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8話 剣聖VS無職

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 アルゴとの決闘当日。
 俺とアリスは授業が終わると、真っ先に修練場へと向かった。

 修練場には既にアルゴと取り巻きの奴らがいた。

 だが、修練場にいたのはそいつらだけではなかった。

「よう、アリシア! よく逃げずにここまでやってきたな。その度胸だけは褒めてやるぜ」

「あ、アルゴ……! これはどういうことだ!」

「どういうこと、とは?」

「なんでこんな騒ぎになっているって言ってんだ!」

 修練場にいたのはアルゴたちだけでなく、沢山のギャラリーで観客席が埋められていた。
 しかも観戦しに来たのは俺たちと同学年の生徒だけでなく、下の学年の生徒もいた。

「せっかくのショーなのに俺たちだけじゃ、味気ないだろ? だから観客をつけようと思ってね。どうだ? こっちの方が盛り上がるだろ?」

「くっ……!」

 俺にはすぐに分かった。
 こいつがギャラリーを呼び寄せた目的がこの決闘を盛り上げるためではないと。
 
 あの目を見れば分かる。あの企みに満ちた目。

 恐らく俺が負けるところを見せしめに自分がいかに優れているかを周りに知らしめるつもりなんだろう。
 
 皮肉なことにあいつは優等生だ。
 誰もそんな意図で呼ばれたなんて思いもしていない。

 その証拠に学園の教授たちも観客席に姿を見せていた。
 
 そもそも修練場は学則で私用で使うことは許されていない。
 そんな場所を無条件に使えるなんておかしいと思っていたが、理由がよく分かった。

 教授もこの決闘に関しては公認ってわけだ。

「さ、アリシア。早速楽しいショーを始めるとしよう。準備はいいか?」

「俺はいつでも構わない」

 会場は大盛り上がり。
 それをアルゴが余計煽ることによって会場内のボルテージはマックスになった。

「――剣聖アルゴとあのアリシアか。これ、勝負になるのか?」

「――ならんだろうな。一発KOが関の山や」

「――でも決闘吹っ掛けたのはアリシアの方らしいぜ?」

 所々から聞こえてくる憶測。
 中には真実とは全く異なる内容も聞こえてきた。

(あの野郎……)

 湧き上がる色々な感情を抑えつつ。

 俺は戦いの舞台となる修練台に立つ前にアリスに一言発した。

「じゃ……行ってくる」

「頑張ってアリシアくん。あんなに頑張ったんだもん、きっと勝てるよ!」

「だな、俺もそう思う。……行ってきます!」

 最後にちょっと硬い笑みをアリスに向けると、俺は修練台に登った。
 
 目の前には模造剣を持ったアルゴの姿があった。

「覚悟はいいな?」

「ああ……」

 少し低いトーンで返答すると、ジャッジが姿を現す。
 ジャッジは何とうちの学園の学園長だった。

(こいつ、やはり只者じゃないな……)

 そう思いながら、俺も剣を構える。

「では、これより……剣士科3年、アリシア・アルファードと同じく剣士科3年、アルゴ・フォールディングによる決闘を執り行う。ルールは相手を戦闘不能にさせるか、武器を取り上げた方を勝者とする」

 高らかにルールを話すのは髭面の老体。
 何でも昔はすごい魔術師だったらしい。

 ま、そんなことは今はどうでもいい。
 
 まず手始めに……


 ≪能力:【特殊眼力(LV5)】が発動しました≫


 ■ステータスファイル

 名前:アルゴ・フォールディング
 役職:剣聖
 種族:人族ヒューマン 
 性別:男
 年齢:15歳
 身分:貴族(伯爵家長男)
 危険度:小
 総合レベル:43

 天恵
 ○【上位剣術適性】
 
 恩恵
 ○【剣聖】

 取得能力
 ○【高速剣術】
 ○【高速移動】
 ○【状況判断力(LV1/5)】
 ○【リフレクター(一度だけ相手の攻撃を完全無効化。しかし自分のLVを上回る攻撃を受けた場合は効果を発揮しない)】


