美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏

文字の大きさ
54 / 77
第二章 夢なんかみなくても

海を眺めて 2

しおりを挟む
「剛さんに祥太さんの話を聞いた時、そんな優しいイケメンだって所詮男はみんな一緒なんだって思ったから、証明したくて」
「一緒にすんなよ」
「その方が……救われるじゃん?」

 真樹ちゃんは、まるで言葉を波に投げるように言う。
 目の前にある波は、絶えずこっちに向かってくるようにしては砂浜にかき消されるように消えていく。

 救われる……。
 この場合、この世の男が全員そういうものだと思えば、自分のされたことが特別不幸じゃなかったと思えるということなんだろう。
 
 その瞬間は救われても、一生真樹ちゃんはこの世の男を憎み続けて生きるしかない。まして傷に傷を重ねるだけだ。

「救われるっていうのはさあ、真樹ちゃんがそいつらを見返すくらい……誰よりも幸せになることなんじゃないの?」

 月並みな言葉しか持たない俺は、ここにナツさんがいたらどんな風に真樹ちゃんを慰めるのだろうと自分の不甲斐なさが悲しい。

 やっぱり、俺は利津の言った通り人を憐れむことしかできないんだろうか。
 この小さな女の子が抱えている悲しみや怒りの感情を、憐れみ以外で包む方法が分からない。

「幸せって、なに?」

 真樹ちゃんはこっちを見ずに、海を見つめて言った。
 ザザーン……と幾度も音を立てる波に、まるで自分を入れようか迷っているような顔で。

「美味しいもの食べて、温かい風呂に入って、適度に疲れた身体を休めるために寝る」
「それが祥太さんの幸せなんだ」
「そこに可愛い女の子がいると、もっと幸せかも」

 ぶはっ、と真樹ちゃんが吹き出す。「そこってどこよ。お風呂?」と聞くので、「全部」と答えると寂しそうに頷いた。

「真樹ちゃんは、可愛いよ」
「……顔が?」
「顔も」

 真樹ちゃんは「そ」とだけ短く返事をして、その後はずっと黙っていた。
 俺も特に話しかけたりはしないで、隣でくっついたままずっと海を見つめている。

 徐々に陽が落ちてきて、あたりが紅くなってきた。
 夕陽がどっちに沈んでいるかとか、そんなことを気にするのでもなく、ただただそこに座っている。なんだか空が泣いているみたいだな、と誰かが持ちそうな感想が浮かんだ。

「寒くない? もう、帰ろうか」

 気温が下がったのが分かる。そろそろ、海の近くは冷える。
 日中の暑さをしのいだ服は、風通しが良かった。

「うん……。もう、終わっちゃうね」

 髪を掻き上げて寂しそうに笑った真樹ちゃんに、まだまだ俺は伝えていないことがある。

「物事には大体、始まりがあって終わりがあるんだって」
「始まってたんだね」

 真樹ちゃんと俺はそんな話をしながら立ち上がる。俺は隣を見て、下にあるその顔をじっと見つめた。


「終わりから、始まることもあるよ」

 ナツさんが昔作ったショートムービーは、そんな話だった。
 終わったところからが、全ての始まり。そんなことだってある。

 真樹ちゃんは何も言わずに俺の腕にしがみつく。

「今度、定食屋とコーヒーショップを紹介してよ」

 ボソリと、肩越しに言われた。

「いいよ。その前に、『美容室 前田』だな。腕のいい美容師にカラーをやってもらった方が良い。カットもね」
「……だから美容師って嫌だ。もう2ヶ月以上行ってないのバレてる」
「大丈夫、可愛くするし、トリートメント無料で付けるし、30パーセントオフでやってあげるから」

 帰り道に向かって歩きながらそんな話をしている。真樹ちゃんは「営業されちゃった」と苦笑いしながら、実は男の人に髪を触られるのもずっと駄目だったんだよと告白してくれた。

 俺は男じゃないってことかと笑っていたら、「今度は、あの鐘を鳴らしてみたいな」と遠くに聞こえる鐘の音を気にしている。

 あの鐘には、カップルで鳴らすと別れないというジンクスがあるらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

処理中です...