鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏

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第三章

順序が違うけれど 2

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「分かった。喧嘩をしたら、こうやって一緒に寝床に並んで仲直りをしよう」
「仲直りのチュウもしましょうね」
「仲直りでなくても、毎日しよう」

 東御が花森にキスを落とすと、花森も同じように軽いキスを返す。

「私が中年になってかわいくなくなって、八雲さんにとって嫌な女になったら遠慮せずに離婚してくれたら……」
「沙穂がかわいくなくなることはない」
「だって、年だってとるし、中年太りだってするかもしれないし、花森家はちょっと肉が付きやすいっていうか、そういうところがありますし」
「太ってもいい。肉付きが良くなったらその抱き心地を楽しむ」
「シワシワになって、顔だってたるんだりするかも……禿げやすい家系ではないですけど、でも髪が痩せたりしてみすぼらしくなるかもしれませんよ?」
「そんなのは、外見上の変化でしかない。沙穂自身が変わってしまうわけじゃない」

 花森は、東御の言っている話をそのまま信じることが出来ない。
 東御は毎日「かわいい」と言って花森を堪能する。
 その感覚がなくなれば、愛情も冷めるに違いないと花森は思う。

 東御はゆっくり花森の頬を撫で、髪を撫でて額に口付けた。

「八雲さんも、巨漢になったりしますか?」
「……ならない。自己管理は得意だ」
「私は自己管理なんてできません……」

 花森が半べそをかきはじめたのを見て、東御は口角が上がらないように口端に力をこめ、肩を震わせた。

 手元が危ういだけでなく、自分を管理することすら苦手らしい。
 吹き出しそうになったが本人は至って真剣だ。

「そういうところが、かわいくて仕方ないんだと思う。俺は」
「う、うそです。いい大人が自己管理できないのを何だと思ってるんですか」
「必要になれば、一緒にジョギングにも付き合ってやるし筋トレだってメニューを考えてやる。でも、沙穂はどんな姿形になっても沙穂のままだから平気だ」
「信じられません。男の人って、みんな若い女が好きなんです」

 花森には確信があった。
 22歳という年齢は、世間的に女性の価値が高い時期だ。
 歳を重ねていくことに恐怖しかない。

 今はこんなに花森を大切にしている東御でさえ、間抜けなオバサンをかわいがる趣味などないはずだと疑う。

「俺は別に、若い女は好きじゃない」
「熟女が好きなんですか?」
「……熟女が好きなんじゃなく、精神が成熟していない女は好まない」
「私、精神が熟女なんですか?」
「語弊があるが、概ねそんな感じだろうか」

 花森は目をぱちくりとさせて「え?」と首を傾げた。

「八雲さんって、性格で私のことを選んだんですか?」
「性格で惹かれたから、その性格を映す見た目に惹かれたんだ。どちらが先かという違いはあるが、全部が好きだと言っただろ」

 花森は初めて知った事実に口をパクパクとさせて声を失っていた。
 花森の肩を優しく撫でる東御を、そっと上目遣いになりながら覗き込む。
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