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三国緊急会議 ②
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「宰相、貴方に慈悲は無いのですか?」
「ある。しかし今回はお前も原因の一旦だ……見ろ」
ウェイランドの宰相は有名人だ。
歴代の王を消して表に出しゃばらず、その才覚を国のためだけに捧げつづける生きた偉人。
いまだその容姿は若々しく、魔族の証であるこめかみから延びる双角と整った目鼻立ちは女性の使用人達の間でファンクラブが結成されるほどである。しかも杓子定規な文官ではなく臨機応変さを持ち合わせるという完璧魔族。それがクロウ・バトネード宰相、その人だ。
「紙の山の下に適当に放置されているのが王だ……」
「まだ元気そうですね」
ぴくぴくと痙攣し、書類の山を毛布代わりにして気絶したように眠る初老の男性が居た。
お世辞にも健康とはいいがたい状態で数日前から起きては侍女に食事をもらい、力尽きては侍女にお風呂で磨かれて身なりは完璧なのだが……本体が頬がこけて青白いので異様な雰囲気を醸し出している。
「これを見てそう言えるお前が怖いと思うのは私が異常なのか?」
「大丈夫ですよ。こんなんでも魔族のハーフなのですから……ほら、起きなさいアルベルト。書類のサインが滞ってますよ? 弥生なら半日で笑いながら終わらせますよー」
げしげしと書類の山から除く足の脛を容赦なく小突くオルトリンデさん。
「う……あ、オル……ト」
「ほら起きた」
「起こした、だろう?」
「クロウ……私はどれくらい寝ていた」
「三十二分二十九秒です陛下、予定より八枚ほど書類の決裁が遅れております……秒間二枚のペースで目を通して判をいただかないと次のきぜ……御就寝まで四十七時間五十三分かかります」
「くすり……を」
「すでに本日の服用分を消化しております」
「クロウ、貴方も十分酷いですよ……はあ、これにサインなさいアルベルト。半分代行しますから」
「オルト、リンデ……助か、る」
ぷるっぷるに震えながらオルトリンデの持つ代行許可証にサインをする国王。彼が何したってんだ!?
「さて、と……国王のお世話し隊。これをお風呂に入れて暫く寝かせておきなさい、起きたらまた仕事ですから」
オルトリンデがぱんぱん、と手を叩いて執務室の外に控えているメイド部隊に国王をお任せする。数人のメイドさんが手慣れた様子で国王の足と腕をもって軽々と運んでいく。
「ちゃんと食べさせてます?」
「むしろ太ったらしい、国王のお世話し隊が自主的に騎士団に交じって訓練した結果だな」
「なるほど、今期のボーナスは色を付けなきゃですね」
「ああ、三交代にして増員もしたからな……国王と我ら以外は機能的かつ無理のない範囲で回っている」
「弥生を一時的に国王付きの秘書官にでもしましょうか?」
「いや、お前が半分持って行ったのなら残り半分私が持とう。これで通常業務に戻れる……そう考えれば王は良くやったな。根性がある」
「そうですね、良く考えたら半年分を一か月でこなしたのですから……意外と頑張りましたね」
「そんな王をお前は蹴ったな」
「そんな王をあなたは追い立てましたね」
どっちもどっちである。
「まあいい、弥生秘書官は連れてきたのか?」
「これからです、弥生にあんな国王を見せたら可哀そうじゃないですか」
「なるほどな、良い判断だ」
「それにしてもアルベルトも今年で60歳ですか、そろそろ手加減してあげますかね?」
「ああ、我らと違い最近老眼が酷いらしい。誕生日に眼鏡を送ろうかと思っているのだが……お前はどうする?」
「そうですねぇ、北の保養地に温泉旅行でも計画しようかな。と……腰痛らしいので」
「そうか、そろそろ次代の教育も進んでいるし頃合いか」
「また少し寂しくなりますね……仕方ない事ですが」
「なに、アルベルトの事だ。隠居しても引きこもる事はあるまい」
ウェイランドの国政は少々特殊で統括ギルドと王室が半分づつ権力を有している。
次世代に繋ぐため割と早めに代替わりするのだが、今期はアルベルトが長めに国王を務めていた。
「ですね。冷やかしに顔を出しに来るでしょう……さて。弥生達を迎えに行きますか」
「なら私も行こう、偶には銀龍亭で食べたい」
「……それもいいですね。ではそうしましょうか」
「何年ぶりだろうかな? 三ヶ国会議は……」
「正直覚えてないんですよね。平和なのは良い事です」
定期的な相互訪問で済む程度には穏やかな時代、それを壊そうとする者を追い詰めるために各国が動き出そうとしている。
