三男のVRMMO記

七草

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25、三男、褒められる

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なんだか今後は夜の更新になりそうです<(_ _)>


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パンをオーブンで焼いている間、昼食で出す料理を作るために俺とレオンさんはまた調理台に立った。

「何を作る予定なんですか?」
「……野菜のスープと、ドードリとジャガイモのトマト煮だ」

レオンさんは作るものを言いながら、それに使う材料を並べていく。
鑑定しなくてもじっと見れば名前は分かるので、とりあえず一通り見てみた。
野菜スープに使うのは玉ねぎ、人参、キャベツで、ドードリは何かのお肉だった。
果物と違って、野菜は現実と同じ名前なんだな。
見た目も同じだし、わかりやすくて助かる。
流石にドードリに感してはレオンさんに聞いておこう。

「このドードリって、モンスターですか?」
「…ああ。卵を産む羽のあるやつだ。飛べないが。…この街の外れでも飼われてたはずだ」

卵を産んで、羽があって、飛べない生き物。
飼われてるってことは、ノンアクティブモンスターなんだろう。
鶏しか思い浮かばない。
なんかお肉も鶏肉っぽいし、それと考えても良さそうだな。
目の前の食材について考えてたら、マリが目の前の食べ物の山に鼻をひくひくさせているのを感じた。
マリ、この状態でも食べたいの?

「マリ、これからもっとこの食べ物たちが美味しく変身するからね」
「きゅ?!ぴーきゅ!」

俺は嬉しそうな声を上げたマリに微笑んで、肩から降ろす。
パン作りのときはこねたり混ぜたりするだけだったから安全だったけど、今回は包丁も使うし火も使うから、流石に危ないよね。
マリが落ちるとは思わないけど、万が一があったらやだし。

「マリはちょっと離れたところにいてね?」
「きゅ…」
「大丈夫だよ。ちょっとだけだから。ね」
「きゅ~…ぴ!」
「ありがとう、マリ」

マリを降ろしたら少し寂しそうに鳴いたけど、手にすり寄ってきた頭を撫でて、お願いする。
マリは少しだけ悩んだみたいだけど、いいよと返事をしてくれた。
そしてマリが調理台の離れたところに行ったのを見て、レオンさんが声をかけてきた。

「…カスミは、スープを頼む」
「はい!任せてください」
「きゅっぴ!」
「うん。ありがとう、マリ」

まさか完全に任されるとは思ってなかったけど、さっきのパン作りで認めてくれたのだろうか。
もしそうなら嬉しいし、そうでなくても任せてくれたのだから頑張らないとな。
マリも応援してくれてるし、美味しいスープを作ろう。
俺はそう決めて、調理台にある野菜を手に取った。
調味料は塩、胡椒、鶏ガラ、コンソメだ。
調味料も現実と同じみたいでよかった。
そう思いながら、俺は調理を始める。
まずは野菜を洗ってから皮を剥いていく。
流石にピーラーはなかったから包丁でだけど、現実でも基本的に包丁でやってるから慣れたものだ。
人参は薄めの半月切りに、玉ねぎは繊維を切るようにしてこちらも薄めに、そしてキャベツはザク切りにしていく。
切り方は気分としか言えないけど、今回は玉ねぎの甘さを出したかったからこの切り方にして、人参とキャベツは彩りを重視してみた。
野菜を切り終えたので、鍋に水を入れて火にかける。
先に野菜に火を通すやり方もあるけど、俺はじっくりと柔らかくしていきたい。
まずは水に玉ねぎと人参を入れて煮ていく。
水が温まってくつくつと優しい音を立てるのを耳で聞きながら、レオンさんの方を見てみた。
レオンさんはドードリの肉とジャガイモ、そしてトマトを切っていた。
流石は料理人だ。手つきに一切迷いがない。
俺はそんなレオンさんの手つきに見惚れる自分を感じた。
いつかあの包丁さばきも教えてもらいたいな。
そんな俺の視線に気づいたのか、スっとレオンさんが振り向いてこちらを見た。
俺はその動きに驚いてしまい、視線を外すことも出来ずにただ棒立ちになる。
当然だけど、レオンさんと視線がぶつかった。

「…どうした?」
「え、あの……レオンさんの包丁さばきが、凄かった、ので…」

とっさに上手い言い方も思いつかなくて、普通に答えてしまった。
もちろん途中でやらかしたなと思ったのだが、ここで止めるわけにもいかずに声が小さくなりながらも続けた。
恥ずかしい。普通に恥ずかしい。

「……ありがとう」
「ーー!」

レオンさんはそんな俺に優しく微笑んで、そう言ってくれた。
俺はその表情にさらに恥ずかしさが増してしまい、つい俯く。

「…いえ。その…こちらこそ」
「………」

自業自得とはいえ、少し気まずい。
どうしようかと思考をめぐらせていたら、それを打ち消すようにマリがぴっと鳴いた。

「…マリ?」
「ぴ!ぴゅい!」
「どうしたの?」
「ぴーきゅ!」

マリは何かを訴えるように鳴いてくる。
なんとなくタイミングを見ると助けてくれたように思えたけど、それだけじゃないみたいだ。
マリは調理台の上で食材に引っ付いていた。
そしてなんとなく、お腹すいたのかなと言うことに気づいた。

