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第三章 足りない僕とコーヒーと
平日の営業 2
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「えっ?? 日葵さん30代半ばなんですか??」
「そうですよー」
僕が日葵の代わりに返事をすると、思い切り睨まれる。
「私のちょっと上くらいかと思いました。こんなに綺麗な30代半ばの人、今まで会ったことないので……」
「えっ?? やだあ、利津さん!!」
利津さん、本音なのかもしれないけど日葵が調子に乗るからその辺にしておこうか。
「どうしよう、ナツ。今日の利津さんのコーヒー代、私が払うね!」
「まいどー。利津さん、甘えておいた方がいいですよ」
「えっ?? 日葵さん、だって本音ですよ??」
日葵は本気で嬉しそうだ。利津さん、意外とやるな……。
きっと日葵は、この先利津さんに会いたがるようになる。間違いない。
と、いうことは……。どうしよう、僕の下宿先がピンチだ。
日葵の外面の良さからして、富雄さんだって日葵を嫌がったりはしないだろう。お願いだから利津さんの家に来ようとするなよ……あの親子、ホントに断らないからな……。
「ええー……いいなあ。日葵さんみたいに30代半ばでもこんなに綺麗なら、年取るのも怖くないのに」
「えっ?? ホント??」
「利津さん、もう止めましょうか」
このままだと、利津さんが日葵に気に入られてしまうし日葵が調子に乗る展開が待っている……。
「私、実は日葵さんに憧れてメイクを始めたんです……」
「利津さアアアアーーーーん!?」
「やだ、利津さんったら超カワユイ」
ダメだ……。終わった……。日葵が利津さんを探し回る未来が視えた……。
「はい、お待たせしました!! お客様、アイスカフェオレです!!」
僕はこの会話を終わらせるべく、日葵のコーヒーを席に置いた。
もうこれ飲んで、黙っててくれないか!!
「日葵さんってアイス派なんですか??」
「そうそう、外回りが多いから暑くってねえ」
「日葵さんが飲むと、アイスコーヒーがカッコいいですね……」
もうヤメローーーー!! その女をこれ以上調子に乗らせるなーーーー!! その辺にしてくれーーーー!!
illustration:冴木黒
*
「ナツさんて、日葵さんと付き合ってたんですよね?」
「まあ、はい……」
営業途中に店に来た日葵は、騒がしく喜んでから店を出て行った。
この時間だけで2日分の体力を消耗した気分だ。
「あんな綺麗な人と付き合ってると、美人を見飽きるんですか??」
「いや……っていうか、別に僕、日葵の外見そんなに好みじゃないですよ」
「えっ……女の敵みたいなことを言いますね……」
日葵は確かに美人だと思うけど。整ってはいると思うけど。
実は僕は、美人ってあんまり好きじゃない。
「女の敵って……。いや、僕、外見で人を好きになったりはしないんですけどね」
「じゃあ、どんな人がタイプなんですか?」
僕は日葵の席を片付けながら、利津さんに女性の好みを聞かれている。
コーヒーショップの店員って、客からこんなこと聞かれるんだろうか。
「僕の好み……ですか。まあ、僕は基本的に弱いので……強い人に惹かれますね」
「強い人??」
「信念があって、ブレない人とか」
「日葵さんて、そうなんですか??」
うーん。まあ、そうだなあ。
営業担当の日葵は、気は強く、ブレず、信念もすごい。
「仕事している時は、そうでしたね」
「仕事している時は??」
「付き合ってみたら、そうでもなかったというか。仕事以外は違うんですよ。だから僕らは仕事という共通項が無くなると全くダメでした」
利津さんは興味深そうに「へえ……」と驚いていた。
それにしても、日葵のことをそんな風に思っていたなんてなあ。全然気づかなかった。
「利津さん、最近メイクが変わったのって、日葵を意識してたんですか?」
「あ……そうなんです。日葵さんみたいな綺麗な人に憧れて……」
