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第三章
婚約発表 2
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「確かに課長として新卒社員に手を出したのは感心できることではないが、恋愛に新卒も中途もベテランもあるか」
「開き直り方が潔いですね」
「相変わらず口の減らないやつめ」
肌の色に近い大判サイズの創傷パッドを首に貼り付け、花森は「やっぱり目立つじゃないですかああ」と落ち込む。
勘のいい人には気付かれるだろうが、相手も大人だ。
分かっていながら知らないふりをされそうで、それがまた気まずい。
「花森のことを知っていれば、単に変な怪我をしたんだろうなと思うんじゃないか?」
「……私は怪我で通します」
「うん、まあ、そうだな」
はあ、と花森は大きく息を吐く。
会社でオープンにした後、花森には異動が待っているのかもしれない。
三木と部署が離れるのはありがたいが、これまで築いてきた人間関係が一旦無くなるのは気が重かった。
*
二人が一緒に出社すると、事情を知っている那由多と松井が何かあったのかと目を見開く。
そのまま東御が花森を連れてどこかに向かったので、松井は昨日のことを思い出し花森を案じた。
「おはようございます。個人的なことでお時間を頂戴して恐れ入ります」
「いえ、これが仕事ですから」
東御は予め人事部に打ち合わせの時間を取っていたらしい。
人事部で働く三十代の女性社員がにこやかに二人を眺める。
眼鏡をかけて髪をスッキリ後ろでまとめており、「しっかりしていそう」な女性だなと花森は思っていた。
東御の部署で新卒社員に対するセクハラが起きたという話が人事部に報告があったばかりだったので、恐らくその件だろうと人事部の社員は思っている。
「実は、私は新卒社員の花森と入籍を予定しておりまして」
「んあ?!」
東御の話に、何かいけないものを踏んだような叫び声が上がった。
花森はその様子を見て、東御に限ってこんなことを言いに来るなんて誰も思っていないはずだとハラハラし始める。
「まだすぐではないのですが、周りにはオープンにしようと思っています」
「あ、ああ、そうですね。今、東御課長は直属の上司なんでしたっけ?」
「はい、OJT(仕事を通じて指導を行う現場教育)の担当は部下に任せていますが、直属は自分になります」
「それはちょっとまずいですね。花森さん……会社に入ったばかりで申し訳ないんだけど、うちは同じ部署に夫婦がいる環境にはしないんです」
「はい、東御さんよりうかがっています」
人事部の女性はにこやかにうなずいたが、心の中では「あのトーミーが新卒とにゅ、入籍って、入籍ってどういうこと?!」と混乱が収まらない。
「で、入籍のご予定はいつ頃ですか?」
「まだ具体的には決めていないのですが、お互いの実家と話し合って決めます」
「そうですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
隙のない返答をこなしていく東御の隣で、花森は縮こまりながらなんとかお礼を言った。
人事部の中で花森はガッツある女性という評価だったが、色恋とはあまり縁のなさそうな印象が強い。
更に東御は感情すらないと思われていた。
「開き直り方が潔いですね」
「相変わらず口の減らないやつめ」
肌の色に近い大判サイズの創傷パッドを首に貼り付け、花森は「やっぱり目立つじゃないですかああ」と落ち込む。
勘のいい人には気付かれるだろうが、相手も大人だ。
分かっていながら知らないふりをされそうで、それがまた気まずい。
「花森のことを知っていれば、単に変な怪我をしたんだろうなと思うんじゃないか?」
「……私は怪我で通します」
「うん、まあ、そうだな」
はあ、と花森は大きく息を吐く。
会社でオープンにした後、花森には異動が待っているのかもしれない。
三木と部署が離れるのはありがたいが、これまで築いてきた人間関係が一旦無くなるのは気が重かった。
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そのまま東御が花森を連れてどこかに向かったので、松井は昨日のことを思い出し花森を案じた。
「おはようございます。個人的なことでお時間を頂戴して恐れ入ります」
「いえ、これが仕事ですから」
東御は予め人事部に打ち合わせの時間を取っていたらしい。
人事部で働く三十代の女性社員がにこやかに二人を眺める。
眼鏡をかけて髪をスッキリ後ろでまとめており、「しっかりしていそう」な女性だなと花森は思っていた。
東御の部署で新卒社員に対するセクハラが起きたという話が人事部に報告があったばかりだったので、恐らくその件だろうと人事部の社員は思っている。
「実は、私は新卒社員の花森と入籍を予定しておりまして」
「んあ?!」
東御の話に、何かいけないものを踏んだような叫び声が上がった。
花森はその様子を見て、東御に限ってこんなことを言いに来るなんて誰も思っていないはずだとハラハラし始める。
「まだすぐではないのですが、周りにはオープンにしようと思っています」
「あ、ああ、そうですね。今、東御課長は直属の上司なんでしたっけ?」
「はい、OJT(仕事を通じて指導を行う現場教育)の担当は部下に任せていますが、直属は自分になります」
「それはちょっとまずいですね。花森さん……会社に入ったばかりで申し訳ないんだけど、うちは同じ部署に夫婦がいる環境にはしないんです」
「はい、東御さんよりうかがっています」
人事部の女性はにこやかにうなずいたが、心の中では「あのトーミーが新卒とにゅ、入籍って、入籍ってどういうこと?!」と混乱が収まらない。
「で、入籍のご予定はいつ頃ですか?」
「まだ具体的には決めていないのですが、お互いの実家と話し合って決めます」
「そうですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
隙のない返答をこなしていく東御の隣で、花森は縮こまりながらなんとかお礼を言った。
人事部の中で花森はガッツある女性という評価だったが、色恋とはあまり縁のなさそうな印象が強い。
更に東御は感情すらないと思われていた。
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