「マリ…お腹すいたの?」
「ぴ!ぴぃー!」

当たりみたいだ。
マリはそう!と言わんばかりに飛び上がっては調理台の上で跳ねる。
そんなマリを見てたら、さっきまでの気まずさなんてどこかへ消えてしまった。

「マリ、ごめんね。もう少し待っててね」
「きゅぅ…」

悲しそうに鳴くマリに俺も切なくなる。
昨日作った唐揚げが残ってたはずだし、一つだけ取り出して渡すことにしよう。
俺はストレージから昨日作った唐揚げのオレンジ風味の方を取り出して、マリに渡した。
マリはそれを嬉しそうに受け取って、調理台の上でぬいぐるみのように座って小さな口で頬張り始めた。
マリの食べ方って本当に可愛いと思う。
俺はそんなマリを見て少し癒されてからレオンさんに一声かけて、改めて鍋に向かう。
鍋の中では人参と玉ねぎがゆらゆらと踊っていて、火が通っているのを確認する。
そして切っておいたキャベツを入れて、再び煮る。
人参と違ってキャベツは直ぐに柔らかくなるから、今度は鍋から視線を外さないでお玉でくるくるとゆっくり混ぜながら煮ていく。
キャベツがしんなりとしてきたら、鶏ガラとコンソメを入れて味をつけ、最後に塩と胡椒で味を整える。
味見用の小皿が置いてあったから、ありがたく使わせてもらおう。
お玉でスープを小皿に入れて、ふ~と少しだけ冷ましてから味見をする。

「んー…うん。いいかな」

野菜の甘みを感じるスープの味に満足して、火を止めて鍋に蓋をした。
そして別のところでトマト煮を作っていたレオンさんに声をかける。

「レオンさん、終わりました」
「……分かった。少し待ってろ」

そう言ってトマト煮を完成させたレオンさんが俺の方に向かってくる。
レオンさんは俺が作った野菜スープの鍋の前に立ち、蓋を開けた。
その瞬間、レオンさんがふわっと立ち込めた湯気に目を細めたのが見えた。
そしてお玉でさっき俺が使った小皿にスープを入れ、飲んだ。
俺はその間、心臓がバクバクと音を立てているのを聞きながら待った。
緊張するなんて、久しぶりだ。
レオンさんはスープに視線をやって、お玉でくるりと混ぜたあと、再び蓋をした。
そして俺の方を向き、スっと腕を俺の頭の上に持ってきて、ぽんっと大きな手を俺の頭にのせた。

「…え?」
「……………」

レオンさんは戸惑う俺を気にせずに俺の頭を撫で続ける。
そして一言、美味かったと呟いたのが聞こえた。

「ほんと、ですか?」
「……ああ」
「ダメなところとか…」
「…特にない」
「でも…」
「…確かに俺の味とは、違う。だが、優しい味だった」

よくやった、と言ってさらに撫でてくれる。
人に頭を撫でられるなんて、いつぶりのことだろうか。
なんだか心が暖かくなって、気持ちがふわふわとしてくるのを感じた。
この年になって頭を撫でられるのは恥ずかしいけど、褒められるって嬉しいんだな。
俺はふわふわとした気分のまま、顔が自然と笑顔になっていくのを感じた。

「レオンさん、ありがとうございます」
「…ああ」

俺がそういうと、レオンさんは頭を撫でていた手を降ろして、もう一度よくやったなと言ってくれた。
俺はそれにはいと応えてから、すでに唐揚げを食べ終えていたマリを迎えに調理台に向かう。
顔は緩んだままだけど、これは当分戻りそうにないな。
マリはそんな俺の顔を見てすこし不思議そうだったけど、直ぐに俺と同じように嬉しそうな様子になって花びらを飛ばした。
俺が喜んでたから、マリも同じ感情になったのかな?
なんか以心伝心みたいで嬉しいかも。

「マリ、お待たせ」
「きゅ!」
「待っててくれてありがとうね」
「ぴゅい」

俺はマリを腕に抱えてさっきレオンさんがしてくれたようにマリを撫でた。
マリはそれに気持ちよさそうに目を細めて、自分から手に擦り寄ってくれた。
俺はマリをまた少し撫でてから肩に乗せて、レオンさんにお待たせしましたと言いながら近づいた。

「…そろそろ、パンが焼ける」
「あ!そうですね!」
「きゅぅ!」

待ちに待ったパンの完成だ。
俺はレオンさんと一緒にオーブンの前に立ち、完成を待つ。
そしてそれから少しして、レオンさんがオーブンを開けてパンの乗った天板を取り出した。
その瞬間、小麦粉の優しい甘い香りがふわっと辺りに広がったのを感じた。
この店を包む優しい匂いだ。
俺はその匂いに包まれながら、教えてくれたレオンさんに感謝しつつも、マリと完成を喜びあった。
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