 アルゴのステータスファイルを開いてみることに。
 
 なるほど、流石はアルゴだ。
 口であれほど言うだけあってレベルが高い。

 俺とは違って能力は役職で固定されているが、まさかここまでレベルを上げているとは思わなかった。

 普段から鍛錬はきっちりとこなしているようだ。

 てか、剣聖ってこんなに能力を貰えるのか。
 剣士として生きていくのは申し分ない、というか完璧な能力だ。

 でもこれを見た途端、俺の自信は確信へと変わった。

「では、両者構え!」

「「……ッ!」」

 この一言で俺とアルゴは剣をギュッと握り、構える。
 その瞬間、会場は静まりかえる。

 静かすぎてドクンドクンという自分の心臓の鼓動が聞こえるくらいだ。

 俺は息を吸うと、静かに吐く。

 そして……

「…………始めッ!!」

「アリシア、覚悟ッッ!」

 GOの合図と共に向かってくるアルゴ。
 開幕は様子を見るかと思ったが、いきなり飛ばしてきた。
 
 しかも……早い!

(一気に決着をつけるつもりだったか……!)

「やぁぁぁぁぁぁっ!」

 素早く振りかざしてきたアルゴの一撃を受け止める。
 中々重い一撃だ。

「ほう、受け止めるか。この一撃で決めるつもりだったんだけどな」

「それは、残念だったな」

「だが、いつまで持つかな?」

「さぁ? でもそんなに余裕ぶっこいていると、痛い目を見るぞ」

 俺はそう言いながら剣を弾き、アルゴから距離を取る。

「はぁ? 痛い目を見るだって? 俺がか?」

「ああ……」

「ふふっ……ははははっ! 中々、面白い冗談だなそれ。この俺が痛い目を見るだって? 少なくともお前にだけはあり得ない話だ」

「そうか」

 そう思うのはお前の勝手だ。

 でも一応忠告はしたからな。
 どうなっても俺は知らんぞ。

「てか、そんなくだらないこと言ってないで、早くかかってこいよ」

「言われなくても……!」

 俺は思いっきり地面を蹴り上げ、アルゴの元へ迫っていく。
 
「ふん、そんな単調な攻撃じゃ俺は――んっ!?」

 アルゴはすぐに俺の異変に気がついた。
 それもそのはず、向こうから見れば俺は……

「き、消えただと! 一体やつはどこへ!?」

「あ、アルゴ! 後ろだ、後ろに回っている!」

 修練台の近くで見ていたアルゴの取り巻きが声を揃えて俺の居場所を伝える。

 アルゴはその指示を受けてすぐに後ろを向くが……もう遅い。

 それにお前のレベルじゃ、俺を止めることは……できない。

 何せ俺の総合レベルはお前の2倍。

 ……86もあるのだから。

「……ッッッ!?」

 向こうが振り向いた時には俺はもうアルゴの懐に入り込んでいた。
 俺はアルゴの持つ剣をめがけて一発、鋭い一撃をくらわせる。

 それと同時にアルゴの持つ剣は天高く吹っ飛び、彼自身もその衝撃で尻もちをつく。

 そして。
 剣が地に落ちたことを確認すると、俺はアルゴの顔に剣先を向けた。

 さっきまで騒ぎまくっていた観客席の連中が一気に静かになる。

 修練場はまるで葬式会場のように静かになり、審判の学園長もきょとんとした目でこちらを見ていた。

「……審判、判定をお願いします」

 そんな沈黙を破るように。
 俺は審判である学園長に判定を求めた。

 この一言で学園長は我に返ったのか、

「しょ、勝負あり! 勝者アリシア・アルファード!」

 次の瞬間。
 
「――か、勝った……アリシアがあのアルゴに……!」

「――嘘だろ!?」

「――す、すげぇぇぇ! あいつ、あんなに強かったのか!?」

「――しかもなんだよあの最後の一撃。全然見えなかったぞ!」

 この一戦を見ていた観戦者たちがどよめきだした。

 あのアリシアが学園の優等生、そして剣聖であるアルゴに勝ったという驚きの結果に。

「う、ウソだろ……俺が、負けた?」

 しかしただ一人。
 それを受け止めきれていない者がいる。

 アルゴ本人だ。

「あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない! この俺が……剣聖であるこの俺がこんなゴミみたいなやつに負けるはずが……!」

