美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏

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第一章 定食屋で育って

商店会の会合で 2

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「ポスターなら、いつものやつを日付だけ変えて作ったのを張り出すし……横断幕も商店街にかかるけど……」

 私が親切に教えてあげたというのに、ナツさんは全然ピンと来ていない。

「そうじゃない」
「そうじゃない……?」
「それぞれのお店がそのお祭りのコンセプトに合わせた出しものをしたりはしないんですか……?」

 ナツさんは愕然としている。まるで、自分の言っていることが普通だと言わんばかりに。

「しないよ……??」
「そ、そうなんですか……」

 ナツさんがショックを受けているので、私はビールを注いでナツさんと祥太に渡した。自分の分をサーバーから注いでいる間、祥太はナツさんをじっと見ていて、何か気になったことがあるらしい。

「あの、ナツさんって……もともと、そういうことをお仕事にしていたんでしたっけ?」

 祥太は、よく知りもしないだろうにそんなことを言った。美容師の接客能力よ、恐るべしだ。

「まあ、完全に一緒ではないですが、割と近い仕事をしていましたね」
「じゃあ、こういう時に何をしたらもっと良くなるかが分かるってことですか?」
「……まあ、はい」

 祥太とナツさんが話をしている内容に、私は持っていた自分用のプラスチックカップを握ってしまい、あやうくビールをこぼしかけた。

「えっ? ナツさんの仕事って、映像を作ったりするんじゃないんですか?」

 私が驚くと、ナツさんは「映像も作るけど、実際はちょっと違うんです。っていうか、利津さんよく知っていますね」と笑いながら、「映像は表現方法のひとつなんです」と言った。

 私と祥太は、ナツさんと一緒に座敷にあぐらをかいて座っている。
 高さの低い長テーブルに持っていたビールを置き、ナツさんの話を聞いていた。

「んーと、例えばお祭りといっても、どんなお祭りかっていうのがありますよね。この商店街のお祭りは、何かに由来しているんですか?」
「神社のお祭りと絡めてやっているはずです」

 我が商店街を暫く歩くと、それなりに有名な神社がある。お祭りは神社の夏祭りの意味合いが強かったはずだ。

「ということは神事ですか……何か神社でやることは?」
「雨乞いがあったはず。あの神社は稲荷神社で、この辺は昔、田んぼだったそうですよ」

 私たち3人があぐらで真剣に話をしていたら、近くにいた人たちも話に耳を澄まし始めた。

「例えば、ですよ。お祭り自体が『雨乞いの名残』で『地元のお稲荷さんへの感謝や祈祷』だとしますよね」
「ああ、大体そうだしな」
「確かに」

 祥太と私が頷くと、向こう側で聞いている居酒屋さんとクリーニング屋さんが興味深そうに近寄って来た。私と祥太はナツさんとそれぞれを軽く紹介する。

「そのコンセプトに基づいて、お店も『雨乞い』や『お稲荷さんへの』ものをで出店で出してみる、とします。そうすると、それぞれのお店で別々のことをしていても、統一感が出るわけです」
「統一感……」
「それが出たらどうなるんですか? 別に、結局いつもと同じですよね」

 私たちはナツさんの言っていることが分かるようで、いまいち分からない。特に、それをする意義が全く理解できなかった。

「それが、違うんですよ。参加する方も、出店する方も、コンセプトに基づいた創意工夫があるかどうかで」
「うーん……別に、今は雨乞いをしたい人もいないだろうしなあ」
「稲荷神社だって全国にいくらでもあるしねえ」

 クリーニング屋さんと居酒屋さんが、ナツさんの話を聞いて口を出す。
 その通りで、雨乞いと言われて参加したいお客さんもいないだろうし、稲荷神社は日本で一番多い神社だと言われている。ありがたみなどあるのだろうか。

「でも、ここは『稲荷神社通り商店会』ですよね。商店会の名前でもありますし、その商店会のお祭りが稲荷神社にまつわることをやっているのは自然ですが……」
「それで、どんな効果があるんですか?」

 理解ができない私とは違って、祥太はナツさんの話に興味津々だった。
 祥太のお母さんの美容室は、お祭りだからといって出店をだしたりはしているない。このお祭りにあまり関わってはいなかった。

「お金が掛からないことでいけば、神社内で盆踊りをやったりするとしますよね? 盆踊りはお盆に絡んでいますが、雨乞いの儀式で踊りをイベントにする地域も多い」
「まあ、時期的にも盆踊りはありかもしれません」
「クリーニング屋さんは、盆踊り用の浴衣クリーニングのイベントをやっても良いですし、美容室さんは浴衣の着付けをやってあげるのもいいかもしれません。居酒屋さんは浴衣で来店した方への特典を付ける」
「おお、面白いねえ」

 居酒屋の店長さんが目を輝かせていた。そういえば、居酒屋さんはソフトドリンクとビールの出店をやっていたんだっけ。

「これはあくまでも例えであって、実際どんなことをやるかは商店会の都合やみなさんの希望に沿ったものがいいと思います。ただ、こうやっていろんなお店が同じイベントを盛り上げるだけで、みなさんにとってメリットが出てきますよね」

 ナツさんの話は、説得力があった。
 私をはじめ、商店会のみんなにとって考えたこともない提案だ。

 クリエイティブディレクターって、一体どんな仕事なんだろう。
 私の頭の中には、携帯電話で検索した時に出て来たナツさんのインタビューが浮かんでいた。そこには、確かこんなことが書いてあったはず。

 『僕は、提案で人を助けたい』
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