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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第11話 何だか締まらない

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 水柱が上がった場所まで一気に走ったレオの腕の中でわたしは幸せと絶望を同時に味わう奇妙な体験をしました。
 彼の鼓動と体温を感じられて、大事にされていると確信出来るのにグラグラと揺られ過ぎて、気分が悪くなって……。
 目的地に着いた頃にはわたしのヘルヘイムが見えてくる幻が見えましたわ。

 レオは木陰に運んでくれて、冷水で浸した手巾をあててくれたり、服が汚れないようにと地面に布まで敷いてくれました。
 どこでそんなことを学んだのか、気になりますけどその気遣いがまるで愛されているみたいで嬉しくて、幸せなの。
 横抱きに抱えてくれたのも善意ですもの。

「すごいね」
「ええ。これだけの湯量があるのなら、大浴場が実現出来そうですわ」

 水柱は勢いが落ちることなく、轟音とともに噴き出しています。
 ちょっと勿体ないかも……。

 早めに対策を取らないと折角のお湯が無駄になってしまうわ。

「水管を具現化マテリアライズしないと……でも」
「でも?」
「設置するのにたくさんの人力が必要ですわ」
「人力? 手伝ってくれるのなら、誰でもいい?」
「いいですけど?」

 両手を組んで考え込んでいたレオが何かを思いついたみたい。
 ニールとガルムはびしょ濡れになったのでさっさとお家に帰りましたから、戦力外なのでレオのアイデアがあるのなら、助かりますけど……。

「分かった。じゃあ、呼ぶね。みんなー、来てくれー」

 レオは大きな声で呼びかけると合図をするように指笛を吹きました。
 思った以上に響き渡る彼の指笛の音は島のどこまで、届くのかしら?

「何? 何ですの?」
「みんなが来てくれたんだ」

 ほとんど地響きと言ってもいいですわ。
 無数の足音が近づいてきて、何事かと思えば、レオの周りにたくさんの魔物が集まっていました。

 ウサギや狼、鹿などの自然界に生息する獣に似た魔獣の数が多いですけど、植物型の魔物の姿も見られます。
 ここまで数がいると圧巻ですわ。

「これは全員、レオの……?」
「みんな友達だよ」
「そう。友達なのね」

 レオはなぜ、勇者なのか?
 あんなに小さな体なのに……。

 力があるだけでは勇者ではない。
 勇気があっても力があってもそれは単なる勇士なのよね。

 人を思いやる心の優しさがあるから、種族の違いなんて彼の中にはないのだわ。
 だから、レオは間違いなく、勇者……。

「君らしいわね」
「僕らしい? どういう意味?」
「ずっと、そのままのレオでいてね」
「うん」

 そこでも即答して、前回の笑顔を向けてくれるのね。

 このままでいられるのだろうか、なんてことは一切、考えてない。
 どこまでも純真で穢れを知らない。
 そこがまた、あなたらしくて。
 わたしも自然と笑顔になれるわ。

「もしも、わたしが人でなくてもあなたはわたしのことを好きと言ってくれるのかしら?」

 秘めていた思いがつい口を衝いて出ていました。
 レオには聞こえないと思っていたから……。

「リーナはリーナじゃないか」
「レオ大好……うぅ」
「大丈夫!?」
「吐きそう……」

 レオに一番、言ってもらいたい言葉を貰って、感動的な場面が台無しですわ。
 彼に背中を擦ってもらって、どうにか吐き気は収まりましたけど。

 結局、終始レオに「大丈夫?」と心配されて、頭を撫でられて安心しているわたしって、一体どうなってますの!?
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