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38.にぃにと私の秘密だね

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 話を聞いてしばらく、私は動けなかった。にぃにの抱っこに甘え、涙が止まるまでそのまま過ごす。ただの逃げだけど、にぃには許した。

 いつもそう。とても大切にされてきたし、愛されていると感じた。ママもパパも、にぃにや親友のメイベルも、誰もが優しい。今なら乳母のエイミーや侍女のローナもいる。首を落とされたりしたけど、私は恵まれていたのね。

「失礼します。眠いようでしたら、お嬢様をベッドにお運びしましょうか」

 エイミーの声かけに、にぃにはゆっくり首を横に振った。その動きで、私はようやく顔を上げる。視線が絡んで、大丈夫だと笑顔を浮かべた。無理してないよ、心配しないで。

「あらやだ、出かけるんじゃなかったわ。私の小さなお姫様の目元が腫れてるじゃない」

「え? 本当だわ。キース様ったらグロリアを泣かせたのですか」

 帰宅したママとメイベルに責められ、慌てるにぃに。くすくす笑いながら、私は大事な兄を庇った。

「違うの。昔の話をしたら笑いすぎて、涙出ちゃったの。お腹も痛いのよ」

 疲れるほど笑った。そう誤魔化して、抱き上げるママにしがみ付く。後ろからメイベルが私の旋毛にキスをした。擽ったい。

「美味しいお菓子を買ってきたわ。食べましょう」

「そうそう、グロリアのリボンも買ったのよ」

 暗くなりかけた雰囲気を救った二人と両手を繋ぎ、短い足でてくてくと進む。後ろでにぃにが苦笑いした。ごめんね、悪役にしちゃった。振り返った私に、にぃには唇を人差し指で押さえる。この仕草は「内緒」や「秘密」の合図だ。

 久しぶりに見たな、その合図。ママに内緒でおやつを食べた時や、パパの花瓶を壊して隠した時に使ったっけ。懐かしさに頬が緩んだ。全員で居間へ移動し、床の上にトレイを並べてお茶を飲み始める。もちろん靴は脱いで、楽な姿勢で絨毯に座った。

「このスタイル、この国でもやっと広まってきましたね」

 流行に敏感なメイベルは、以前から羨ましいと口にしていたけど、屋敷で行う勇気はなかったという。それがブラッドリー国の領地となり、併合されたことで文化も融合し始めたとか。一緒にくつろぐママは、ドレスのベルトやリボンも緩めていた。

「聞きたい話は聞けた?」

「うん」

「ならば、明日は外へ出かけましょう」

 ママはまだお買い物が足りないのかと首を傾げる。もう私の服は届くのを待つばかりだし、特に夜会もないから買わなくていいよね。そう思ったけど、口にしなかった。金持ちや貴族が散財するのは、民への施しのひとつなの。蓄財に夢中になったら、平民の暮らしは苦しくなるから。

 適正に支払って、技術の育成や……何だっけ。とにかく職人さんやその周辺の人々が暮らしていけるように、手助けするのも貴族の義務だと聞いていた。前世は実践もしていたわ。絵描きさんが綺麗な絵を描いても、一般の人は買わない。だから貴族が買い上げて、彼らの生活を支えるのよね。

「そろそろ孤児院や学校への寄付も始めようと思うの」

 国の根幹である王宮の執政が止まったことで、隣国からさまざまな支援が入った。まずは衣食住から始まり、ようやく教育や福祉に手が回るようになったのかな。そういう外出なら、私も手伝いたい。

 買ってきてもらったミニケーキを、フォークで半分にして口に放り込む。ちょっと大きかったかも。パンパンになった頬を両手で包んで、食べ終わるまで押さえた。
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