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本編
第十九話 恋は野馬追(?)
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「うわーっ!結構印象変わるね!」
三月の初めごろ、野馬追部厩舎に結那の素っ頓狂な声が響き渡る。
「結那はいつもうるさいなぁ。鬼鹿毛もよく入れ込み気味でバタついてるし」
「でも、結那が叫びたくなる気持ちもわかるよ。ほら、あれ・・・・・」
わたしの愚痴に、友里恵が結那とその隣の男子を指さした。
「まさかあの光太がメガネ外してコンタクトにするなんてね~」
友里恵の視線の先には、これまでのメガネを外し、コンタクトレンズに変えた光太。
「いったいどんな風の吹き回し?」
わたしは光太の横に歩み寄ると、その肩に手を置いて問う。
「いや、色々あってね。進路として考えてるとこが視力矯正をコンタクトしか認めてなくて・・・・・」
光太が言うけど、わたしはそんな進路二つしか知らない。
「光太?」
わたしは光太の目をまっすぐ見据えて言う。
「もしかして、日本中央競馬会か地方競馬全国協会の競馬学校を受けるつもり?」
「あさひには何でもお見通しだね・・・・」
光太が苦笑して言った。
「今のところ、JRAの競馬学校を目指してる」
確かに、JRAの競馬学校の受験資格、年齢に関しては十六歳から二十歳にまで門戸が開かれている。だけど・・・・
「今からじゃ、少し遅すぎない?」
わたしが言うと、、光太は首を横に振った。
「いや、物事に早いも遅いもないよ。それに、騎手は僕の夢だったんだ」
「そうなの?」
わたしの問いにうなずく光太。
「幼いころからジョッキーに憧れて、親を説得して、そして野馬追部で乗馬の練習を積んだ」
そして、まっすぐわたしの目を見つめて言った。
「いまさら、諦めることなんてできない。一度決めたからには、絶対に受かってやる」
「そう・・・・・」
わたしはそう言うと、右手を振り上げ・・・・・・
バチン!
光太の背中を思いっ切り叩く。
「痛っ!?」
「頑張って、必ず合格しなさい!闘魂注入したやったんだし」
驚く光太にそう話しかけると、わたしは天照の馬房に向かった。
ダカッ、ダカッ、ダカッ・・・・・
固く締まった地面を蹄が蹴る音。
「ブルル、ブルル」
天照の荒い鼻息。
「ホーホー・・・・」
わたしはひとしきり走ると、天照の手綱を引いて歩様を並足に抑えた。
ダカッ
背後で蹄の音が聞こえ、振り返る。
「あさひ。お疲れ様」
オーディルルドにまたがった友里恵が、わたしの横にルルを寄せてきて言った。
「ちょっとだけ、外乗に行かない?」
わたしはうなずくと、天照の腹を蹴り、速度を上げる。
カポッカポッ・・・・・
野馬追部の厩舎エリアを出て、アスファルト舗装の校内を二人で馬を並べて歩いた。
「お疲れ様で~す」
「お疲れ様です」
校門近くで草刈りをしている用務員さんに一声かけ、門の外に馬を乗り出す。
ポン!
わたしは天照の腹を蹴り、速度を速歩に上げた。
ダカッ、ダカッ・・・・
背中の揺れが大きくなるから、少し鐙を踏ん張って腰を浮かせる。
「あさひ~」
友里恵がルルの馬上から声をかけてきた。
「今日はどこ行くの?」
「浜に行こうかなって思ってる」
そういうと同時に、わたしは友里恵に手のひらを向け、天照の手綱を引いた。
「ホーホー」
友里恵もルルの手綱を引き、わたしの後ろに止まる。
カンカンカンカン・・・・・
磐城太田駅の近く、常磐線の踏切が列車の接近を告げていた。
ファ~ン!
