127 / 187
第三章
順序が違うけれど 3
しおりを挟む
「どうした? 池の鯉のようになっているぞ」
「び、びっくりしちゃって、つい……」
「なんでだ」
東御は不本意そうに眉間に皺を寄せた。
以前から花森の全てをかわいいと言い、全部が好きだと言ってきたはずだ。
「私、そんな性格良かったでしたっけ? いや、顔も別に普通ですけど」
「沙穂の性格が好みだ。ようやく見つけたと思った」
「ようやく見つけた?」
「こんな自分好みの女性を、初めて見つけた」
東御に真剣な目を向けられて、花森はその目を避けるように下を向いて悶える。
「今度はどうした? チワワのように震えるじゃないか」
「……初耳でした」
「チワワがか?」
「なんでですか、チワワぐらい私だって知ってます……そうじゃなくて」
「俺の好みが沙穂だということか?」
「……そうなのかなって、漠然とは思ってたんですけど」
花森は、これまでずっと自分をかわいいと言っていた東御は美意識がズレているのだと思ってきた。ようやく真実を知って言葉を失くしてしまう。
「沙穂」
「……はい」
「結婚しよう」
「……毎日チュウするんですか?」
「毎日する」
「え、えっちはどうするんですか?」
「それは決め事にはしない」
「……へえ」
花森の声が曇っていたので、東御はその頭を撫でながら笑う。
「義務でしたくないという意味だ。拗ねるんじゃない」
「拗ねてなんかいませんー」
「プロポーズの返事は?」
「……まあ、いいですけど……」
「妥協で返事をするな」
「……」
「一緒になろう、沙穂」
「はい。……よろしくお願いします」
尻つぼみになって行く声でなんとか答えた花森を、東御は思いきり抱き締めて「よかった」と振り絞るように言った。
それを耳元で聞き、花森の胸の奥にじんわりと温かいものが流れてくる。
結婚願望は未だになかったが、目の前の男性を幸せにしたい。
自分のことをここまで好きで大切にしてくれる人に、この先出会える気がしない。
「プロポーズは……やっぱり婚約指輪が欲しいです。どんなものでもいいので」
「給料三か月分か? 任せておけ」
「嫌です。指だけ時価総額が高いのは落ち着きません」
「でも、欲しいと言ったのは沙穂だ」
花森は「どうぞご自由に。でも、ダイヤが大きいものは邪魔になります」と釘を刺しておく。
「婚約指輪でダイヤを贈る意味を知っているか?」
「いえ……?」
「ダイヤには永遠の絆という意味があるんだよ」
なるほど、と花森は声に出して納得した。永遠の愛を誓う結婚式のようだ。
「そのくせ、この世の中のダイヤモンドは大抵リサイクル品だ。永遠に持ち主を変えて輝くのがまた皮肉だな」
「へえ。そうなんですね?」
「まあ、そういうリサイクルダイヤを使わずに新しいものを原石で買って、沙穂用に加工オーダーするから楽しみにしておくように」
「……いつも大袈裟なんですよ、八雲さんは」
「び、びっくりしちゃって、つい……」
「なんでだ」
東御は不本意そうに眉間に皺を寄せた。
以前から花森の全てをかわいいと言い、全部が好きだと言ってきたはずだ。
「私、そんな性格良かったでしたっけ? いや、顔も別に普通ですけど」
「沙穂の性格が好みだ。ようやく見つけたと思った」
「ようやく見つけた?」
「こんな自分好みの女性を、初めて見つけた」
東御に真剣な目を向けられて、花森はその目を避けるように下を向いて悶える。
「今度はどうした? チワワのように震えるじゃないか」
「……初耳でした」
「チワワがか?」
「なんでですか、チワワぐらい私だって知ってます……そうじゃなくて」
「俺の好みが沙穂だということか?」
「……そうなのかなって、漠然とは思ってたんですけど」
花森は、これまでずっと自分をかわいいと言っていた東御は美意識がズレているのだと思ってきた。ようやく真実を知って言葉を失くしてしまう。
「沙穂」
「……はい」
「結婚しよう」
「……毎日チュウするんですか?」
「毎日する」
「え、えっちはどうするんですか?」
「それは決め事にはしない」
「……へえ」
花森の声が曇っていたので、東御はその頭を撫でながら笑う。
「義務でしたくないという意味だ。拗ねるんじゃない」
「拗ねてなんかいませんー」
「プロポーズの返事は?」
「……まあ、いいですけど……」
「妥協で返事をするな」
「……」
「一緒になろう、沙穂」
「はい。……よろしくお願いします」
尻つぼみになって行く声でなんとか答えた花森を、東御は思いきり抱き締めて「よかった」と振り絞るように言った。
それを耳元で聞き、花森の胸の奥にじんわりと温かいものが流れてくる。
結婚願望は未だになかったが、目の前の男性を幸せにしたい。
自分のことをここまで好きで大切にしてくれる人に、この先出会える気がしない。
「プロポーズは……やっぱり婚約指輪が欲しいです。どんなものでもいいので」
「給料三か月分か? 任せておけ」
「嫌です。指だけ時価総額が高いのは落ち着きません」
「でも、欲しいと言ったのは沙穂だ」
花森は「どうぞご自由に。でも、ダイヤが大きいものは邪魔になります」と釘を刺しておく。
「婚約指輪でダイヤを贈る意味を知っているか?」
「いえ……?」
「ダイヤには永遠の絆という意味があるんだよ」
なるほど、と花森は声に出して納得した。永遠の愛を誓う結婚式のようだ。
「そのくせ、この世の中のダイヤモンドは大抵リサイクル品だ。永遠に持ち主を変えて輝くのがまた皮肉だな」
「へえ。そうなんですね?」
「まあ、そういうリサイクルダイヤを使わずに新しいものを原石で買って、沙穂用に加工オーダーするから楽しみにしておくように」
「……いつも大袈裟なんですよ、八雲さんは」
1
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる