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これからの事

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「ありえますわ……あの子の事ですから」

 夜ノ華さん大事な石をごっくんしちゃう事件から数日、ようやく灰斗の新しい刀が出来上がったというので夜ノ華はあの夢の中の出来事を話した。そこで語られる弥生達の現状と思われる姿に幸太郎は言葉を失い、灰斗も憤懣やるせないといった表情ながらも沈黙している。
 そんな中、どうして夜ノ華がそれを見れたのかに関してはレティシアが答えを持っていた。

「娘は……その、これを言ってしまっていい物か悩むところですが……特殊な、魔法が使えるみたいなんですの」
「特殊ってどんな?」
「空間、と言うか時間と言うか……あの子の方が頭良すぎて私じゃあさっぱり理解できない所がありますのよ……幸太郎さんなら多分わかると思うのですが」
「僕が?」

 意外な指名を受けて幸太郎がぽりぽりとこめかみをかく、幸太郎は機械工学に関しては確かに秀才と言えるが魔法に関してはど素人、漫画や小説、映画で見る世界の技術でしかない。

「ええ、馬車を作る時とか弓を扱うときに何とか角とか……風速が何メートルだとか、娘も良く物を作る時にそんなことを言ってたものですから」
「……ちなみにいくつです?」
「今は8歳ですわ。文香さんと同じ年ですわね」
「幸太郎、あり得る? そんな事……」
「この道20年の僕と同じような事を言うって……天才だとかそういうものじゃないと思うよ」

 ついでに言うなら、魔法にもそういう技術の概念があるのか分からない。とも幸太郎は付け加える。

「うーん……まあ、本来ならレティの手に渡るものだったんだし。数日待ったけど結局出てこないし……ごめんね? レティ」
「気にしないでくださいまし、あの子が生きてるという事ならいずれ見つかりますもの。さっきも言った通り私より娘の方が逞しいんですから」
「見つけてもらうためにお尋ね者になるとは、確かに逞しいな……そうなると一番最初に見つかりそうなのがレティシア殿の娘か」

 手段はどうあれ効率のいい方法ではある。捕まった後に罪を償わなければいけないが……

「ですね、灰斗さんのお師匠様と言うのも気になるけど……当てはないんですよね?」
「ありませんね……正直見つけられる気がしませんよ。あの人人付き合いが嫌いだからどこかの奥地にでも引っ込んで勝手に暮らしてそうな気もします」
「そんなことできるのか? 辺境に行けば行くほど魔物も多いのだが……」
「僕より強い、これだけでは理由足りえませんか?」

 単騎決戦であればレティシアを凌駕する灰斗の言葉は実に軽い。

「どこかで魔物と勘違いされてるかもしれませんわね……」

 実際に灰斗と手合わせしているレティシアからすれば、彼以上に強いというのは異常の一言に限る。囲まれさえしなければ……なんていう人もいるだろうが灰斗の立ち回り方は異様に巧妙で、先日の骸骨事件も幸太郎と言うお荷物が無ければ確実に一対一に持ち込んですさまじい速さで駆逐できただろうと思っていた。
 
「実は討伐隊とか組まれて冒険者ギルドに賞金かかってたりして」
「まさか……と言いきれない弟子がここに居ますね」

 そうなっていたとしても、灰斗がどうこうする気は実はない。
 それならそれで元気にやっていてくれればいいと思っているので、積極的に探すというよりは見つけたら挨拶くらいはしておこう。そんな程度だった。

「で、後は夜ノ華殿と幸太郎殿の子供らか……聞く限り一刻を争う状態じゃないか?」
「それはそうなんですけど、どうした物か」
「それならば、私の娘に会うのが一番近道かと思いますわ……私じゃわからない事もあの子なら何かしら答えが出るかもしれませんし」

 確かにこの世界に居るのであれば何かしらの方法がとれるが……もし、世界を跨いでいるのであれば魔法が使えない夜ノ華たちでは何の手もない、代わりにレティシアの娘であれば空間や時空をいじれる魔法で何とかできる事も十分に可能性としては高い。

「そうね、焦っても仕方ないし……一番の直近はバニの出産よ。幸太郎、馬車はどれぐらいで出来そう?」
「木材は大体そろったから、後はボルドックさんに作ってもらう金具かな? 材料の残り次第と言ったところだけど2週間もあれば作れるよ」
「いい見立てだな、材料は鉄があればよいのだろう? 十分にある。間に合わせよう」
「バニちゃん、お腹の調子は?」
「キノウ、ケッタ。ゲンキ」

 お腹をさすりながら、バニは夜ノ華に教えられた親指をぐっと立てるサインを返す。
 ここは経験者の夜ノ華とレティシアの見立てにかかってるのだが、おそらくこの調子なら後一月程度が移動できる限界値だろう。

「産気づくまでどれくらいかわからないのがネックだけど、ボルドックさん。次の町まで……出産できる場所までどれくらいですか?」
「そうだな、記憶の通りだったら馬車で七日。歩いて行くより早いな……そろそろ夜間は山が冷えるころだしバニ殿の事を考えるのであればしっかり準備して一気に通り抜けた方が良かろう」

 若干余裕にかける日程ではあるけれども、そこは準備とそれぞれの得意分野でカバーすればいい。
 そうして今後の方針を打ち合わせた奇妙な組み合わせの6人は、来週馬車を引く馬の事をすっかり忘れていたことに気づいて大騒ぎになるのだが、それは別の話である。

「よし、じゃあ……全員やるべきことをやりましょう! まずは今晩は何が食べたい?」
「なんでもいいです」
「夜ノ華のご飯は何を食べてもおいしいですから、なんでもいいですわ」
「なんでもいいな。貴殿の飯は旨いからな」
「バニ、ナンデモタベル」
「……」

 主婦が嫌がるワード、ナンバーワン『なんでもいい』が灰斗、レティシア、ボルドック、バニ、と連続して幸太郎が思わず口をつぐむ。実は幸太郎も同じことを言おうとしていた。

「…………幸太郎は何が食べたい?」

 いつもよりほんのちょびっと……トーンの下がった夜ノ華の声に幸太郎はその頭脳をフル回転させる。ここから先は間違えれば即死の二択、なんて大げさなものでは無い。好きなものを言えばいいのだがなぁんにも考えてなかった幸太郎は思わず。

「お好み焼き」

 ……。
 …………………。

「じゃあお好み焼き、良いわね皆」

 しばらく思案した夜ノ華が明るい声で宣言した。どうやら危機は脱したらしい。

「お好み焼きですか……数年ぶりですね」
「オコノミヤキってなんですの?」
「ヒサメ、コウブツ」
「お好みのものを焼く、料理なのか? 夜ノ華殿が作るなら間違いはないだろうな」

 そもそも材料あるのかな、と幸太郎が懸念したのだが。解決策は夜ノ華が持っていた。

「灰斗さん、山芋掘ってきてください。卵が無いけど仕方ないですよね。幸太郎、豚肉っぽいの狩ってきてね?」

 満面の笑顔で夜ノ華がお願いをする。お願いと言ったらお願いなのだ。例えこめかみにちょっぴり青筋を浮かばせていてもお願いなのだ。

「「……はい」」

 その後何とかそれっぽい物ができてみんなで舌鼓を打ったのだが、灰斗と幸太郎はちゃんと何が食べたいか聞かれたら具体的に答える様にしよう、と心に固く誓うのだった。
 
 二年後のちょうどこの日、弥生達はこの世界に降り立ち。首の取れるおねーさんことエキドナと出会う。
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