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第十三章 熟慮の後の失策
a bad feeling about __
しおりを挟む『今日の勤務は16時から22時までです。お越しになるのを待っています。』 そうとだけ返信した。
彩香さんは必ず来る。
きっと昨日した約束の事が話題に出るだろう。
(彼女の不安を解消してあげないとな)
それにしても今日であるのは日が悪く、嫌な予感がする。
それと言うのもマユミのサークル仲間のパーティーが19時から入っているから。
昼以降は客の入りが激減する土曜日。
本来ならば僕一人、出なかったところで誰からも文句は言われない……筈だったのだが。
うつらうつらし始めた時、マスターから「手が足りなくなるから夕方必ず出てね」と釘を刺す電話が入った。
休む気は無かったが、癇に障らなくも無い。
ならばと彼女のこと、マユミとの事を掻い摘んで説明し、此方の都合に計らって貰えるよう、お願いはして於いた。
マユミが打ち合わせ準備を口実に僕を待ち居座っているそうだ。
加えて今日は休みの筈の大西が昼前には店へ来た。
マユミ達を相手に昨夜自分が見た事をくっちゃべっていて、一頻り独白した後に、泣きそうなマユミと気遣う女達を放置し、ドヤ顔で勘定をしに来た奴に『コーヒーを一杯しか飲んで無いのに腹は満たされた様だな。暇そうだし厨房の手伝いでもしてくれるか?』と皮肉を言ったが、聞こえない振りをして帰っていった、と出勤するなりマスターから聞く。
大西の馬鹿のお陰で、店に入った途端、僕はマユミを囲む女達から痛い視線を浴びている。
(予感はこれか)
僕がどう見られようが構わないが、彩香さんに火の粉が降り懸かることは避けたい。
女達は僕とマユミとが付き合っている、と思っている。
もしマスターの様に尋ねて来たならば否定するのだが、それも無いのに態々此方から弁解するのも煩わしく放ったままにしていた。 マユミ周辺の女にどう思われようが関係ない事だと考えていたからだが、こういう事までは想定していなかった。
先月マユミは約束を破り、限られた友達にだけ僕に告白をした事と関係も持った事を教えたとメールで報せてきた。
限られた友人は特定の人間へと伝えるもの。
それが興味をひくにつれ鼠算式に特定の人数が膨れていく。 店の人間も殆ど知っている。
未だに的外れな振舞いを続ける大西は、その人数に入るのかどうか、多分知らされて無いだろう。
そのメールを読んで以来、マユミとのやり取りは一切無くし意識的にその存在をdisregardしている。 電話も取らずメールが来てもそのまま削除した。
客として店で顔を合わせても、マユミが一方的に話し掛けてくるだけで僕は最低限の応答しかしない。
自分の向ける視線が受け止めるもの無くすり抜けていく。 それは辛い筈で何故そう為ったかくらいは理解出来るだろう。
怒りは感じていなかった。
寧ろよく黙ってきたものだと思う。
冷徹に振舞うのは思惑通りの行動。
僕は念押しした事を実行するに過ぎない。
それでも前と変わらず此処に来るのは何故なのか?
僕には、他者を惹くものも留めるものも何も無い。
女神と時間を刻むその為にだけに生息する男で、他に何も創造的活動は行わない物体なのだから。
彩香さんの来店を待ち焦がれるあまり、マスターの声まで耳に入らない。
如何せん落ち着かない。
『都合がつかない』とメールが来てやしないか、何度かロッカーの携帯を確認にしに行く。
店の外を窺いにレジまで行っては客に呼ばれ、後ろ髪を引かれるように奥へと戻る。
そんなことを繰り返して、やっと彼女の姿がドアの外に映った。
安堵と緊張の相反するものが湧きいでる。
鼓動の速さは昨晩を上回る。
ドアが今開かれる。
女神の来訪だ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
著者の呟き:
透に見て取れる、人格全否定の完全シカトは、トラウマ化してカタストロフィってことになるので別として、
個人的には
『認知はされている(←ココ重要です)けど冷たくあしらわれ扱われる意味での冷遇』
放置プレイっぽくて嫌いじゃないです。
応援ありがとうございます!
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