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仲直りしたい
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ギィ、と蝶番が軋む音がして、抵抗なく扉が開く。そっと中を覗きこむと、大きな寝台の上で膝を抱えたタオが、座り込んでいるのがわかった。
「……タオ?」
部屋に入って、顔を伏せたまま動かない彼に近づく。尻尾の先がぴょこんと、彼の膝の間から見え隠れしていた。
「シズキ……」
寝台の前まで歩み寄ると、ようやく彼は声を発した。情けなくて、頼りない響きの声だった。
「シズキは牙や爪が怖いって聞いてたのに、目の前で暴れてごめんね。もう俺のことなんて嫌いになっちゃった?」
「そ、そんなことはないよ! 僕こそごめんなさい、隠れてろって言われたのに勝手な真似をしてしまって」
「ううん、奇怪獣がいるってわかった時点でもっと強く止めていれば、シズキを危ない目にあわせることはなかった」
「僕がどうしてもハオエンと話しあいたいって言ったせいだから、どうか気に病まないで」
「……」
タオはそれきり黙り込んでしまった。静樹に拒否されたことがよほど堪えているらしい。なんとか元気づけたくて、寝台の上に膝立ちで乗り上がった。
「本当に違うんだ、反射的に怯えてしまっただけで、タオのことが嫌いになったりしていないよ」
「……本当に?」
拗ねたような声が、俯いたまま視線があわない彼から発せられる。どうしようもなく気持ちが揺さぶられて、彼を抱きしめてあげたくなった。
ためらう指先と反射的に震える身体を、両手を握りしめて宥める。静樹は思いきってタオの背中を抱きしめた。彼が驚いてヒュッと喉を鳴らす音が聞こえる。
「……っ」
「タオ……」
震えを誤魔化すようにして、更に強く抱きしめる。温かで柔らかな毛皮の感触と、その下にある逞しい筋肉を感じた。
(大丈夫だ、大丈夫……彼は恐ろしい獣じゃなくて、僕が心から信頼している獣人のタオだ。痛いことなんてなにもない、僕を守ってくれる人だ)
タオの温かさが静樹の腕を通して、全身に広がっていく。いつしか震えはおさまっていた。
彼を抱きしめてこれ以上ないほど密着していると、伝わる温かさがとても心地よいことに気づく。もっと触れ合いたくなって、ペタリと寝たままの耳の先を撫でてみた。
「……っ、シズキ?」
「ねえ、タオ……僕のことを抱きしめてみて」
「……いいの?」
「うん。そうしてほしいんだ」
タオの大きくて、毛皮と肉球で構成された手が控えめに静樹の肩に触れる。
膝を広げて胡座をかいた彼の膝に乗り上がると、真綿で包むように抱きしめられて、ホッと息を吐いた。
「温かい……」
首筋に顔を寄せると、彼の体臭が仄かに香る。獣くさいのにいつまでも嗅いでいたくなるような、中毒になりそうな匂いだ。
すんすんと鼻先を擦りつける。もうちっとも怖くなかった。タオはくすぐったそうに身じろぐ。
「あの、シズキ」
「なに?」
「そんな風にされると、元気になっちゃうから控えてもらえると嬉しいんだけどな、なんて……」
目を逸らしながら告げられて、視線を股の間に向けた。こんもりと持ち上がっているのがわかる。
「友達でいてあげたいのに、そんな風に可愛く懐かれるとできなくなっちゃうから、そろそろ離れてほしいというか……いや、離れたくはないんだけれど!」
静樹だってまだ彼とくっついていたかった。それどころか、もっと近づきたいと思っている自分に気づく。
「……友達じゃなくても、いいかもしれない」
「え?」
「タオ……」
静樹は自分が彼にしたいことを脳内で思い浮かべて、思わず頬を染めた。
(恥ずかしい、けど、でも……)
このまま離れて友達の距離感でいるよりも、一歩先に進みたい。恐ろしさとは別の理由で震える両手をタオの両頬に添えて、顔を近づけていく。
「……んっ」
いつも微笑んでいるような口元に、唇を押しつけた。
濡れた鼻に鼻先が当たって、驚いてすぐに口を離してしまったけれど、間近で見た彼はもっと驚いた顔をしていた。海色の瞳を限界まで見開いている。
