっ、どーして・・・・」

 まさか美羽が出て来るとは思わなかった。俺、今日ここに来るなんて、ひとことも言ってないし、ボロい門のすぐ横についている呼び鈴だって、押してない。
 ガキ共の食事が終わるまで、ここで待っていようと思っていたのに。

「今日、横山さんの所行くでしょ。王雅、絶対ここに寄っていくと思ったから、待っていたの。まだ、時間あるんでしょ。中、いらっしゃいよ。そのつもりで寄ったんでしょ? ここは貴方の家みたいなものだから、子供達が食事中だからって、遠慮しないで入ればいいのに。玄関のカギ、空けておいたのよ。みんな、王雅の事待ってるわ」

 美羽がこちらにやって来て、門を開け、俺の手を取ってくれた。

「もう今からお仕事行くのに、お帰りっていうのも変だけど、お帰りなさい、王雅。朝御飯、仕事前に食べて行ける? 簡単なものだけど、用意してるから。食べたら、お見送りしてあげるわ」


 俺を見つめていた、美羽が笑った。
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