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第11話【極楽ザメの牙包丁を作ろう~召喚編~】

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「これで完成?確かによく切れそうだけど……」

「一応、包丁としては完成だけど今回の依頼は【神具化】も内容に入ってるからこれからが本番だよ」

「神具化?」

「うん。周りをみてごらん。ミスドやセジュ、シールにミルフィ、皆は全て神具化された道具達だよ」

「え?皆さん精霊達じゃ無かったんですか?」

「うーん。確かに皆は精霊なんだけど、それぞれ単独で召喚した訳ではないんだ。
 様々な武器や道具を【召喚錬金】で神具化させて精霊達を現世に定着出来るようにした成功例が彼等なんだよ。
 普通の精霊達は単独で呼び出しても召喚時の魔力が尽きたらこの世界には存在出来ないからね」

「私の姿を人間にしてるのとは違うのよね?」

「うん。そうだね。
 ララのは『擬人化』つまり、元々自意識のある知的生物を人間の姿に変身させているだけだから媒体となるアイテムを取り除けば元々の姿に戻る事が出来るんだ」

「ふーん。試しに外してみてもいい?」

「試してみてもいいけど、一度戻ったら三日は再擬人化は出来ないからね。
 あまり頻繁に変わるのもアイテムに負荷がかかるから必要な時だけにしてくれるといいかな。
 アイテムが壊れたら変身出来なくなるからね」

「分かった。じゃあ今度試してみるわ」

「よし。それじゃあ仕上げに入るか」

 僕はそう言いながら【精霊石・白】を左手に持って、右手で魔方陣を書くと精霊石に刻み込んだ。

 それらの包丁と精霊石を錬金釜に入れぐーるぐーるすること約3分。
 白い煙と共にひとりの青年が立っていた。

 歳の程は見た目僕と同程度かまだ若い感じで長身・金髪の長髪で後ろで束ねていた。
 少々料理長にするには若すぎる容姿だが素材の牙が若いサメのものだったので仕方ないだろう。
 その辺りは説明をして納得して貰うが料理の方は大丈夫だろうか?

 僕が考え込んでいると。

「お初にお目にかかります。マスター様。私の名は【トリフ】と申します」

 青年は僕に向かってお辞儀をして僕の言葉を待っていた。

「うん。よく来てくれたね。
 本来なら召喚した僕が君のマスターとして君に指示を出すのだけど、今回は子爵家からの依頼で料理長を任せられる人材との依頼で君を召喚させてもらったんだ。
 後日君の主人となる者とは面会してもらうが念のため聞くけど料理に自信はあるかな?」

「お任せ下さい。何でもいいですが食材はありますでしょうか?」

 おお!自信もあるようだし、これならば大丈夫か!?

「そうだな。せっかくなんで腕前を見せてもらうかな。
 ミルフィ何か食材を用意してもらえるかな?」

「了解ですの。肉も魚も野菜も調味料もありますので好きな物をお使いくださいな」

「ありがとうございます。ではこれとこれとこれを……」

 トリフはミルフィから幾つかの食材を受けとると台所に立って自らの身体から包丁を取り出すと目にも止まらない早さで食材を切り分けていった。

「ほう、見事な包丁捌きじゃないか。さすがは包丁の精霊だけあるな」

 僕はトリフの調理を感心しながら見ていたが、いつの間にか横に来ていたミスドが呟いた。

「食材の捌き方は合格点ですが、食材の選択や調理の進め方から見ると最後の出来上がりを見てみないと分かりませんよ」

 そんなものなのか?僕は調理は専門外なのでよく分からないんだがとりあえず完成を待つことにした。

「お待たせしました。お試しください」

 僕の前には見たことのない料理が幾つか並んでいた。
 真っ赤に染まる深紅のスープからはプツプツと泡が立ち込め、見た目はオムライスだが色が紫色の穀物っぽい物からは腐った卵みたいな臭いがしている、となりの黒い飲み物からは得体の知れない甲殻類の足が出ていた。

 あからさまに嫌がらせにしか見えない料理を目の当たりにして、僕はトリフに聞いてみた。

「これは本当に食べ物なのか?」

 僕がそう言いながらトリフを見ると。キョトンとした顔で不思議そうにトリフが答えた。

「はい。私が精一杯出来る物を最も美味しく食べて頂くために頑張って作りましたが。
 何か問題でもありましたか?」

 何だ?僕の感覚が間違っているのか?
 この目の前の物体は料理としてまともな物なのか?

 僕は心配になって周りの皆を見回した。

 すると、精霊の皆は呆れた顔はするけれど僕が食べるのを止める素振りはない。

 しかし、ララだけは口に手を持っていって涙目で顔を左右に振っていた。

 とうとう苦笑いしていたミスドが僕に向かって説明してくれた。
 その内容とは……。

「マスター、この料理は精霊界で作られる食事の内容ですが、精霊界にしか無い食材をこの世界の食材で代用した為にこうなったと言う事ですぜ」

「見た目は……アレですが味は問題ないかと思いますので食べても毒や状態異常にはならないと思いますぜ」

(状態異常とか腹痛かよ……)

 ちょっと……いや、かなり食べるのに抵抗感があるんだが、さてどうするかな。

「そうだ!精霊界の食べ物ならミスドちょっと味見してもらえるかな?」

「おう!いいぜ!どれどれ……」

 ミスドはそう言うと抵抗なく料理を食べ始めた。

「むっ!これは!!」

 やはり食べなくて正解だったか?そう思っていると

「なかなかの味じゃないか。
 よくこちらの世界の食材で表現出来たな。素晴らしいぞ」

 次々と平らげるミスドをげんなりとした顔で見る僕とララだったが意を決して僕はミスドに言った。

「ミスドがそこまで言うなら一口だけ食べてみようかな」

 そう言うと僕はそれぞれの料理をほんの少しずつ恐る恐る口へ運んだ。

「ん?……美味い???」

 自分の予想していた味とは全く違う感覚に戸惑いながら感想を述べた。

「そうでしょう!その味を再現するのか大変でした」

 トリフは満足げに微笑みながら料理の説明を始めたが、僕はその説明が耳に入らないくらい悩んでいた。

「上手いのは上手い。だがこれでは駄目だ」

 当然である。トリフはこの後は子爵家の料理長としての役目が待っているのに、いくら美味の料理でもこの見た目では到底受け入れては貰えまい。

 どうにかならないかと僕はミルフィを見て聞いてみた。

「ミルフィ。君は僕の食事を担当してるからこの世界の人達の食事について詳しいだろう。
 幸い依頼達成期限日まで約3週間あるからトリフに見た目の大切さを教えてくれないか?」

 ミルフィは僕とトリフと何故かミスドを見てから僕に答えた。

「確かに私はマスターの食事を担当させて頂いています。
 けれども私はどちらかと言うと豪華なお食事はあまり得意では無く庶民的な物ならともかく貴族の食事には向いていないですの。
 どちらかと言うと私よりもミスドの方が教えるのが上手いのではないかと思われますの」

「そうなのか?」

 僕はミスドに向かって聞いてみた。

「まあ、一応自分は精霊界にいる時はよく重鎮おえらいさんの食事担当をしていましたから」

「そ、そうなのか?でも、こちらに居る間一度も料理している所を見たことないんだけど」

「そりゃあマスターが命令しなかったからとこの世界ではミルフィがマスターの食事担当になっていたからですぜ」

「私達はマスターの命令無しに他人の仕事に横やりを入れたりはしませんぜ」

 確かに命令した覚えもないし、ミスドの言っている事は間違いないな。でも、まさか筋肉隆々の剣士ミスドが料理が得意とは思わないじゃないか。まあいいか、今度作ってもらおう。

「そうか、分かったよ。それじゃあミスドにトリフの師匠になって貰おうかな。期限は3週間で貴族家の食事に見合うレベルに仕上げて欲しい」

「分かりましたぜ。マスター」

「よし、トリフ!それじゃあ今から特訓だぜ!!」

「はい!師匠!お願いします!!」

 こうしてミスドによるトリフ感覚改造特訓が幕を開けた。
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