義手の探偵

御伽 白

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宝探し

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 至福のときを過ごした玲子は、両手を合わせてパフェへの感謝を込めて挨拶をすると口の中に広がる余韻を楽しんでいた。中々、高額で手が出なかったが自腹を切ってでも支払う価値のあると思えるデザートであった。縁結びについて聞いてくるだけで、デザートがタダで食べられるのなら安いものだ。
(また、今度注文しよう)
「あ、玲子。食べ終わった?」
「至福だった。誠は食べなかったの?」
「いや、あの量のデザートをペロリと食べちゃうのは玲子ぐらいだよ。僕は普通にケーキセット」
「もったいない。香穂の奢りなのに」
「いいよ。別に大したことしてないし、幻想遺物アーティファクト を見れたしね」
 誠は古物商を営んでいるが、幻想遺物も何度か取り扱ったことがあるのだという。品自体は、玲子や縁結びの針のように強力な者ではなく、必ず事前に宣言した出目になるサイコロや周囲の温度が低くなる風鈴など大した代物ではない。しかし、不思議な道具の魅力に惹かれて、調査をしている。
「出来れば欲しいけど、強い力を持つ幻想遺物は、人を選ぶからね。僕じゃ使えないかもしれないし、見れただけでも満足かなぁ」
「・・・・・・オタク」
「まあ、否定できないよね。都市伝説とか噂話とかも幻想遺物が関係しているかと思うと調べちゃうし」
「それに付き合わされてる私は苦労する」
「協力関係じゃないかな⁉︎ 玲子の腕を治すには、それ関係の幻想遺物が必要なんだし」
 幻想遺物を探したい誠と腕を治したい玲子は、目的が一致している。
「まあ、たしかに今のところは、めぼしい幻想遺物に出会えてはいないけど、必ず探し出してみせるよ。もしかしたら、幻想遺物を探す幻想遺物なんて便利な物があるかもしれないし」
 玲子は否定も肯定もせずに、コーヒーを飲んだ。幻想遺物を探す幻想遺物も存在を否定するほど玲子も幻想遺物について知っているわけではない。
 幻想遺物の種類は数え切れないほど存在している。同じような効果を持つ物もあり、その数は玲子達が考えているよりもずっと多い。
 一般人が知らず知らずのうちに所有している場合もある。幻想遺物は適正があれば、奇跡に近い力を得られるが、適正がなければ、ただの道具である。
 それが何故生み出されるのか。どうやって生み出されるのかは、謎に包まれている。確かなのは、その道具に強い想いが込められているということである。
「それで次の目星は付いてるの?」
 玲子は今後の予定を確認しようと誠にそう尋ねた。
「いや、目ぼしいのは、回ったしね。遠出するのも入れれば、なくはないんだけどね。」
 誠の人脈は確かに広いが、街の中ではというレベルだ。それでも異様ではあるが、他の街などになれば、その比率は離れれば離れる程にどんどん少なくなっていく。情報の収集率も自ずと少なくなっていくのだ。
「幻想遺物のために遠出するのは、僕としてもやぶさかではないんだけどね。ただ、経費で落ちないからなぁ。」
 何をするにも金は必要だ。遠出するとなれば、なおさらで、誠は車を持っているため、多少の距離ならそれほど費用はかからないが、それ以上になると飛行機や電車を使うため、どうしても費用がかかる。
「玲子は、気になる情報とかないの?」
「誠が知らない情報を私が知ってると思う?」
「それもそうだ。でも、甘味の店なら行きつけもあるし、そこで、他の人が話しているのを聞いたりとかは?」
「デザートを食べているのに他の音が聞こえるの?」
「・・・・・・聞いた僕が馬鹿だったね」
 デザートに全神経を集中させている玲子が、隣の席の人の会話などに注目するはずもない。誠は小さく溜息を吐いた。
「でも、探偵業の方は? 依頼とか来ないの?」
「・・・・・・」
 玲子は探偵の仕事をしている。と言っても事務所などがある訳ではなく、相談には自宅を使っており、手作りのホームページでお世辞にも出来が良いとは言い難い代物だ。閲覧数を示すカウンターも一日に一桁程度しか増えていない。
 そもそも無名の宣伝もやっていない胡散臭いサイトに問い合わせる人間など藁にも縋るような気持ちになっている追い詰められた人間ぐらいだ。
 玲子はスマホで自分のサイトを確認するが、相変わらず情報提供や相談はなかった。玲子の反応を見て察したのか誠は、気まずそうに視線を泳がせる。
「まあ、ないならないで良い。急ぎでどうこうって訳でもないし」
 そもそも、すぐに腕を治せるなら、今頃は普通の腕で生活している。持久戦になることは玲子も分かっている。
 確かに弊害も多いが、日常生活に支障をきたす訳ではない。手袋をすれば人目には分からない。動作も非常にスムーズで生身の左腕と比べても遜色ない。
 要するに玲子としては、いつかは戻したいが急ぎではない目標である。
「それに家に出ないから別にあまり関係ない」
「それはもうちょっと出た方がいいと思うけどね」
 相変わらずの玲子に誠は、大きく溜息を吐いた。
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