美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏

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第一章 定食屋で育って

商店会の会合で 1

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 うちの店は、日曜日がお休みだ。
 土曜日はゆるく開いていて夜の営業が意外に好調だけど、日曜日は必ず休むことにしている。

 この日、日曜の夜は地元の商店会である『稲荷神社通り商店会』の集まりがあった。
 近くの商店会事務所に集まって、あと3か月後に開かれる夏のイベントを話し合うのだ。

 毎年、商店会の夏祭りは土曜日に開催される。
 それぞれのお店が通りに出店を出していて、住宅街が近いから家族連れが来てくれる。うちの店も毎年参加していて、お酒とつまみの売上が良い。

 初めての商店会ということで、私は隣のお店『The Coffee Stand Natsu』さんの店長、ナツさんを連れて一緒に事務所に入る。
 ナツさんは商店会という場所に緊張しているようだった。

「どうもー」

 事務所は2階建ての住居みたいな場所で、入口で靴を脱いで上がる。
 下駄箱に靴を入れて階段を上がると、大広間の座敷にみんなが集まって既に宴会状態だった。

「よー、利津!」

 私の姿を目に入れた幼馴染の美容師、祥太が片手にビールを持って手を振っている。輝く明るい金髪が、高い背に目立つ。折角だ、と思ってナツさんを連れて祥太の隣に向かった。

「久しぶり。こちら、うちの隣のコーヒーショップ店長の、ナツさん」
「初めまして、夏木です」
「おお、初めまして。この商店街で美容師してます、坂井祥太(さかいしょうた)って言います。利津みたいに、祥太って呼んでもらえれば!」
「美容師さんなんですね、それで金髪なんですね、祥太さん」
「そーなんですよ。若い子の練習台になってます」

 当たりの柔らかいナツさんと、接客業で初対面に慣れている祥太。思った通り、すぐに打ち解けそうな雰囲気がする。

「祥太さんは、美容師になって何年くらいなんですか? ずっとこの商店街で?」
「ええと専門を出てからだから……4年ですね。母親の店なんですよ」
「じゃあ、産まれてからずっと」
「そう、ここしか知りません」

 祥太がそんな話をしていたら、会長さんがこっちに気付いて挨拶に来てくれた。会長さんは地元の不動産屋さんで、この町のことは大抵知っている。
 ナツさんのお店も会長さんが管理会社をしているらしく、既にナツさんとは顔見知りだった。

「どうですか、夏木さん。何か不具合などは」
「いえ、特に何も。それに、この町のみなさんには良くしていただいていて」

 ナツさんがそう言っていると、総菜屋さんのおばちゃん、大野さんが「あ!」とナツさんを見て声を上げた。

「あなた、新しいお店の店長さんだったの?」
「あ、はい」
「大野さん、ナツさん知ってるんですか?」
「いつも夜に弁当買ってってくれるから」

 ナツさんは低い腰で、「いつも美味しくいただいています」と笑っていた。
 以前うちの営業終了間際に来てくれたことがあったけど、きっと遅くまで働いて大野さんちが閉まるギリギリで帰っているんだろう。
 大野さんのお総菜屋さんは、仕事帰りのサラリーマンに向けて夜遅くまで営業している。

 ナツさんは知らないだろうけど、この町でお店をしている人間はお客さんの顔を大体覚えている。
 それが下町らしさでもあり、現代にしては珍しい昔ながらの義理人情云々と言われる所以でもあるのだけれど、思春期などはなかなか事情が複雑だったりする。

「お店一人でやってるんだって? 大丈夫?」

 大野さんは、持ち前のお節介を発動してナツさんを心配していた。
 多分遅くまで働いていることを知っているし、お店を一人で切り盛りする大変さをよく知っているからだろう。

「今のところは、なんとか」

 ナツさんが大野さんに押され気味になりながら、お気遣いありがとうございますと言う。祥太が「いやいや大野のおばちゃん手伝いに行くなよ」と笑っていた。

 会場では大野さんのところの総菜が並んでいて、ビールサーバーまである。
 みんな好き勝手に食べたり飲んだりしていて、親戚の集まりと変わらない。

「あの……イベントの話し合いは……?」
「あ、そのうち会長さんと副会長さんが回って来るから」
「回って来る?」
「そう、そこでやりたいことと、そのために必要なことを申請すれば良いだけ」

 疑問だらけで戸惑っていたナツさんに、話し合いなんかしないんだよと教えてあげる。集まって親睦を深めて、当日はそれぞれ頑張りましょう、以上、というのが商店会なのだ。

「それじゃ、お祭りに共通の何かを作ったりはしないんですね」

 ナツさんが驚いていたので、逆に祥太と私は驚く。共通の何かってなんだ。
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