警笛を鳴らし、白い車体にピンクの帯を巻いた仙台行きの特急「ひたち」が駆け抜ける。
「ブルルルルルルッ!」
ルルが少し首を上下に振った以外は、二頭とも落ち着いて列車を見送った。
ウィ~ン・・・・
遮断桿が上がると同時に、天照の腹を蹴って歩き出す。
「はい!行くよ!」
友里恵もルルを促し、単線の線路を渡った。
ダカッダカッ・・・・
太田川の支流を橋で渡り、用水路に沿って浜に向かって馬を走らせる。
「はぁっ、はぁっ・・・・・」
駈歩で国道を横断し、アパートと生け垣がきれいなおうちの前を通り過ぎた。
「ここを左ね」
観音堂のある交差点を左折し、浜街道を駈歩で北上。川を渡って三つ目の交差点を右折し、そのまま防潮堤を越えて砂浜に天照を乗り入れる。
「友里恵!」
わたしは後ろを振り向くと、鐙革を短くしながらルルと友里恵を見た。
「向こうの川まで併せ馬ね!」
そういうや否や、天照の腹を蹴り、一気に駆け出す。
「ちょっと!待ちなさい!」
背後の友里恵もルルを駆って走り出した。
「ハッ!」
わたしは短くした鐙の上に踏ん張って腰を浮かせ、体を前に傾けてモンキー乗りの姿勢をとる。
ドドッドドッ
天照は砂浜を蹴立て、軽めの襲歩で走っていく。その後ろから、すさまじい勢いでルルの足音が迫ってくるのが聞こえた。
「障害競走とはいえG1馬、さすがにそう簡単に先に行かせてくれないか」
わたしはつぶやくと、足で天照の腹を押す。
ドドドドドドドドド・・・・
後方から迫ってきた足音が大きくなり、灰色の馬体が天照の横に並ぶ。
「友里恵もモンキー乗りが上手くなったね」
「そう言うあさひこそ、馬の扱いが上手くなってるんじゃない?」
わたしが叫び、友里恵が笑って返した。
ドドッドドッ・・・・・・・
蹄の音が響き、わたしたちの後方に砂煙が上がる。
「じゃ、お先に~」
友里恵がルルに合図をし、灰色の馬体が大きく弾んだ。
「先には行かせない!」
わたしは天照の手綱を緩め、足で強めの扶助を与える。
ザッ!
天照のギアが入り、父譲りの末脚が炸裂した。
ドドッドドッ
ルルに再び馬体を並べ、一気に追い抜きにかかる。
「よしよし。いい感じだよ天照!」
そのまま一気にスピードを上げ、ルルを突き放して走り続けた。
「よし、まだまだ。溜めて溜めて・・・・・・」
背後で友里恵が何かつぶやくのが聞こえる。
「今だ!行け!」
友里恵が叫ぶと同時に、ルルの足音が一段階上がるのが聞こえた。
ドドドドドドドドド
一度は突き放した灰色の馬体が、すさまじい勢いで迫る。
「速いね!」
「そっちこそ、レース運びが上手くなったんじゃない?」
互いに言い合いながら、わたしはさらに抜け出しを図る。
「はぁっはぁっ・・・・」
お互いに息を切らし、互いの愛馬のスタミナ勝負になってきた。
「もう少し!頑張れ!」
遠くに、ゴールとしていた川が見える。
「いいよルル!突き放せ!」
互いに一歩も譲らず・・・・・・
バシャッ!
ほぼ同時に、天照とルルの前足が水を蹴立てた。
「ホーホー。お疲れ様」
わたしは天照の手綱を引き、ゆっくりと速度を落としていく。
「ルルもお疲れ」
友里恵もルルの手綱を引き、並足まで速度を落とした。
「友里恵、お疲れ」
「あさひこそ」
互いに馬を寄せ、背中を軽くたたく。
ドッ、ドッ・・・・・
馬を軽く走らせてクールダウンさせ、地面に降りた。
「ふぅ・・・・・」
さっきまでの緊張がほぐれ、わたしと友里恵は砂浜に座り込む。
「それにしても、あさひって結構騎乗が上手いんだね。しっかりモンキー乗りしてるし」
「そうね。わたしも競馬学校受けちゃおうかな~?」
なんてね。といったところで、友里恵に肩を掴まれた。
「ねえ、あさひ」
「どうしたの、いきなり」
わたしが言うと、友里恵は言葉を継ぐ。
「本当に、光太にああ言ってよかったの?」
「どういうこと?」
何を言ってるか、さっぱり理解できない。
「本当に、光太に競馬学校を受けさせていいの?」
「だから、どういうこと?」
わたしはまた訊き返す。
