鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏

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第三章

婚約発表 1

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 東御が会社に二人の関係を正式に伝えると決めた日、朝起きた花森はくっきりと残る首筋の赤い痣に悲鳴を上げた。

「こ、ここここここんなあからさまにっ……!!」
「……沙穂は肌がきれいだから目立つな」
「感心しないで下さい! 誰のせいですか!!」

 怒って東御を叩きながら、洗面の鏡に映った自分に花森はただひたすら焦る。
 誰がどう見ても、これは虫刺されではない。本当にテープを貼る以外の隠し方もない。

「こんなところにテープを貼ったら目立つじゃないですかあああ!!」
「……いいじゃないか。どうせ癖の悪い彼氏のせいだ」
「開き直らないで下さいよ!!」

 半泣きの花森を見ながら、東御は優越感に浸る。
 口角が上がってしまいそうになるのを必死で隠そうと手で口元を覆った。

「もう! なんでさっきから楽しそうなんですか!!」
「……バレたか」
「反省の色が見られません!!」
「いや、いい眺めだなと……」
「信じられません!! ばかばかばかばかばか!!」

 東御は自分の身体をぽかぽかと叩く花森を見て、また笑ってしまう。
 必死過ぎてかわいい。両手を拘束して唇を奪った。

「誤魔化さないで」

 花森は泣きそうな顔に怒りを浮かべて東御を睨む。
 いよいよ迫ってくるのは出社であり、これから東御との婚約を社内でオープンにするのだ。
 首元に不自然なテープが貼られていれば何かしら思う人がいるに違いない。

「愛し合っている証拠だ。祝福してもらおう」
「もーーーー生々しいんですよ!! セクハラになります!!」
「沙穂」
「何ですか!!」
「早く一緒になりたい。沙穂を妻として堂々と連れて歩きたい」
「……ずるい」

 東御のやったことは許せなかったが、全ての行動に愛情がこもっているからタチが悪い。
 ずっと嬉しそうにしている様子も、他の人の前では見せない顔だと分かってしまう。
 本当に困っているのに、本気で怒ることができない。

「今日、ホントに……みなさんに言うんですか? その……私たちが」
「結婚する?」
「あー……」

 花森は手で顔を覆い、何度も葛藤しているようだった。
 社内で東御は感情がない男として知られている。女性との浮いた話もないと言われている。
 きっと社内中に噂が広まるのだろう。

「私、もしかして社内で有名になってしまうのでは……」
「別に、社内で結婚している人間だって珍しくないんだ。そんなに……」
「少なくとも私は八雲さんが社内恋愛をするタイプだとは思いませんでした」
「……確かにな」
「新卒に手を出すような中間管理職だなんて……」
「おい。感じが悪いぞ」

 話の雲行きが怪しくなってきた。花森の妄想がどんどんネガティブな方向に進んでいる。
 事実なだけに、東御にもダメージがきた。
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