奇しくもその中心には弥生達が立って居る事はオルトリンデが動くに足る理由であった。
「ある。しかし今回はお前も原因の一旦だ……見ろ」
ウェイランドの宰相は有名人だ。
歴代の王を消して表に出しゃばらず、その才覚を国のためだけに捧げつづける生きた偉人。
いまだその容姿は若々しく、魔族の証であるこめかみから延びる双角と整った目鼻立ちは女性の使用人達の間でファンクラブが結成されるほどである。しかも杓子定規な文官ではなく臨機応変さを持ち合わせるという完璧魔族。それがクロウ・バトネード宰相、その人だ。
「紙の山の下に適当に放置されているのが王だ……」
「まだ元気そうですね」
ぴくぴくと痙攣し、書類の山を毛布代わりにして気絶したように眠る初老の男性が居た。
お世辞にも健康とはいいがたい状態で数日前から起きては侍女に食事をもらい、力尽きては侍女にお風呂で磨かれて身なりは完璧なのだが……本体が頬がこけて青白いので異様な雰囲気を醸し出している。
「これを見てそう言えるお前が怖いと思うのは私が異常なのか?」
「大丈夫ですよ。こんなんでも魔族のハーフなのですから……ほら、起きなさいアルベルト。書類のサインが滞ってますよ? 弥生なら半日で笑いながら終わらせますよー」
げしげしと書類の山から除く足の脛を容赦なく小突くオルトリンデさん。
「う……あ、オル……ト」
「ほら起きた」
「起こした、だろう?」
「クロウ……私はどれくらい寝ていた」
「三十二分二十九秒です陛下、予定より八枚ほど書類の決裁が遅れております……秒間二枚のペースで目を通して判をいただかないと次のきぜ……御就寝まで四十七時間五十三分かかります」
「くすり……を」
「すでに本日の服用分を消化しております」
「クロウ、貴方も十分酷いですよ……はあ、これにサインなさいアルベルト。半分代行しますから」
「オルト、リンデ……助か、る」
ぷるっぷるに震えながらオルトリンデの持つ代行許可証にサインをする国王。彼が何したってんだ!?
「さて、と……国王のお世話し隊。これをお風呂に入れて暫く寝かせておきなさい、起きたらまた仕事ですから」
オルトリンデがぱんぱん、と手を叩いて執務室の外に控えているメイド部隊に国王をお任せする。数人のメイドさんが手慣れた様子で国王の足と腕をもって軽々と運んでいく。
「ちゃんと食べさせてます?」
「むしろ太ったらしい、国王のお世話し隊が自主的に騎士団に交じって訓練した結果だな」
「なるほど、今期のボーナスは色を付けなきゃですね」
「ああ、三交代にして増員もしたからな……国王と我ら以外は機能的かつ無理のない範囲で回っている」
「弥生を一時的に国王付きの秘書官にでもしましょうか?」
「いや、お前が半分持って行ったのなら残り半分私が持とう。これで通常業務に戻れる……そう考えれば王は良くやったな。根性がある」
「そうですね、良く考えたら半年分を一か月でこなしたのですから……意外と頑張りましたね」
「そんな王をお前は蹴ったな」
「そんな王をあなたは追い立てましたね」
どっちもどっちである。
「まあいい、弥生秘書官は連れてきたのか?」
「これからです、弥生にあんな国王を見せたら可哀そうじゃないですか」
「なるほどな、良い判断だ」
「それにしてもアルベルトも今年で60歳ですか、そろそろ手加減してあげますかね?」
「ああ、我らと違い最近老眼が酷いらしい。誕生日に眼鏡を送ろうかと思っているのだが……お前はどうする?」
「そうですねぇ、北の保養地に温泉旅行でも計画しようかな。と……腰痛らしいので」
「そうか、そろそろ次代の教育も進んでいるし頃合いか」
「また少し寂しくなりますね……仕方ない事ですが」
「なに、アルベルトの事だ。隠居しても引きこもる事はあるまい」
ウェイランドの国政は少々特殊で統括ギルドと王室が半分づつ権力を有している。
次世代に繋ぐため割と早めに代替わりするのだが、今期はアルベルトが長めに国王を務めていた。
「ですね。冷やかしに顔を出しに来るでしょう……さて。弥生達を迎えに行きますか」
「なら私も行こう、偶には銀龍亭で食べたい」
「……それもいいですね。ではそうしましょうか」
「何年ぶりだろうかな? 三ヶ国会議は……」
「正直覚えてないんですよね。平和なのは良い事です」
定期的な相互訪問で済む程度には穏やかな時代、それを壊そうとする者を追い詰めるために各国が動き出そうとしている。
奇しくもその中心には弥生達が立って居る事はオルトリンデが動くに足る理由であった。
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