「だって、光太が競馬学校に入ったら、あさひと離れ離れになっちゃうんだよ?」
「だからどうしたの?」
わたしが言うと、友里恵は驚くようなことを言った。
「だって、あさひって光太のこと好きでしょ?」
「は?」
思わず、女子がしてはいけないような表情になる。光太をわたしが?ありえない。
「変なこと言わないでよ。そんなわけないじゃん」
「でも・・・・・」
友里恵は少し笑いながら言う。
「あさひって、光太と話してる時だけ表情が違うよ」
「え!?」
「なんかね、ついつい頬が緩んでるっていうか、犬で言うと、尻尾すごくブンブン振ってるっていうか・・・・そんな感じ」
わたしは友里恵から顔を背けながら、立ち上がって天照にまたがろうとした。と、その時・・・
「あれ?あさひちゃんじゃん。何してるの?」
「げ!」
思わず声が漏れる。この声は・・・・・
「マロの訓練をしてたら、天照と見慣れない馬が走ってるのを見かけて・・・・。来てみたらやっぱりあさひちゃんだった」
そこに立っているのは、オオタカのマロを左腕に乗せ、嬉しそうに笑う冴子お姉ちゃんだった。
「何か面白そうなこと話してるじゃない」
冴子お姉ちゃんがこっちに近づき、天照の鼻をなでながら言う。
「冴子さん、お久しぶりです」
友里恵が冴子お姉ちゃんにお辞儀をした。
「友里恵。いつの間に冴子お姉ちゃんと顔見知りになってたの?」
「前、あさひが帰った後に野馬追部に顔を出して下さったことがあって・・・・」
わたしが問うと、友里恵は笑顔で言った。
「いや~冴子さん。ちょっとあさひの恋の相談でしてね・・・・」
友里恵が冴子お姉ちゃんに言う。
「ちょっ!?なにペラペラ話してんの!?」
わたしは友里恵の肩を掴み、前後に揺さぶる。
「ああ、光太君のことでしょ?」
「は!?」
なんで冴子お姉ちゃんがこのこと知ってるの!?
「いや、前に野馬追部に行ったとき、友里恵ちゃんと結那ちゃんに教えてもらってね・・・・」
「友里恵~!結那~!」
わたしは、帰ったら結那をシバくと心に決めた。
「で、迷えるあさひちゃんに、この冴子お姉ちゃんがアドバイスを差し上げよう」
冴子お姉ちゃんが左手だけを水平に保ちながら、グイとわたしに顔を近づける。
「押し倒しちゃえば案外上手くいくよ!」
ダメだこの叔母。早く何とかしないと。
三月の初めごろ、野馬追部厩舎に結那の素っ頓狂な声が響き渡る。
「結那はいつもうるさいなぁ。鬼鹿毛もよく入れ込み気味でバタついてるし」
「でも、結那が叫びたくなる気持ちもわかるよ。ほら、あれ・・・・・」
わたしの愚痴に、友里恵が結那とその隣の男子を指さした。
「まさかあの光太がメガネ外してコンタクトにするなんてね~」
友里恵の視線の先には、これまでのメガネを外し、コンタクトレンズに変えた光太。
「いったいどんな風の吹き回し?」
わたしは光太の横に歩み寄ると、その肩に手を置いて問う。
「いや、色々あってね。進路として考えてるとこが視力矯正をコンタクトしか認めてなくて・・・・・」
光太が言うけど、わたしはそんな進路二つしか知らない。
「光太?」
わたしは光太の目をまっすぐ見据えて言う。
「もしかして、日本中央競馬会か地方競馬全国協会の競馬学校を受けるつもり?」
「あさひには何でもお見通しだね・・・・」
光太が苦笑して言った。
「今のところ、JRAの競馬学校を目指してる」
確かに、JRAの競馬学校の受験資格、年齢に関しては十六歳から二十歳にまで門戸が開かれている。だけど・・・・
「今からじゃ、少し遅すぎない?」
わたしが言うと、、光太は首を横に振った。
「いや、物事に早いも遅いもないよ。それに、騎手は僕の夢だったんだ」
「そうなの?」
わたしの問いにうなずく光太。
「幼いころからジョッキーに憧れて、親を説得して、そして野馬追部で乗馬の練習を積んだ」
そして、まっすぐわたしの目を見つめて言った。
「いまさら、諦めることなんてできない。一度決めたからには、絶対に受かってやる」
「そう・・・・・」
わたしはそう言うと、右手を振り上げ・・・・・・
バチン!
