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第十章 ひとすじの光が差し照らす
悔恨の中で
しおりを挟む結局チェックアウトの時間が迫るまで、マユミが喋り続けるのをただただ黙って聞いていた。 罪ほろぼしにも為らずだが、その他にすることが無かった。
聞いた内容の殆どが頭の遥か上方を通り過ぎ、記憶に留めたのはいつ書いたのだろう携帯番号とメールアドレス、住所と最後にフルネームが書いてあるメモを手渡された事柄だけだ。
それを折り畳んでシャツのポケットに差し入れ、マユミが身支度を済ませるまで待たず、僕は先に外に出た。 朝陽が燦々と照らすアスファルトに水が撒かれ、光線を乱反射している。
十分程経って出てきたマユミと一緒に駅まで歩いた。 マユミの乗った車両を見送って逆方向の電車に乗り込み、入口のすぐ横の座席の腹を足で蹴った。
(なんであんな事を……馬鹿にしている奴らと同様に僕も堕落した)
日頃蔑んでいる男達の嘲笑う顔が浮かんだ。 扉と反対側の長椅子に乱暴に体を投げた。
(何故だ!また会っても良いような話をしてしまってオマケに女神の事まで)
今まで誰にも語らず、胸にしまって置いた事をマユミに漏らしてしまったのは、酒のせいでもあるしマユミへの苛立ちもあったが、自分がしてしまった事が女神を汚してしまった思いがあったからかもしれない。 こんな自分に腹立たしさを覚えた。
(もしこの事を女神が知ったならどうだ?マユミの事だけでは無い。アノヒトを思い浮かべた……そして呼応してしまったなんて!)
妙な事だが女神に逢って以来、僕は勃てた事が無かった。 誓願を立てた訳でも無いが、そういう事は女神を侮辱するような気がして、肉欲が自然と湧かなかった。
否応なしに他の女とそういう雰囲気になったりもあるが、全くそそられる事も無かったし、女を怒らせる事で行為を避けてこれた。 昨夜までは……。
自分が畜生になった気がした。
(何故だ)
それはまだアノヒトの事を覚えているからに違いない。
アノヒトとの濃密な時間を。 肢体を。 それが甘い痛みと共に沸き上がり、僕を凌駕してしまったのだ。
(封印出来たものを。あいつが身体を熱くするのを見て……時が戻った様にアノヒトが重なって……)
誇張したものがジッパーに圧されて痛みが走る。
(駄目だ駄目だ!僕は完全に堕落の淵へと転がり落ち始めた)
何か分からないが不安が襲ってきた。
眩暈がする様な喪失感と絶望を伴い、座ってもいられず発車と同時に閉まった扉に寄り掛かり、窓に映る自分を睨んだ。
その時。
反対のホームにいるキャリーバッグを脇に、談笑し合う女達に焦点が合った。
(女神が居る)
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