 アルゴの表情は徐々に険しくなっていく。
 そしてすぐ傍に転がっていた自身の使っていた剣を取り上げると。

「もう一度だ……もう一度勝負しやがれ!」

「悪いけど、俺にその気はないんだが」

「うるせぇ! やるっつったらやるんだ!」

 怒りに任せて言葉を飛ばすアルゴ。
 もうそこにはいつもの優等生アルゴの姿はなかった。

 ただ結果を素直に受け止められず、怒り狂うだけの狂人。
 それが今の彼だった。

「ふん、そうかい。そっちがこねぇって言うなら、こっちから……!」

 アルゴは剣を構え、俺に突進しようとしてくる――が。

「止めなさい!」

「ぐっ……!?」

 アルゴは動きをピタリと止める。
 彼を止めたのは他でもない。

 審判をしていた学園長だった。

「止めなさい、アルゴくん。君ともあろう者が、見苦しいですよ」

「で、ですが学園長! こいつは……!」

「君は彼との闘いに負けたんだ。それは素直に受け止めないといけない。それに、私が修練場で許可した決闘は一回だけ。それ以上を私に無断でした場合、どうなるか……君なら分かりますよね?」

「うっ……!」

 アルゴはその言葉を聞くと素直に剣を下ろす。
 そして舌打ちすらもすることなく、彼は無言で修練台から降りて行った。

「やったね、アリシアくん! おめでとう!」

「ありがとう、アリス。これもアリスが支えてくれたおかげだよ」

「そ、そんなことないよ。これはアリシアくんの努力が生んだ成果だよ。でも……」

「でも?」

「ありがとう。そう言ってくれて、とても嬉しいよ」

 少し照れながらも、アリスはニッコリと笑った。 
 昔から変わらないアリスの可愛らしい笑顔だ。

「素晴らしい戦いでした、アリシアくん」

「ありがとうございます、学園長」

 アルゴとその取り巻きたちが舞台から消えると、学園長が俺の元へやってきた。
 ちなみにこうして面と向かって話すのは初めてだ。

「君がここまでの実力をつけていたとは、正直驚きました」

「ど、どうも……」

「この決闘をきっかけに多くの生徒がまた、勉学と鍛錬に意欲的に打ち込む事でしょう。ありがとう、アリシアくん」

「い、いえ……そこまで言っていただけるなんて、光栄です」

 まさかここまで称賛されるなんて。
 ちょっと予想外だった。

「ところで、君は卒業後はどうするつもりなんですか?」

「えっ……」
 
 卒業後。
 それは中等部を終えた後のことの話。

 俺たちはもうすぐ目の前に卒業という大きな行事を控えている。

 このまま行けば高等部へと進学する予定だったが、今日の決闘の結果次第でどうするかは決めていた。



「俺は……」


 
 こうして。
 俺とアルゴの決闘はアリシア・アルファードの勝利という結果で幕を閉じたのだった。


 ■ステータスファイル

 名前:アリシア・アルファード
 役職:無職
 種族:人族ヒューマン 
 性別:男
 年齢:15歳
 身分:平民
 総合レベル:86

 天恵
 ○【根性】
 
 恩恵
 ○【経験力】

 取得能力
 ○【高速剣術】
 ○【高速移動】
 ○【状況判断力(LV5/5)】
 ○【特殊眼力(LV5/5)】
 ○【絶対聴覚(LV5/5)】
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