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頼んじゃ駄目ぇ!!

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 キズナがエキドナの服を捲り上げるとそこにはあるはずの生体スキン、人でいう皮膚が首から下まで存在しておらず。ところどころを硬化剤で補修した金属骨格があった。

 腹部など胃に当たる部分がごっそりと噛み千切られたかのように抉れている。
 もちろん大丈夫ではない。エキドナがダメージコントロールと各部の機能を割り振って稼働状態をギリギリ維持しているという事だ。
 普通のAIが動かしている状態ならとっくに休眠モードに切り替えて記憶の保管に努めるであろう。
 その破損状況が並ではない事はキズナにも一目でわかった。

「姉貴……その身体、何があった?」
「どこから説明したもんかなぁ……キズナ、僕らが最後に追われてた時のこと覚えてる?」
「ああ、あの多脚戦車の鉄くずにしつこく追っかけられたな」
「そいつ……ここの世界まで追いかけてきてたんだよ、運悪く鉢合わせしてさぁ。たまたま出会った親切な魔族さんがいなけりゃお陀仏だったよねぇ」

 キズナが苦い顔でため息を履く、その多脚戦車は本当にしつこかった。
 とんでもなく硬い訳ではないが……やたらと規格外部品への適合速度が速く、壊しても壊しても他の兵器のパーツやシステムを取り込んで多様化を図る。
 最初の頃こそ『ああ、また来たか』程度の扱いだったが……一年を過ぎるころには全火力を集中させないと逃げるのがやっとな程に進化してしまった。
 あまりの状態にその多脚戦車を追手に使用したとある機関がコントロールしきれない事態にまで発展、局地災害として認識される。

「……良く生きてたな」
「ヒューズさんって言うんだけどねその魔族の人、ベルトリア共和国で降ろしてきたから今度お礼に行かなきゃね。身体が治ったら!!」
「まったく、無理すんじゃねぇよ……下手すりゃメモリすら取り出せねぇじゃん」
「だねぇ……とは言えあいつさぁ、とうとう空まで飛べるようになってて戦わざるを得なかったんだよ、ジェミニにも悪い事をしたねぇ」

 そのジェミニは牡丹とエキドナを降ろした後、数キロ先に避難して休憩中だ。
 流石に全速力で丸二日以上飛ぶのは訓練された空挺騎士団の飛竜でもオーバーワークもいい所、しばらくはそっと休ませてあげる必要がある。

「無事ならいい、そのショットガンと弾の残りをくれ。真司たちの支援に行く」
「ああ、詳しくはまた後で話そうね。あ、カタリナ! もし12ゲージかスラッグ弾持ってたら融通してくれないか?」

 すでに真司とオルトリンデが入れ替わって洞窟に突入している。あまり待たせて負担をかけるのは良くない。しかし、準備不足はもっと悪いのでエキドナがカタリナに弾薬の補充を申し出た。
 アークに銃を向けながら警戒を続けるカタリナも話は聞いていたので、桜花に預けてあった予備弾薬のケースをキズナに渡す。

「……あまり残ってないがありがてぇ、節約する」
「使い切って構いませんよ、まだ拠点にそこそこありますので」

 カタリナはそう言うが、拳銃の弾丸でさえやっと弥生が作ったリロードツールで何とか補充できる状況なのだ。無駄には撃たないで節約しようと心がける。

「あ、姉貴……俺の銃持っといてくれ。あんまり弾が残ってねぇが護身用だ」

 せいぜい30発程度しか残ってない自分の愛銃をエキドナに渡した。
 どうせあの数では大した活躍はできないと判断しての事だ。

「わかった、ありがたく使わせてもらうよ」
「おう、じゃあ行くぜ」

 ショットガンは長い銃身が特徴の銃だ。散弾や一発の大口径の弾も使用できる。
 エキドナによってしっかりと整備がされていてキズナにも扱いやすい。それを肩に乗せ洞窟へと向かう。

「やれやれ、妹に気を使われるなんて僕も年を取ったねぇ」

 誰に似たのかすっかり逞しくなった妹の背を見送り、ポツリとつぶやいた。
 そんなエキドナにカタリナが真面目な顔で言葉を返す。

「身近な方の背中を追って追い越すのが後進の役目です。それだけあなたの教えが彼女の成長を速めたともいえるのでは?」
「含蓄があるね。ま、そう言ってもらえて僕としては気が楽になったよ。ありがとう」
「いえ、差し出がましい言葉でしたね。それより、その身体結構不便では?」
「ん? まあ、騙し騙しやるよ。本体が見つかったらこの身体もお役御免だしねぇ……気に入ってるんだけどなぁ」

 ここまで損傷してはいくら手をかけてオーバーホールしたところで何割かは機能が落ちる。
 焔と氷雨の生存が確認できている今、機能維持さえできれば戦いはキズナや牡丹、洞爺達に任せても良い。
 エキドナはそう考えていたのだが。

「新しいボディ、とは言いませんが御姉様が上手く改造できるかと。先日エキドナ様の身体の諸元をいただいておりますので……ちょうど材料もありますし、ね?」

 いかがです? といたずらっぽくカタリナが笑う。

「材料って……」

 カタリナの言う材料に心当たりがないエキドナだが、治るなら……とありがたく申し出をうけたのだが。その瞬間、カタリナの笑みが嗤みに変わり。ウッキウキの声色で桜花へ声をかけた。

「御姉様! エキドナ様が『改造していい』そうです! 久しぶりに全力でヤッちゃってください!」
「え?」

 さっきの真面目なやり取りはどこへ?
 エキドナが不穏な雰囲気を感じ取り、アークを拘束中の桜花へ視線を向ける。
 そこに居たのは……。

「マジ!? 人型なんて久しぶりすぎて滅茶腕が鳴るわ!! 大丈夫、痛くしないから!」

 これまた義妹とそっくりのウッキウキな表情で指を鳴らすマッドサイエンティストだった。

「それ電源落とすつもりだよね!? ちょ! まって!! 君ら目の色が違う!! こわいこわいこわい!」
「なあに、空の雲の数を数えている間に終わるわ!」

 なんとも締まらない悲鳴が街道に木霊する。
 
「…………しまった、出遅れたわ」

 一応真面目に周囲を警戒していたボタンが悔しそうに親指の爪を齧り、愚痴をこぼしていた。
 そんな彼女の足元がほんの少し隆起しているのにも気づかずに……
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