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第31話【メイシス王女の錬金工房合宿 その六】

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 結局その日は新しいレシピの登録準備で終わってしまいバタバタした日だったが僕は内心『しめしめ、今回のレシピ登録でメイシス王女にも実績が出来るので講習成果の報告が楽になったぞ。まだ期間はあるからもうひとつくらい発見させてやるかな』とほくそ笑みを浮かべていた。

 当たり前である。錬魔士として研究を重ねている僕があの程度の可変で作れる薬を発見出来ていない訳が無かった。
 ただ、前にも言ったが商品名を考えるのが面倒だったから今まで放置していただけのレシピだったのである。

『このまま暫くはメイシス王女にはこのレシピの研鑽をさせておけば僕にも余裕が出来るから今のうちに次の策の準備をするとしよう』

 僕はララを呼ぶと商店から頼まれている数々の商品のレシピのうちララに出来そうな物を選び作成を頼んだ。
 ララは少し不機嫌になったがいつもの甘いお菓子で手を打ってもらった。

「まったくもー。いつもいつもこんなので誤魔化されたりしないんだからねー」と言いながらも手伝ってくれるララに感謝しながら僕も依頼をこなしていった。

 そして2ヶ月が過ぎた頃。メイシス王女は王宮からの連絡で成人披露パーティーの打ち合わせで3日程帰る事になった。

「それでは3日程戻ってまいりますので続きは後程お願いしますわ」

 メイシス王女は名残惜しそうに僕の手を握ってから迎えの馬車に乗り込んでいった。

「とりあえず3日は静かにすごせそうだね」

 メイシス王女は時間が空くと色々と質問をしてきてなかなかゆっくり出来なかった。
 それだけ熱心に錬金術に取り組む姿勢は好感が持てたし、実際錬金術の腕も飛躍的に向上していた。

「さて、この間に諸々の準備をしていくから皆手伝いを頼むよ」

 僕達はメイシス王女が一時帰宅している間に王女の成人披露パーティーの本人サプライズ料理錬金のレシピの作成と王女への講習準備を始めた。
 そしてあらかた準備が出来た頃ララが僕に聞いてきた。

「それでタクミはどうするの?」

「ん?何がだ?」

「何ってメイシス王女の事よ。王様も言ってたじゃないの『メイシス王女を嫁に貰って欲しい』って。あれ多分本気だよ」

「はあっ?その件はキッパリと断ったはずだろ?いまさら無いだろ?」

「そのくらいで諦めるならわざわざ工房まで押し掛けて講義を受けたいとか言わないでしょ?あれは絶対に諦めてない顔よ!」

「そうですね、私もそう思いますの。メイシス王女は一貫してタクミマスターの好感度を上げる行動をやっていたように見受けられましたの」

「やっぱりそうよね。ああ見えてかなり計算高い頭の良いお姫様だよね?だってタクミ、メイシスの事『ちょっといいな』とか思ってたでしょ?私には分かるんだから。でどうするの?って聞いたのよ」

「どうするも何も断るしか無いだろ?ララ達は知ってるだろうけど僕は基本的に歳をとらないから結婚しても若いうちは良いけどだんだん相手だけが老けていくんだぞ。そんなのお互い嫌じゃないか?」

「まあ普通は嫌よね。ただし『普通なら』ね。
 私の見立てだとメイシスはそんな事気にしないタイプと見てるわ。まあ子孫が残せないとかだともしかしたら躊躇するかも知れないけれど……その辺りどうなの?」

「さっさあ?どうなんだろ?試した事無いし分からないなって今それ大事?面白がってるだけじゃないか?」

「さーどうだろうねー。ところでタクミにとって私ってどういう存在?ただの弟子ってだけ?」

なんかどんどん雲行きが怪しくなってきたな、ララのやつ最近メイシス王女にばかり構ってたから焼きもちやいてふててるのか?

