愛 玩 人 体

愛 玩 人 体〔146〕

「なあ、レオン。もしオレが、病院を建てるって云ったら笑うか？」

　マレインの近況を報告しにきたレオンは、バージルが諸用のため研究室から退出すると、冷さめた緑茶を口にした。せっかくバージルが淹れ立てをふるまったのだから、熱いうちに飲めばいいのにと思ったエイジは、今後について、レオンにも打ち明けてみた。きっと驚くだろうと予想したが、レオンは無反応を示しめした。空カラにした湯呑みをテーブルの上に置くと、腕組みをして瞼をとじる。そのまま寝てしまいそうな流れを感じたエイジは、仮眠室から掛け布団を引っ張りだし、レオンの肩に当てがった。

（目を瞑つむってても、顔がイイってわかるのは、反則だよな……）

　静かな呼吸をくり返すレオンは、フッと、目を開あけた。まだ傍かたわらに立っていたエイジは、ぎょっとなる。
（近くで見ると、マジでかっこいい男ヤツだな!!）
　バージルの次に意識してしまう存在につき、エイジの表情が不自然に硬張こわばると、テーブルの上に押し倒された。エイジの腕が当たり、湯呑みがガチャンッと転がる。

「わっ!?　なんだよレオン!!」
「それはこっちの科白セリフだ、まぬけ」
「えっ？　なんでっ？」
「おまえの色目に、おれが気づかないとでも思ったか？」
「べつに色目なんか……」

　使ってないと否定できず当惑するエイジを見おろすレオンは、片手でメガネを外し、顔を近づけてきた。

（ヤ、ヤバい!!　避よけなきゃ、ダメなのに……!!）

　好このみの顔が接近してくるため、エイジは頭で回避すべきだと判断しても、細胞が云うことをきかない。しかも、レオンは強い力で抑えつけているわけではなく、簡単に逃のがれる隙すきを与えていた。それでも、口づけを受けてしまうエイジは、罪悪感よりも快感に捉われた。

「……んっ、ふぁっ、んっ！」

　舌を絡からめてくるレオンの熱を吸い込んで、エイジの咽喉のどが痙攣けいれんする。

（こんなことダメなのにっ、クソッ、レオンのヤツ、なんでキスがうまい、、、ンだよっ!?　すげぇ気持ちいい!!）

　接吻キスだけで下半身が興奮するエイジは、レオンの首すじに腕をまわすと、口唇くちびるを奪われる悦よろこびを全身で感じ取った。レオンとは二度目となる口づけだが、最高の感触だった。

「レオン！　もっと……して……っ」

　バージルが戻らない研究室で、エイジはレオンの温もりを求めてしまい、このまま性交渉セックスに発展しても構わないと思った。ところが、少年の先走りを放置して、レオンは肉体関係に及およばず、テーブルの上で息を切らすエイジに背を向けると、

「誰が愛玩具おまえなんか抱くかよ、まぬけ」

　と、軽蔑のひとことを残して立ち去った。エイジは「はっ？」と呆気あっけにとられ、一気にカラダの熱が冷めた。床に落とされた掛け布団に目を留め、急激に恥ずかしくなる。

（さ、最悪だっ!!　なにやってンだ、ばか野郎っ!!）

　レオンに欲情した自分が情けなくなるいっぽう、“愛玩具おまえ”呼ばわりされて腹が立つ。だが、エイジが実験体から解放された時、レオンはなんて呼ぶつもりなのか、少し気になった。

（……あれ？　もしかしてレオンのヤツ、オレが商品だから手を出さないのか？　医局の愛玩具オモチャじゃなくなれば、抱いてくれたりして……、じゃないっての!!）


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