光太の背中を思いっ切り叩く。
「痛っ!?」
「頑張って、必ず合格しなさい!闘魂注入したやったんだし」
驚く光太にそう話しかけると、わたしは天照の馬房に向かった。
ダカッ、ダカッ、ダカッ・・・・・
固く締まった地面を蹄が蹴る音。
「ブルル、ブルル」
天照の荒い鼻息。
「ホーホー・・・・」
わたしはひとしきり走ると、天照の手綱を引いて歩様を並足に抑えた。
ダカッ
背後で蹄の音が聞こえ、振り返る。
「あさひ。お疲れ様」
オーディルルドにまたがった友里恵が、わたしの横にルルを寄せてきて言った。
「ちょっとだけ、外乗に行かない?」
わたしはうなずくと、天照の腹を蹴り、速度を上げる。
カポッカポッ・・・・・
野馬追部の厩舎エリアを出て、アスファルト舗装の校内を二人で馬を並べて歩いた。
「お疲れ様で~す」
「お疲れ様です」
校門近くで草刈りをしている用務員さんに一声かけ、門の外に馬を乗り出す。
ポン!
わたしは天照の腹を蹴り、速度を速歩に上げた。
ダカッ、ダカッ・・・・
背中の揺れが大きくなるから、少し鐙を踏ん張って腰を浮かせる。
「あさひ~」
友里恵がルルの馬上から声をかけてきた。
「今日はどこ行くの?」
「浜に行こうかなって思ってる」
そういうと同時に、わたしは友里恵に手のひらを向け、天照の手綱を引いた。
「ホーホー」
友里恵もルルの手綱を引き、わたしの後ろに止まる。
カンカンカンカン・・・・・
磐城太田駅の近く、常磐線の踏切が列車の接近を告げていた。
ファ~ン!
警笛を鳴らし、白い車体にピンクの帯を巻いた仙台行きの特急「ひたち」が駆け抜ける。
「ブルルルルルルッ!」
ルルが少し首を上下に振った以外は、二頭とも落ち着いて列車を見送った。
ウィ~ン・・・・
遮断桿が上がると同時に、天照の腹を蹴って歩き出す。
「はい!行くよ!」
友里恵もルルを促し、単線の線路を渡った。
ダカッダカッ・・・・
太田川の支流を橋で渡り、用水路に沿って浜に向かって馬を走らせる。
「はぁっ、はぁっ・・・・・」
駈歩で国道を横断し、アパートと生け垣がきれいなおうちの前を通り過ぎた。
「ここを左ね」
観音堂のある交差点を左折し、浜街道を駈歩で北上。川を渡って三つ目の交差点を右折し、そのまま防潮堤を越えて砂浜に天照を乗り入れる。
「友里恵!」
わたしは後ろを振り向くと、鐙革を短くしながらルルと友里恵を見た。
「向こうの川まで併せ馬ね!」
そういうや否や、天照の腹を蹴り、一気に駆け出す。
「ちょっと!待ちなさい!」
背後の友里恵もルルを駆って走り出した。
「ハッ!」
わたしは短くした鐙の上に踏ん張って腰を浮かせ、体を前に傾けてモンキー乗りの姿勢をとる。
ドドッドドッ
天照は砂浜を蹴立て、軽めの襲歩で走っていく。その後ろから、すさまじい勢いでルルの足音が迫ってくるのが聞こえた。
「障害競走とはいえG1馬、さすがにそう簡単に先に行かせてくれないか」
わたしはつぶやくと、足で天照の腹を押す。
ドドドドドドドドド・・・・
後方から迫ってきた足音が大きくなり、灰色の馬体が天照の横に並ぶ。
「友里恵もモンキー乗りが上手くなったね」
「そう言うあさひこそ、馬の扱いが上手くなってるんじゃない?」
わたしが叫び、友里恵が笑って返した。
ドドッドドッ・・・・・・・
蹄の音が響き、わたしたちの後方に砂煙が上がる。
「じゃ、お先に~」
友里恵がルルに合図をし、灰色の馬体が大きく弾んだ。
「先には行かせない!」
わたしは天照の手綱を緩め、足で強めの扶助を与える。
ザッ!
