いのちうるはて、あかいすなはま。

緑茶

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第15話 岸辺の旅

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 景色が流れていくなかで、僕と山崎は、他愛のない話をした。
 その多くは、僕と凪にまつわる過去のエピソードだった。

 出会ってから、発病するまでの、もっとも幸福な時間。
 そこには悲しみも楽しみもなく、ただセピア色だった。
 でも、だからこそ、何も心をかき乱すことなく、話すことができた。
 
 凪はその間、ずっと外を見ている。
 久しく、そうしていなかった。窓から見えるビル以外には、何も目にしていなかった。
 だから、道路沿いの通りを行く人たちも、林立する建物も、多少なりとも、彼女の目を楽しませてくれていればいいな、と思った。

 国道をしばらく進んだ後、高速道路に入る。
 その途中で県を越えたけど、職業証明書が役に立った。お役所仕事さまさまだ。
 料金を払って進んで、しばらくあとには、サービスエリアに入って、休憩する。
 凪を見守れるように、交替でお手洗いに行って、昼食を買って、車の中で食べた。
 なるべくかわった、楽しいものを選ぼうと思った。そのほうが、会話になるから。
 僕と山崎はお互いの食べ物のチョイスについて話し、笑いあった。
 凪の口元にも運んだが、彼女は食べなかった。
 うつろな目。乾いた唇。
 無理強いはしなかった。残りは全部、僕が食べた。
 ……食べすぎて気分が悪くなったので、運転は、山崎に交替してもらった。

 また、しばらく高速道路を進む。
 ビルがだんだん消えていって、都心部から離れたことが分かった。
 高架を抜けて、坂を下って、また国道に戻ったあたりで、アクシデントが起きた。

 タイヤがパンクしてしまったのだ。
 とりあえず急いで修理屋に持っていって、そこで直してもらうことにした。
 それはいい、問題はそこからだった。
 車自体が直る、直らないは、究極、どうだっていい。帰り着く方法はいくらでもある。

 どうしよう、と途方に暮れていると。

「わたし」

 不意に、後ろから声がした。
 振り返ると……凪が立っていた。
 彼女は目が覚めていた。

「歩けるよ。だから、連れて行って」

 目の色は精彩を欠いていて、常にまどろんでいるような状態だった。肌も青白い。
 しかし、起きていて、こちらの話を聞いていたような素振りだった。
 僕たちは顔を見合わせて、どうすべきか思案し……結論を出した。
 電車に乗ることにした。
 目的地が近い。鈍行に乗っても、三十分ほどすれば着くのが分かっていた。



 そこで、レンタカーというチョイスをしなかったのは何故だろう。
 そちらのほうがあらゆるリスクを低減できるのに。

 しかし、そうではなく、車から離脱して少し歩いた先にある駅から、二両編成のローカル線を利用することにしたのは、ただ単に、彼女が起きていたからだ。

 彼女は、僕の隣で、外の景色を見たがっていた。
 だったら、付き合おう。付き合えるだけ。途中で、どうしようもなくなったら、また別の手段を考えよう。

 僕は、いつになく、彼女のことを大事に思い、優しくなっていた。
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