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悪い龍の討伐作戦……何もこんな時に来なくても ②

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「是が非でも協力しよう。弥生秘書官殿……だが、部隊はあくまでも王都ウェイランドの守護がメインでな。数人しか派兵できぬのだ」

 青い龍の目撃報告を弥生がもらったその日の夜。急ごしらえで監理官執務室に作戦会議所が設営された。宰相は遅れての参加だが国防を担う近衛騎士団の団長と空挺騎士団の団長……そして。

「今はベルトリアに近衛騎士団直下の守護騎士団を派兵しててちょうど手が足りないからね。近衛騎士団としても苦虫をかみつぶしちゃってるのよ……今の状況」
「補足ありがとうな!? 空挺騎士団復帰したばかりなのに随分と事情に詳しいじゃないか。イスト殿」
「なに、ベッドの上ばずいぶん暇だし……相棒も経過療養の合間にいろいろ教えてくれるのだよ。近衛騎士団、バステト団長」

 長らく休養とリハビリをしていた空挺騎士団のイストである。今日はただの随伴なので革の軽鎧と長剣を差しただけの割とラフな格好だ。
 すっかり元気になり現場復帰を果たした。なんでついてきたかって? 面白そうだからだ。
 
「イスト……身体をほぐしたいからと随伴してきたくせに……バステト騎士団長殿を、お兄様をからかうつもりでついてきたのであればこの場で罰を与えるが?」

 こちらはきっちりと関節部以外を護る板金鎧を着こんで、兜をわきに抱える男性の騎士。
 僅か25歳で空挺騎士団を率いるブライアン、蒼天の騎士と呼ばれるにふさわしい青色の髪と騎士団長が乗る青い鱗を持った飛竜『スカイ』は国外でも有名だ。
 
「げ、冗談ですよ団長。だってこの兄貴、私が退院した次の日に見舞いに行ったとか訳わかんないことしてるんですよ……嫌みの一つでも言いたいじゃないですか」
「ならきちんと私に報告を上げなさい。バステト団長に空挺騎士団式嫌がらせ108の方法を順番に試しますから」
「これだから空挺騎士団は!?」

 イケメン二人と美人の獣人がやり取りしてる光景は弥生的には大変眼福なのだが、一向に話が進まないのでちょっと困る。まあ、とりあえず騎士団が動けなさそうだという事は分かった。
 なんかとても楽しそうな三人には申し訳ないのだが、早めに決めないと弥生の瞼がくっついてしまいそうになるので愛用のペンを逆さにして机を軽くたたく。

 ――トントン! パキンッ!!

 折れました。

「あああああ!?」

 綺麗にぽっきり折れてしまった愛用のガラスペン。無残にも手で持つ軸の所が割れてしまっていた。

「何してんだよ弥生……物は大切にしろって、文香の方が丁寧だぜ?」
「いや軽くトントンしただけだよ!? この根性なしぃ!!」
「姉貴みたいなリアクションするなよ……わりぃ、うちのボスがいつも通り間抜けで緊張感が無ぇ」

 酷い言い草ではあるが威厳を出すために、となぜか椅子に座る弥生の背後で直立不動させられているキズナからすれば小言の一つも言いたくなるものである。
 しかめっ面と言うよりあきれ果てた表情とため息がその心情を正確に表していた。

「ああいや、こちらこそ我が騎士団の団員がすまない」
「良いんじゃねぇ? 勤務時間外でひそひそ話だ。かたっ苦しいのは苦手なんでね」
「キズナぁ……進行よろしく」
「お前……後でそのガラスペン直せる奴に会わせてやるから。話進めろよ……責任者なんだから」

 涙目で職務放棄しようとする友人を平手でたたいて場を締めるキズナ。実は意外としっかりしている。

「はあい、ええと……近衛騎士団は戦力出せません。空挺騎士団はどうです?」
「そうだな、竜が相手ならイストや鼻の良い獣人の騎士が良いだろうが……生憎イストはまだ相棒が決まっていないし、シフト的に難しい……竜の討伐はあまりお勧めしない」
「だろうな。秘書官殿、竜についてどれくらいご存じで?」
「すみません、さっぱりわかりません。中庭に住んでいるレンちゃんくらいしか」
 
 例外的にジェミニやその姉妹飛竜は仲が良いが、この場合該当しないだろう。

「あのでかくて黒い竜は……規格外だから実質知らないでいいんじゃないかな?」

 ジェミニがお世話になってる時にイストもレンと話をしているが、あれはもう中身が人間そのものだから……

「では、私が説明しましょう……まず竜は基本的に縄張りから出ませんし、住処を侵さなければ大人しく襲われることもほとんどありません。ただし野良は要注意です。今回の竜はおそらく野良だと思うのですが腹を空かせている際は非常に凶暴で、人間だろうが魔物だろうが関係なく襲う事がほとんどですな」
「戦力的にはどんくらいなんだ?」
「そうですね、大きさ5メートル程度なら一般的な騎士と魔法士の混成小隊が2部隊も居れば安全に倒せますよ。上級騎士、そこにいるイスト程度ならば飛竜込みで二人も居れば十分かと」
「程度ってなんだよ程度って……病み上がりだぞー兄貴」
「ふぅん」

 顎に手を当て、キズナが考え込む。
 この国の騎士は弱くない。クワイエットの訓練の際にたまたま巻き込んでしまった可哀そうな騎士たちが居たが、自分でちゃんと身を護ったりしてて身のこなしも実践に即していた。
 その騎士が一般的な強さだとしたら竜は戦闘ヘリ並の強さだと推測する。

「キズナ、どうにか出来そう?」
「そうだな……おい、ちょっと教えてくれ。こっちからつついて竜のコミニティとやらが出張ってくる可能性は?」

 取り逃がすと厄介だ、クワイエットの言葉を思い出してキズナが確認する。

「この時期と監視の話では仲間の竜が近くに居る可能性は薄いな……半分は俺の感だが」
「単独であれば……俺と牡丹……それから真司で一匹仕留められそうだ。ちなみに竜ってのは夜目が効くのか?」
「三人でか? 青い竜なら夜目は効かない。ただし鼻が利くから風向きに気をつけないとすぐに見つかるな」
「……対策を立てて一当てする価値はあるな。弥生、俺は討伐を推奨するぜ」

 ある程度情報が揃ったのでキズナが決断する。
 その判断にブライアンは少し考える様に手元に視線を落とした後、イストに顔を向けた。向けられた方のイストは不意に向けられた上司の表情から不穏な気配を感じ取り。とりあえず首をぶんぶんと左右に振った。

「空挺騎士団は監視と連絡員としてイスト騎士を提供しよう、なに、本人暇だそうだ……こき使ってやってくれ」
「団長!?」
「ちょうどいいな、最近小生意気で困ってたのだ。ブライアン団長殿、感謝する」
「なに、リハビリ代わりに動いてこい。と言うだけの話だ」

 そうして全員の視線が弥生に集まると……

 ――すぅ……ぴぃ……

 こっくりこっくり舟をこぐ弥生の頭がかわいらしく揺れていた。

「詳細は明日にでも連絡をくれ、昼までギルド祭の準備で騎士団宿舎にいるから」
「そうさせてもらうぜ。ったく、締まらねぇボスだぜ」

 弥生を起こさない様に忍び笑いとひそひそ話で意思の疎通を図る騎士団とキズナ。
 その日も静かにウェイランドの夜は更けていった……。


 ――へくちっ!


 弥生の家の玄関に置いてある小包はいつ開けられるのだろうか?
 小さなくしゃみは闇夜に溶けていくのであった。
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