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13.パパに何か言葉を残そうとしたの

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 押さえつけられ、苦しかった。冤罪なのにと悲しかった。記憶が蘇ってくる。

 パパの声が聞こえて、何か言おうとしたの。だってパパが泣くかと思ったから。そうしたら、今度はにぃにの声がして……友人の悲鳴や叫び声。

「あの時、パパに何か言葉を残そうとしたわ。悲しまないで、ごめんなさい。たぶん……そんな感じ。にぃにやメイベル様の声がして」

 首がない己の体を見て記憶が途切れた。冗談みたいに赤い血が視界を埋め尽くし、死んじゃうのね、と。

「こんな終わり方は嫌だって、叫んだ気がする」

 ぽつりと付け加えた。しんとした食堂で、ママが立ち上がる。長いテーブルを回り込み、私を抱き上げた。食事の手は止まっていたし、構わない。触れた温もりに涙が溢れた。

「私、死にたくないと思ったの、かな」

「そうね。その願いが強かったから、私の魔力と合わさって爆発したの」

 爆発? 比喩表現かな。

「本当に爆発したんだ。それも周囲の王侯貴族を巻き込んで、驚くほどの規模だった」

 パパが大きく長い息を吐いて、そう教えてくれた。物理的に吹き飛んだ大広間は、多くの死傷者が出たらしい。不思議なことに、家族や親友にケガはなかった。爆心地……と言っていいのか、私の首を抱いたママも傷ひとつなかったんですって。

「あの爆発でメレディスが亡くなり、聖女リリアンが負傷した。彼女が聖女と呼ばれた理由を覚えているか?」

「うん、治癒魔法が出来たのよ」

 よく出来たと、にぃにが微笑む。そういう表情をすると、別れる前にそっくり。普段から笑っていれば、お嫁さんもすぐ来そう。

「爆発以降、あの女は治癒魔法が使えなくなった」

 え? 驚いて固まる。ママの国でも治癒魔法を使える人は珍しくて、だから聖女の称号を授けて国に縛りつけた。国王陛下の政治的な決断で、王宮に住まいを得たんだよね。それが使えなくなった?

「なんでだろう」

「……お腹にいた胎児に、魂が入ったからよ。能力が継承されたの」

 この国に魔法の概念がなく、私も大した魔法は使えなかった。魔力はあるけれど、使い方を知らなかったと表現するのが近い。だから、きちんと魔法を覚えたら何が出来たのか。もしかしたら治癒魔法も使えたかも。

「国王は別の意味に取ったわ。メレディスの婚約者を殺したことで、聖女が神の恩寵から見放された、と考えたの」

 ママはふふっと笑う。その意味ありげな微笑みに、裏事情を悟った。公爵家に嫁いだ隣国の王女は、社交界の華だわ。家柄、血筋、権力、美貌……すべてを備えた淑女だもの。その人が裏でこそりと呟いたら、一瞬で拡散されたでしょうね。

 つまり聖女が神に見放された部分は、ママが後から仕込んだ策略だ。淑女って怖い。

「だから神罰よと囁いて、この国を滅ぼしてやったわ」

 うわぁ……やっぱり王城がボロボロに見えたのは、ママ達が報復した結果だったんだ。よくリリアンが殺されなかったよね。
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