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12.捏造された罪で公然と断じられた

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「君が……不特定多数の令息と、その……深い仲にあると」

 言葉を選びながら、お兄様は何とか言い切った。それでも何度も口籠り、唇を舌で湿らせながら。悔しそうに顔を歪める姿に、他人事のように「お辛いでしょうね」と思った。実感がないから、他人事に感じるのだろう。

 深い仲、つまりは婚約者以外に体を許した。公然とそう罵られたという意味ね。自分の罪を他人に着せる、それも冤罪――こんな男が未来の国王だなんて世も末だ。この程度の王太子だから、私が選ばれたのだろう。

 この国で王族に嫁げる公爵令嬢は私一人だ。もう一人、他家に令嬢がいるけれどまだ五歳の幼さだった。王太子殿下の地位と今後の王位への道筋を整えるために、私は貴族令嬢の中から選別されたんだわ。

 公爵家が妻の実家となれば、王位は安定する。国王陛下も王妃殿下もそれを狙ったのだろう。いつ婚約したのか確かめていないけれど、幼い頃に決められた可能性が高かった。私の為ではなく、彼の為の婚約だ。

「……その先も教えてくださいませ」

 腹に力を籠め、深呼吸して声の震えを押さえた。動揺を表に出してはいけない。父や兄が言葉を濁したり、誤魔化す原因になりたくなかった。彼らは覚悟を決めて話している。私に嫌われることも、己の罪と向き合うことも受け入れた。せめて足を引っ張りたくない。

「すぐに否定した。アリーチェは毅然とした態度で、証拠はあるのかと尋ねたんだ。王太子の顔が歪んで、騎士にあり得ないことを命じた。反逆罪と不敬罪で死刑にしてやると騒ぎ、アリーチェを床に……っ!」

 握り過ぎた拳がぶるぶると震え、兄の手に血が滲む。感情が高ぶり過ぎた彼は痛みを感じていない様子だった。

「お兄様、手が傷ついております」

「あ、ああ。ありがとう」

 我に返ったように力を緩めた兄だが、胸元のハンカチを巻かずに握っただけ。後ろで執事が迷う。だが重要な話の最中であるため、壁に徹すると決めたらしい。姿勢を正した。

「そこからは俺が話そう、カリスト」

 視線を父に移す。兄とそっくり同じ青い瞳がゆっくり瞬き、私を映し出した。澄んでいて綺麗だわ、場の状況に似合わぬ感想を抱く。

「騎士は屈強な男ばかりだ。一部女性騎士もいるが、夜会で命令に従ったのは男達だった。か弱いリチェを床に引き倒し、その上に体重をかけて腕を捩じった。か弱い令嬢に対する行為じゃない。圧迫されて息が止まり、骨折してもおかしくないのだぞ! 騎士として断じて許されん。痛みに悲鳴を上げたお前に駆け寄った俺は、頭に血が上りすぎていた。両側から押さえられ、後頭部を殴られ動けなかった。何とも情けない」

 騎士団長と剣を交えるほど鍛えたと聞く父も、武器なしで複数の騎士に襲われれば不覚を取る。それも娘の惨事に冷静さを失った状態なら、仕方ない。首を横に振って最後の言葉を否定した。

「俺とお前は別々に部屋に閉じ込められた。国王陛下の指示で解放された俺が駆け付けた部屋で、アリーチェは……毒を……くそっ、あれは絶対に違う。無理やり飲まされたんだ」

 自分で飲んだんじゃない。そう否定する父は悔しそうに椅子のひじ掛けを叩いた。ヒビが入りそうな音がして、身震いする。この音、何だか怖い。

「父上、落ち着いてください。リチェが怖がります」

 呼吸を整え、私は思い出せない記憶の一部であろう話を促した。この先もすべて聞かなければ、そう強く思いながら顔を上げる。

「お兄様は、どうしていらしたの?」
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