「ララは大切な『家族』だろ?これから先いつかララの仲間や大切なひとが現れるまで一緒にいてやると言ったはずだよな」

「家族……家族かぁ。やっぱり私じゃタクミの『恋人』にはなれないんだね。まあそうじゃないかとは思ってたんだけどねー。あはははは」

ドキッ!

『なっ何だこの気持ちは?いやいや僕は普通の人間じゃないから普通の恋愛なんて出来るはずが無いだろ?……本当にそうか?神様はそんな事は一言も言ってなかったよな?いやでもうーん……』

「ララ。それはあれでそういう意味なのか?いやしかしだからと言って……」

「何焦ってるのよ!ほらね、タクミは女性に対して免疫が無いからこの程度の駆け引きですぐに気持ちがぐらつくでしょ!そんな事じゃメイシスの思うつぼよ」

ガガガーン!!

『何?この敗北感。ララに手玉に取られあたふたした後で指導までされる。どっちが師でどっちが弟子だよ』

 僕は精神的にダメージをおったまま残った準備を仕上げていった。
 ララの「まだまだ私も駄目だなー。肝心な所でヘタレるのを何とかしなきゃなー」との呟きに気がつきもしないで……。

 3日後メイシス王女はキッチリ時間通りに工房に到着した。

「只今戻りましたわ。皆さん今日からまたお世話になりますわ」

「ああ、よろしくな。メイシス様、今日よりいよいよ成人披露パーティーの目玉企画の練習に入りますので今まで以上に実技に特化した内容になりますので頑張ってついてきてくださいね」

 僕はこれからの予定をメイシス王女に説明するとすぐさま錬金釜に向かい合った。
 昨日のララの言葉が頭にちらついてメイシスの顔を直視出来なかったからだった。

『くそー。ララが余計な事を言うから意識してしまうじゃないか。いやいや大丈夫だ。集中集中……』

「……士様!……魔士様!錬魔士様!!」

「あ、ああすまない。どうしましたか?メイシス様」

「もう!課題終わりましたので確認をお願いしますね。どうされたのですか?先程から何か考え事をしているみたいですが?」

「いや、まあ色々とあってな。まあ、それよりも今日の課題は出来が良いみたいですね。これなら本番までに充分間に合う事でしょう」

「本当ですか?良かったぁ!あと、錬魔士様この後で少しお時間よろしいでしょうか?相談したい事と報告したい事がありますので」

「ああ、大丈夫ですよ。それでは今日の講習は終わりにして休みがてらお話を聞きましょうか」

「はい。お願いします」

 メイシスは真剣な表情でひとつずつ話し始めた。

「ーーーそれで話と言うのは何でしょうか?」

「はい。先ずは報告、と言うよりも謝罪ですが……。
 実はこの度王宮に戻ったときにお父様から聞いたのですが、今までお断りしていた各方面からの婚約話のうち、ある伯爵家からきていた話が再燃していて、この度私が成人を迎えるにあたって是非にとの話を持ち掛けてきたそうなのです」

「なるほど。で、それが何故『謝罪』になるのですか?」

「話には続きがあるのですわ。王族といえども私は第3王女ですのでずっと王宮に残る事はありません。
 然るべき嫁ぎ先へ嫁いで行くのが通例であります。ですが、その話の相手は伯爵家の次男であり、その、あまり博識ではない……と言いますか、ハッキリ言いまして好みではない相手なのです。
 しかも、もし婚姻を結んだならば錬金術士としての道は閉ざされてしまうのです」

「それならばお断りすれば宜しいのではありませんか?いくら伯爵家でも王族に無理を通せるとは思いませんが?」

「それが、我が王家はその伯爵家に以前ひとつ借りを作ってしまっていたのです。
 それを盾に婚約を迫っているみたいなのです。
 そこで困ったお父様はある条件を付けてその場を濁してしまったみたいなのです。
 その条件とは……」
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