【R18】適当に呪文を唱えたらオッサン悪魔が来てしまった

チーズたると

文字の大きさ
4 / 28

4

しおりを挟む


「……は?」

 発光する魔法陣を前に、彩香は唖然とした。なにかの見間違いかと思った。
 しかし、魔法陣は光を放つのみならず、今度は煙まで吐き出し始める。これにはさすがに彩香もあわてた。

「えっ、ちょっ、なっ、なっ、なになに!」

 煙幕の向こうから、知らない声が響いてくる。

「――呼んだかーい」

 それは、非日常的な状況にそぐわない、いたく気の抜けた声音だった。
 視野を覆う煙が徐々に薄れ、その先に、彩香は声の主の姿を見る。

 ――テーブルの上に、見知らぬ男性がひとり座っていた。

 見た目は四十代の半ばほどだろうか。いや、それよりも気になるのは、男の背中から伸びているものだった。
 男性の背後にあったのは、大きなコウモリの翼のような、なにかである。

 もちろん、本物のはずはない。そうは考えるものの、現状の非現実さを前にして、軽率に「作り物である」と決めつけてよいものか。
 彩香は迷った。というより、混乱した。今の状況に、頭がまるでついていかない。

 呆然としている彩香をよそに、目の前の男性は平然と話し始める。

「おやおや、君がおじさんを呼び出したのかい? 可愛らしいお嬢さんじゃないか。嬉しいねぇ。最近はジジイに呼び出されてばっかだったから、なおさら有難い思いがするよ」

 ひたいを押さえて混乱による頭痛に耐えながら、彩香は尋ねた。

「なっ……え……? ど、ど、どちらさん……?」
「おいおい、呼んでおいてそれはないだろう。だが、自己紹介は大切だな。互いの第一印象は自己紹介から始まると言っても過言じゃない」

 男はテーブルからおりると、自身の胸に手をやりつつ述べる。

「俺はローランド。改めて伝える必要もないとは思うが、悪魔だ。もっとも、そこまで位の高い悪魔じゃないけどな」
「……あ……悪魔……」

 相手の言葉を繰り返してみたものの、少しもピンとこなかった。
 男性――ローランドは、腕を組む。

「おう。お嬢さん可愛いから、おじさんサービスしちゃうよ。だれ殺す? なんにん殺す? 末代まで祟る? それとも、あえて生かして苦しめ続ける?」
「ま、待って待って……え……?」

 脳が現状の理解を拒絶していたが、拒んだからといって事態が改善するわけでもないだろう。

 彩香は考えた。理解を拒む頭をなんとか動かして、とにかく考えた。
 そうして、震える指先を目の前の男に向ける。

「……悪魔……?」
「悪魔」

 彩香の問いにローランドは頷き、言葉を繰り返した。

「ど、どっから入ってきたの?」
「どっからって、君が描いたこの魔法陣からだよ。ちょっといびつな魔法陣だけどな」

 彼は魔法陣が描かれた紙をつまみ上げ、ぴらぴらと揺らした。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...