鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏

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第二章

プレゼント

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 開封していったプレゼントは、万年筆やボールペン、ネクタイピン、マネーホルダーと言った小物の類から、ネクタイ、ハンカチ、キッチングッズや食器など様々なものが入っていた。

「色味が綺麗で、素敵なボールペンですねえ」

 花森は深い紅色をした臙脂えんじ色のボールペンを眺めながら、上品な色だなあとうっとりしている。

「俺は使いたくない。沙穂にやる」
「えっ」
「似合いそうだ」

 花森はボールペンを眺めながら、これを贈った女性は……恐らく女性だろう……まさか東御の恋人が使うことになったと知ったらどれほど落ち込むのだろうかと複雑な気持ちになる。

 念がこもっていそうだなと、うすら寒さを覚えなくもない。

「ものを無駄にしないと思ってもらってくれたらいい。タイピンの類や小物類もいつも部下にあげている」
「へえーー……」

 まさか東御が部下にプレゼントを渡す習慣があったとは想像もつかなかったが、使わないプレゼントの処理方法だと思えば普通なのだろうか。

 花森は大人しくボールペンを受け取って使うことにした。
 他の誰かにあげるのであれば、自分が持っていても構わないのだろう。

「それにしても……本当にいい物ばかりもらうんですねえ」
「だから要らないと何度も言ってるんだが……」
「でも、あげる人の気持ちも分かりますよ」

 花森が大量の箱を前に東御の横に座る。二人は床に腰を下ろしてプレゼントを眺めた。

「あげる人の気持ちか」
「好きな人には、もらうよりもあげたいと思うのが心情では?」
「それはそうだろうな。俺の好きな人は、俺に何かをあげたいと思ってくれているのだろうか……」
「そうですねえ……」

 花森が苦笑していると床に座ったまま東御は後ろから花森を抱き寄せる。
 高めの位置で結われたポニーテールが、東御の首周りをくすぐった。

「何もなくてもいい」
「……そう言うと思ってました」
「一緒にいて欲しい」
「もう、ずっと一緒にいるじゃないですか」

 花森は、時折不安そうにする東御を知っている。
 宗慈が言っていたように、父親や周りの環境が特殊なせいなのだろう。

「八雲さん、私、何度も言ってますけど……八雲さんは東御流の持ち物なんかじゃありませんよ。こうやって生徒さんたちの行動を見ると、確かに先生としての影響力が大きいのは間違いないと思うんですけど」
「沙穂は、どうしていつも堂々と自分の意見を言えるんだ?」
「どうして? 考えたこともありませんでした」

 東御はこれまで多くの出会いがあったが、花森ほど堂々と自分の意見を述べるタイプは初めてだった。だからこそ惹かれた部分が大きいのだが、あんなに失敗ばかりする割に堂々としているのは不思議だ。

「どうしてですかねえ。思っていることを封じて黙っていると、変わらないことが多いって知っているからかもしれませんね」
「しっかりしてるんだな」
「……思ってます? それ……」

 花森は自分を抱きしめている東御の顔を見ようと後ろを向く。
 その顔を目に入れて思わず息を止めた。
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