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しおりを挟む「……で、どうする。おじさんと一年一緒に暮らすか、一線超えちゃうか。悪魔とエッチ出来るなんてめったにない経験だから、いい体験になると思うよー」
「そういう希少性は求めてませんので」
「……やっぱり、最近の子ってドライだよねぇ」
彼はうなだれてため息をつく。言動がいちいちオッサン臭いあたりに奇妙な人間味を感じてしまい、彩香は変な気分になった。
しかし、どんな気分になろうとも現在の状況は真剣に考えねばなるまい。
彩香は思案した。こんなにも思考を活発にまわしたのは一体いつぶりだろうかというほど、とにかく思考に思考を重ねた。
これで彩香に恋人でもいれば、思考はさらなる泥沼に落ちていたのは確実である。それを考えると、不幸中の幸いと言えないこともなかった。
そして、彩香は決意をする。
「……わ、かりました。私も、悪魔とはいえ出会ったばかりのおじさんと一年一緒に過ごすのは避けたいです。大丈夫、犬に噛まれたと思うことにしますから」
「そもそもは君が呼び出したのが原因なのに、なんかおじさんが悪いみたいになってるねぇ。まぁ、いいけど。……それじゃあ」
言いさして、ローランドは軽々と――じつに軽々と、彩香を横抱きにした。つい胸を高鳴らせてしまったのは、己だけの秘密である。
彼は妙に人間臭い相変わらずの表情で、にっと笑った。
「……遠慮なく、いただこうかな」
直後、男の背中から伸びていた黒い翼が姿を消す。変幻自在というわけだ。うらやましいなと、彩香はひそかに思う。
ローランドはそのまま彩香をかかえて、ベッドへ移動した。
「なぁに、嫌なら目を瞑っていればいい。そんで、好きなアイドルや俳優にでも抱かれてると思えばいいよ」
「それはさすがに図々しすぎじゃないでしょうか」
「辛辣だねー。君、俺が悪魔だってこと、本当にわかってる?」
悪魔である事実を差し引いても、初対面の相手にここまでハッキリとした物言いが出来るのは自分でも不思議だったが、それは彩香の性質がどうこうというよりも、単純にローランドという男がおかしいほどに親しみやすいのが原因な気がした。
ふと、そこで彼がなにかを思い出したふうな面持ちをする。
「……あ、そういえば、お嬢さんの名前まだ訊いてなかったね」
言われて初めて、まだ名乗っていないことに気が付いた。そんな相手と肌を重ねようとしているのだと考えると、逆に笑ってしまいそうになる。
「……彩香、です」
「彩香ちゃんね。可愛い名前だ。おじさんのことは、気軽にローさんとでも呼んでおくれ」
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