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「ふぁ~・・・眠い・・・」
一人の青年がそう気怠げに朝食を口に運んでいた。
「もう! お行儀が悪いよ! お兄ちゃん」
頬杖を突きながら箸でご飯をつつくマナーの悪い青年に、少女がそう注意する。
「あー・・・なんだっけか、なんか怖い夢を見たんだよな・・・よく覚えてないけど」
「夢? お兄ちゃん、前にもそんな事言ってなかった?」
「・・・そうだっけか?」
「ほんと、しっかりしてよ! 今日から高校生でしょ!」
青年は妹の苦言に返す言葉もなく、目を覚まそうと苦手なコヒーを口いっぱいに含み、飲み込んだ。
「ご馳走様」
そして真新しい制服を身につけて姿見の前に立つ。
「この前習ったけど、やっぱ上手く結べないな」
「お兄ちゃん不器用だからね・・・仕方ないよ」
「憐れまないでくれ、これは父さん譲りだ。んじゃ、行ってくる」
青年は鞄を持って外に出る。
「行ってらっしゃい。刹那お兄ちゃん」
妹の兎和に見送られ、秋鹿刹那は学校へと向かった。
今日で高校生になる刹那にとって街の景色は見慣れたものだったが、どこを見ても目に入る巨大な壁にはいつも辟易していた。
その壁は千年前、悪魔の軍勢より人々を守るために英雄達により建てられたものだと伝えられている。そしてそれが真実であるということも誰もが知っている事だった。
なぜならこの国にはーーー神がいるからだ。
そしてその神がそのことを明言しているのだから、信じない方がおかしいというもの。
ーーーあの向こうには今も悪魔が存在している、か・・・悪魔ってなんなんだろうな・・・
悪魔について刹那が知ることは少なかった。それは彼が一般人である事が要因だった。
この世界を救った英雄、彼らが悪魔を退けた不思議な力ーーー錬成は子々孫々と受け継がれ、その不思議な力を持った者達を総じて術師と呼んだ。そしてそうでない者は一般人と呼ばれていた。
悪魔に対抗する力を持つ術師は今もなお増え続ける悪魔共をあの壁の向こうで退治し、この世界の平和を保っていた。
しかしそんな術師達に対して刹那が抱く思いは感謝では無かった。
ーーー胸くそ悪い連中だ。
この捻くれ者かのような思想に関して追求するとするなら、この国のあり様が原因といえた。
子々孫々受け継がれる力、錬成はある日を境にその力の継承者数を著しく減少させていた。理由は簡単だ。浅ましい力のある者たちが力の広まりを抑制し、この狭い檻の中に特権階級を築くため一般人と術師との婚姻を一切禁じたからだ。
力の広まりを抑制し、自分たちの地位を強固なものとして一般人を劣等種とする術師に腹が立つのも道理といえる。
それでもそれがこの国のルールである以上、刹那が何を言ったところで変わらないし、現にその人口が十数倍以上ある一般人達が暴動を起こしたところで、無駄死にする事は火を見るより明らかだった。
なにせ大人の一般人が十人束になったところで、子供の術師一人にさえ敵わないと言われているほどに、一般人と術師との力の差は歴然だった。
だから刹那はこう呟いた。
「術師なんて、死んじまえ」
そしてそんな恨み言しか言えない自分自身が誰よりも、なによりも無価値な存在に思えていた。
一人の青年がそう気怠げに朝食を口に運んでいた。
「もう! お行儀が悪いよ! お兄ちゃん」
頬杖を突きながら箸でご飯をつつくマナーの悪い青年に、少女がそう注意する。
「あー・・・なんだっけか、なんか怖い夢を見たんだよな・・・よく覚えてないけど」
「夢? お兄ちゃん、前にもそんな事言ってなかった?」
「・・・そうだっけか?」
「ほんと、しっかりしてよ! 今日から高校生でしょ!」
青年は妹の苦言に返す言葉もなく、目を覚まそうと苦手なコヒーを口いっぱいに含み、飲み込んだ。
「ご馳走様」
そして真新しい制服を身につけて姿見の前に立つ。
「この前習ったけど、やっぱ上手く結べないな」
「お兄ちゃん不器用だからね・・・仕方ないよ」
「憐れまないでくれ、これは父さん譲りだ。んじゃ、行ってくる」
青年は鞄を持って外に出る。
「行ってらっしゃい。刹那お兄ちゃん」
妹の兎和に見送られ、秋鹿刹那は学校へと向かった。
今日で高校生になる刹那にとって街の景色は見慣れたものだったが、どこを見ても目に入る巨大な壁にはいつも辟易していた。
その壁は千年前、悪魔の軍勢より人々を守るために英雄達により建てられたものだと伝えられている。そしてそれが真実であるということも誰もが知っている事だった。
なぜならこの国にはーーー神がいるからだ。
そしてその神がそのことを明言しているのだから、信じない方がおかしいというもの。
ーーーあの向こうには今も悪魔が存在している、か・・・悪魔ってなんなんだろうな・・・
悪魔について刹那が知ることは少なかった。それは彼が一般人である事が要因だった。
この世界を救った英雄、彼らが悪魔を退けた不思議な力ーーー錬成は子々孫々と受け継がれ、その不思議な力を持った者達を総じて術師と呼んだ。そしてそうでない者は一般人と呼ばれていた。
悪魔に対抗する力を持つ術師は今もなお増え続ける悪魔共をあの壁の向こうで退治し、この世界の平和を保っていた。
しかしそんな術師達に対して刹那が抱く思いは感謝では無かった。
ーーー胸くそ悪い連中だ。
この捻くれ者かのような思想に関して追求するとするなら、この国のあり様が原因といえた。
子々孫々受け継がれる力、錬成はある日を境にその力の継承者数を著しく減少させていた。理由は簡単だ。浅ましい力のある者たちが力の広まりを抑制し、この狭い檻の中に特権階級を築くため一般人と術師との婚姻を一切禁じたからだ。
力の広まりを抑制し、自分たちの地位を強固なものとして一般人を劣等種とする術師に腹が立つのも道理といえる。
それでもそれがこの国のルールである以上、刹那が何を言ったところで変わらないし、現にその人口が十数倍以上ある一般人達が暴動を起こしたところで、無駄死にする事は火を見るより明らかだった。
なにせ大人の一般人が十人束になったところで、子供の術師一人にさえ敵わないと言われているほどに、一般人と術師との力の差は歴然だった。
だから刹那はこう呟いた。
「術師なんて、死んじまえ」
そしてそんな恨み言しか言えない自分自身が誰よりも、なによりも無価値な存在に思えていた。
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