天照のギアが入り、父譲りの末脚が炸裂した。
ドドッドドッ
ルルに再び馬体を並べ、一気に追い抜きにかかる。
「よしよし。いい感じだよ天照!」
そのまま一気にスピードを上げ、ルルを突き放して走り続けた。
「よし、まだまだ。溜めて溜めて・・・・・・」
背後で友里恵が何かつぶやくのが聞こえる。
「今だ!行け!」
友里恵が叫ぶと同時に、ルルの足音が一段階上がるのが聞こえた。
ドドドドドドドドド
一度は突き放した灰色の馬体が、すさまじい勢いで迫る。
「速いね!」
「そっちこそ、レース運びが上手くなったんじゃない?」
互いに言い合いながら、わたしはさらに抜け出しを図る。
「はぁっはぁっ・・・・」
お互いに息を切らし、互いの愛馬のスタミナ勝負になってきた。
「もう少し!頑張れ!」
遠くに、ゴールとしていた川が見える。
「いいよルル!突き放せ!」
互いに一歩も譲らず・・・・・・
バシャッ!
ほぼ同時に、天照とルルの前足が水を蹴立てた。
「ホーホー。お疲れ様」
わたしは天照の手綱を引き、ゆっくりと速度を落としていく。
「ルルもお疲れ」
友里恵もルルの手綱を引き、並足まで速度を落とした。
「友里恵、お疲れ」
「あさひこそ」
互いに馬を寄せ、背中を軽くたたく。
ドッ、ドッ・・・・・
馬を軽く走らせてクールダウンさせ、地面に降りた。
「ふぅ・・・・・」
さっきまでの緊張がほぐれ、わたしと友里恵は砂浜に座り込む。
「それにしても、あさひって結構騎乗が上手いんだね。しっかりモンキー乗りしてるし」
「そうね。わたしも競馬学校受けちゃおうかな~?」
なんてね。といったところで、友里恵に肩を掴まれた。
「ねえ、あさひ」
「どうしたの、いきなり」
わたしが言うと、友里恵は言葉を継ぐ。
「本当に、光太にああ言ってよかったの?」
「どういうこと?」
何を言ってるか、さっぱり理解できない。
「本当に、光太に競馬学校を受けさせていいの?」
「だから、どういうこと?」
わたしはまた訊き返す。
「だって、光太が競馬学校に入ったら、あさひと離れ離れになっちゃうんだよ?」
「だからどうしたの?」
わたしが言うと、友里恵は驚くようなことを言った。
「だって、あさひって光太のこと好きでしょ?」
「は?」
思わず、女子がしてはいけないような表情になる。光太をわたしが?ありえない。
「変なこと言わないでよ。そんなわけないじゃん」
「でも・・・・・」
友里恵は少し笑いながら言う。
「あさひって、光太と話してる時だけ表情が違うよ」
「え!?」
「なんかね、ついつい頬が緩んでるっていうか、犬で言うと、尻尾すごくブンブン振ってるっていうか・・・・そんな感じ」
わたしは友里恵から顔を背けながら、立ち上がって天照にまたがろうとした。と、その時・・・
「あれ?あさひちゃんじゃん。何してるの?」
「げ!」
思わず声が漏れる。この声は・・・・・
「マロの訓練をしてたら、天照と見慣れない馬が走ってるのを見かけて・・・・。来てみたらやっぱりあさひちゃんだった」
そこに立っているのは、オオタカのマロを左腕に乗せ、嬉しそうに笑う冴子お姉ちゃんだった。
「何か面白そうなこと話してるじゃない」
冴子お姉ちゃんがこっちに近づき、天照の鼻をなでながら言う。
「冴子さん、お久しぶりです」
友里恵が冴子お姉ちゃんにお辞儀をした。
「友里恵。いつの間に冴子お姉ちゃんと顔見知りになってたの?」
「前、あさひが帰った後に野馬追部に顔を出して下さったことがあって・・・・」
わたしが問うと、友里恵は笑顔で言った。
「いや~冴子さん。ちょっとあさひの恋の相談でしてね・・・・」
友里恵が冴子お姉ちゃんに言う。
「ちょっ!?なにペラペラ話してんの!?」
わたしは友里恵の肩を掴み、前後に揺さぶる。
「ああ、光太君のことでしょ?」
「は!?」
なんで冴子お姉ちゃんがこのこと知ってるの!?
「いや、前に野馬追部に行ったとき、友里恵ちゃんと結那ちゃんに教えてもらってね・・・・」
「友里恵~!結那~!」
わたしは、帰ったら結那をシバくと心に決めた。
「で、迷えるあさひちゃんに、この冴子お姉ちゃんがアドバイスを差し上げよう」
冴子お姉ちゃんが左手だけを水平に保ちながら、グイとわたしに顔を近づける。
「押し倒しちゃえば案外上手くいくよ!」
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