鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏

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第三章

順序が違うけれど 4

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「日本は合成ダイヤが盛んな国だ。ダイヤは紛争や戦争と密接なジュエリーだから、そういうものが最近注目されている」
「今風な流れですねえ」
「沙穂は、そちらの方が好きか?」
「んー……」

 天然ダイヤモンドの産出はロシア連邦が世界一位を誇る。
 ダイヤが高いのはその硬質性だけでなく、採掘コストが高いことが一番の要因だった。

 採掘を行っている企業はロシアの国営企業で、希少ダイヤや質の良さが売りだ。

 この企業から買うダイヤモンドが世界的にステータスが高いとされていたが、現在は各国からの経済制裁、不買運動が続く。
 市場では、どう抜け穴を見つけロシア産を流通させるかという思惑が広がっているところだ。(2023年現在)

「ダイヤでなくても、いいです」
「……また元に戻ったじゃないか」
「お花のデザインを指に付けたいです。八雲さんがデザインしてください」
「……なるほど」

 東御はベッドの中で花森の左手を自分の右手に絡める。
 細い薬指をなぞりながら、指輪のデザインか、と急にワクワクしてくる自分に気付いた。

「ジュエリーデザインなど未知の領域だった。華道家が考えるジュエリーか。面白いな」
「言っておいてなんですけど、自分でデザインしたジュエリーなんてそう簡単にはできないですよね?」
「アテはある」
「あるんですか」
「仕事でたまに一緒になるフリーのプロダクトデザイナーに話してみよう」
「仕事で一緒になる??」

 東御はくすりと笑った。
 確かに営業マンとして知り合ったわけではない。花森には想像もつかないのだろう。

「大型展示などをする時に、プロダクトデザイナーと一緒になって構造物と花をどう調和させるかなどを話し合う。そういう仕事は楽しい」
「やっぱり、八雲さんて色んな事が出来るんですね」

 花森は「へえええ」と感嘆しながら、薄暗い寝室で目をキラキラさせている。

「別に、大したことはできないが……そうだな、華道に関しては中学の頃から仕事としてやってきた。キャリアは長い」
「私がほとんど何もできないので、ちょうどいいですね?」
「うん? ちょうどいい?」
「二人で、ひとり、みたいな?」
「単なる搾取になっているが」

 東御は堪えきれずに笑ってしまった。
 ちょうどいいと言うが、花森が単に何もできないだけだ。
 花森の得意なことを思い浮かべてみたが、「ありえないことをやらかす」というのが最初に浮かんでしまい東御は口にできない。

「なんで笑うんですか! なんで搾取なんですか!」
「そういうのは『ちょうどいい』とは言わない」

 相変わらず笑いを堪えている東御を見て、花森は眉を下げた。

「馬鹿にしないで下さいよ……」
「してない。相変わらずかわいいなと」
「そんな誤魔化し方は酷いです。怒りますよ?」
「すまなかった。ごめん。ほら、仲直りのキスだ」
「そんなぐずぐずな仲直りは嫌ですーー!!」
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