「へえ。でも僕はノーメイクの利津さん、可愛いと思いますよ?」
一緒に暮らすようになって、利津さんのすっぴんをよく見るようになった。
メイクをしている方がキリっとするけど、家でくつろいでいる時の利津さんは見ているとホッとする。
「ナツさん……。そういうこと、女性に軽々しく言ったらダメです」
「えっ?? ああ、祥太くんみたいでした??」
「この先、私、どんな顔して家でナツさんに会えばいいんですか……」
「いや、普段通りで良いじゃないですか」
そんな話をしていたら、ひとりお客さんが帰って行く。
僕は会計と見送りをした後、お客さんの帰った席を片付けていた。
「そういえば、利津さん。今日のケニアはいかがでしたか?」
利津さんがアフリカ系のコーヒーを頼むのは久しぶりだ。
僕はブレンドコーヒーをモカベースにしたけれど、利津さんの好みは中南米系らしい。
「なんか、久しぶりにこういうコーヒーを飲みましたけど、美味しいですね」
うんうん、ケニアはあんまり注文されないけど、そう言ってもらえたら扱っていて良かったと思えるな。
「実は僕、ケニアが一番好きなんですよ。アフリカ系と酸味のある豆はあまり注文されなかったりするんですけど」
恐らく日本で一般的に馴染みのあるコーヒーは中南米系だけど、コーヒーを勉強するようになってアフリカ系が好きになった。
クセはあるしパンチが強いけど、その個性に惹かれる。そういうものを好きになれるということは、僕も成長したか歳をとったってことなのかもしれない。
「これ、ナツさんの好きな豆だったんですね」
利津さんは、僕が初めて自分の嗜好を話したからか興味深そうだ。
「なんか、コーヒーの懐みたいなものを感じるんですよ」
「懐?」
利津さんはまだ若いし、こんな話楽しくないと思うけど。
「強い個性が味わいになって、それをどう楽しむかを考える余地があります」
「考える余地、ですか」
「99人が選ばなかった味でも1人が選べばそれは選ばれたコーヒーの味になる。コーヒーの選び方は、そんな風に自由でいいんです」
「なんだか、素敵ですね」
「誰もが美味しいコーヒーだけがコーヒーじゃない。ここはコーヒーショップですから、そういうことを伝えていきたいですね」
コーヒーには個性がある。
産地や農園、気候、焙煎、淹れ方まで。
好みのコーヒーを好きな飲み方で飲む自由度の高さが、コーヒーの良さだ。
だからこそ、僕は第二の人生にコーヒーを選んだ。
「そうですよー」
僕が日葵の代わりに返事をすると、思い切り睨まれる。
「私のちょっと上くらいかと思いました。こんなに綺麗な30代半ばの人、今まで会ったことないので……」
「えっ?? やだあ、利津さん!!」
利津さん、本音なのかもしれないけど日葵が調子に乗るからその辺にしておこうか。
「どうしよう、ナツ。今日の利津さんのコーヒー代、私が払うね!」
「まいどー。利津さん、甘えておいた方がいいですよ」
「えっ?? 日葵さん、だって本音ですよ??」
日葵は本気で嬉しそうだ。利津さん、意外とやるな……。
きっと日葵は、この先利津さんに会いたがるようになる。間違いない。
と、いうことは……。どうしよう、僕の下宿先がピンチだ。
日葵の外面の良さからして、富雄さんだって日葵を嫌がったりはしないだろう。お願いだから利津さんの家に来ようとするなよ……あの親子、ホントに断らないからな……。
「ええー……いいなあ。日葵さんみたいに30代半ばでもこんなに綺麗なら、年取るのも怖くないのに」
「えっ?? ホント??」
「利津さん、もう止めましょうか」
このままだと、利津さんが日葵に気に入られてしまうし日葵が調子に乗る展開が待っている……。
「私、実は日葵さんに憧れてメイクを始めたんです……」
「利津さアアアアーーーーん!?」
「やだ、利津さんったら超カワユイ」
ダメだ……。終わった……。日葵が利津さんを探し回る未来が視えた……。
「はい、お待たせしました!! お客様、アイスカフェオレです!!」
僕はこの会話を終わらせるべく、日葵のコーヒーを席に置いた。
もうこれ飲んで、黙っててくれないか!!
「日葵さんってアイス派なんですか??」
「そうそう、外回りが多いから暑くってねえ」
「日葵さんが飲むと、アイスコーヒーがカッコいいですね……」
もうヤメローーーー!! その女をこれ以上調子に乗らせるなーーーー!! その辺にしてくれーーーー!!
illustration:冴木黒
*
「ナツさんて、日葵さんと付き合ってたんですよね?」
「まあ、はい……」
営業途中に店に来た日葵は、騒がしく喜んでから店を出て行った。
この時間だけで2日分の体力を消耗した気分だ。
「あんな綺麗な人と付き合ってると、美人を見飽きるんですか??」
「いや……っていうか、別に僕、日葵の外見そんなに好みじゃないですよ」
「えっ……女の敵みたいなことを言いますね……」
日葵は確かに美人だと思うけど。整ってはいると思うけど。
実は僕は、美人ってあんまり好きじゃない。
「女の敵って……。いや、僕、外見で人を好きになったりはしないんですけどね」
「じゃあ、どんな人がタイプなんですか?」
僕は日葵の席を片付けながら、利津さんに女性の好みを聞かれている。
コーヒーショップの店員って、客からこんなこと聞かれるんだろうか。
「僕の好み……ですか。まあ、僕は基本的に弱いので……強い人に惹かれますね」
「強い人??」
「信念があって、ブレない人とか」
「日葵さんて、そうなんですか??」
うーん。まあ、そうだなあ。
営業担当の日葵は、気は強く、ブレず、信念もすごい。
「仕事している時は、そうでしたね」
「仕事している時は??」
「付き合ってみたら、そうでもなかったというか。仕事以外は違うんですよ。だから僕らは仕事という共通項が無くなると全くダメでした」
利津さんは興味深そうに「へえ……」と驚いていた。
それにしても、日葵のことをそんな風に思っていたなんてなあ。全然気づかなかった。
「利津さん、最近メイクが変わったのって、日葵を意識してたんですか?」
「あ……そうなんです。日葵さんみたいな綺麗な人に憧れて……」
「へえ。でも僕はノーメイクの利津さん、可愛いと思いますよ?」
一緒に暮らすようになって、利津さんのすっぴんをよく見るようになった。
メイクをしている方がキリっとするけど、家でくつろいでいる時の利津さんは見ているとホッとする。
「ナツさん……。そういうこと、女性に軽々しく言ったらダメです」
「えっ?? ああ、祥太くんみたいでした??」
「この先、私、どんな顔して家でナツさんに会えばいいんですか……」
「いや、普段通りで良いじゃないですか」
そんな話をしていたら、ひとりお客さんが帰って行く。
僕は会計と見送りをした後、お客さんの帰った席を片付けていた。
「そういえば、利津さん。今日のケニアはいかがでしたか?」
利津さんがアフリカ系のコーヒーを頼むのは久しぶりだ。
僕はブレンドコーヒーをモカベースにしたけれど、利津さんの好みは中南米系らしい。
「なんか、久しぶりにこういうコーヒーを飲みましたけど、美味しいですね」
うんうん、ケニアはあんまり注文されないけど、そう言ってもらえたら扱っていて良かったと思えるな。
「実は僕、ケニアが一番好きなんですよ。アフリカ系と酸味のある豆はあまり注文されなかったりするんですけど」
恐らく日本で一般的に馴染みのあるコーヒーは中南米系だけど、コーヒーを勉強するようになってアフリカ系が好きになった。
クセはあるしパンチが強いけど、その個性に惹かれる。そういうものを好きになれるということは、僕も成長したか歳をとったってことなのかもしれない。
「これ、ナツさんの好きな豆だったんですね」
利津さんは、僕が初めて自分の嗜好を話したからか興味深そうだ。
「なんか、コーヒーの懐みたいなものを感じるんですよ」
「懐?」
利津さんはまだ若いし、こんな話楽しくないと思うけど。
「強い個性が味わいになって、それをどう楽しむかを考える余地があります」
「考える余地、ですか」
「99人が選ばなかった味でも1人が選べばそれは選ばれたコーヒーの味になる。コーヒーの選び方は、そんな風に自由でいいんです」
「なんだか、素敵ですね」
「誰もが美味しいコーヒーだけがコーヒーじゃない。ここはコーヒーショップですから、そういうことを伝えていきたいですね」
コーヒーには個性がある。
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だからこそ、僕は第二の人生にコーヒーを選んだ。
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