「え、えっ、シズキ⁉︎ 友達じゃなくてもいいって、そういう意味?」
言葉にするなんてとてもできなくて頷くと、すごい勢いで肩を引き寄せられた。
「……タオ?」
部屋に入って、顔を伏せたまま動かない彼に近づく。尻尾の先がぴょこんと、彼の膝の間から見え隠れしていた。
「シズキ……」
寝台の前まで歩み寄ると、ようやく彼は声を発した。情けなくて、頼りない響きの声だった。
「シズキは牙や爪が怖いって聞いてたのに、目の前で暴れてごめんね。もう俺のことなんて嫌いになっちゃった?」
「そ、そんなことはないよ! 僕こそごめんなさい、隠れてろって言われたのに勝手な真似をしてしまって」
「ううん、奇怪獣がいるってわかった時点でもっと強く止めていれば、シズキを危ない目にあわせることはなかった」
「僕がどうしてもハオエンと話しあいたいって言ったせいだから、どうか気に病まないで」
「……」
タオはそれきり黙り込んでしまった。静樹に拒否されたことがよほど堪えているらしい。なんとか元気づけたくて、寝台の上に膝立ちで乗り上がった。
「本当に違うんだ、反射的に怯えてしまっただけで、タオのことが嫌いになったりしていないよ」
「……本当に?」
拗ねたような声が、俯いたまま視線があわない彼から発せられる。どうしようもなく気持ちが揺さぶられて、彼を抱きしめてあげたくなった。
ためらう指先と反射的に震える身体を、両手を握りしめて宥める。静樹は思いきってタオの背中を抱きしめた。彼が驚いてヒュッと喉を鳴らす音が聞こえる。
「……っ」
「タオ……」
震えを誤魔化すようにして、更に強く抱きしめる。温かで柔らかな毛皮の感触と、その下にある逞しい筋肉を感じた。
(大丈夫だ、大丈夫……彼は恐ろしい獣じゃなくて、僕が心から信頼している獣人のタオだ。痛いことなんてなにもない、僕を守ってくれる人だ)
タオの温かさが静樹の腕を通して、全身に広がっていく。いつしか震えはおさまっていた。
彼を抱きしめてこれ以上ないほど密着していると、伝わる温かさがとても心地よいことに気づく。もっと触れ合いたくなって、ペタリと寝たままの耳の先を撫でてみた。
「……っ、シズキ?」
「ねえ、タオ……僕のことを抱きしめてみて」
「……いいの?」
「うん。そうしてほしいんだ」
タオの大きくて、毛皮と肉球で構成された手が控えめに静樹の肩に触れる。
膝を広げて胡座をかいた彼の膝に乗り上がると、真綿で包むように抱きしめられて、ホッと息を吐いた。
「温かい……」
首筋に顔を寄せると、彼の体臭が仄かに香る。獣くさいのにいつまでも嗅いでいたくなるような、中毒になりそうな匂いだ。
すんすんと鼻先を擦りつける。もうちっとも怖くなかった。タオはくすぐったそうに身じろぐ。
「あの、シズキ」
「なに?」
「そんな風にされると、元気になっちゃうから控えてもらえると嬉しいんだけどな、なんて……」
目を逸らしながら告げられて、視線を股の間に向けた。こんもりと持ち上がっているのがわかる。
「友達でいてあげたいのに、そんな風に可愛く懐かれるとできなくなっちゃうから、そろそろ離れてほしいというか……いや、離れたくはないんだけれど!」
静樹だってまだ彼とくっついていたかった。それどころか、もっと近づきたいと思っている自分に気づく。
「……友達じゃなくても、いいかもしれない」
「え?」
「タオ……」
静樹は自分が彼にしたいことを脳内で思い浮かべて、思わず頬を染めた。
(恥ずかしい、けど、でも……)
このまま離れて友達の距離感でいるよりも、一歩先に進みたい。恐ろしさとは別の理由で震える両手をタオの両頬に添えて、顔を近づけていく。
「……んっ」
いつも微笑んでいるような口元に、唇を押しつけた。
濡れた鼻に鼻先が当たって、驚いてすぐに口を離してしまったけれど、間近で見た彼はもっと驚いた顔をしていた。海色の瞳を限界まで見開いている。
「え、えっ、シズキ⁉︎ 友達じゃなくてもいいって、そういう意味?」
言葉にするなんてとてもできなくて頷くと、すごい勢いで肩を引き寄せられた。
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