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33.お願い
しおりを挟むコルトとルーティスは連れ立って傭兵団の詰め所へ向かった。ちなみにルーティスはそのままだとランドリア家の人間だとバレてしまう可能性が高いうえに、話を聞いたところ髭もじゃの傭兵とも面識があるらしい。なので髪の色を変え、さらに帽子もかぶって変装して行くことにした。そのおかげか身分を疑われることもなく話を聞くことが出来た。
髭もじゃの傭兵の話では、エリックと飲みに行ったのは一月前くらいに王都からやってきた新参者二人だったらしい。同じ王都暮らし経験者なので積もる話もあるだろうと髭もじゃが二人とエリックを引き合わせたんだそうだ。コルトがその二人に会えないか頼んだところ、無理だと断られてしまった。
なんと、その二人も居なくなってしまったのだ。
その二人はそこまでの腕がなかったので今回の遠征参加者ではなかったそうだが、頼んであった掃除にも参加しておらず、貸していた家はもぬけの殻になっていたとのこと。隣人に聞けば夜逃げしたと髭もじゃに答えたらしい。「言っちゃあ悪いが王都から来る奴は辺境を舐めすぎてる。耐えられねぇって逃げちまうんだよなぁ」と髭もじゃはよくあることだとぼやいていた。
「王都から流れてきた人間か。……数人単位の話だが、最近増えているらしい」
「そうなんですか?」
もともと何かしらの理由で王都から辺境領へ移り住むことはあるが、傭兵になりに来るものは少ない。だというのに、ここ三ヶ月の間に短期間だが入団する者が急に増えたと、傭兵団の団長からルーティスは報告を受けていた。
「エリックみたいにここの空気が肌に合う人間の方が少ないから、逃げた二人組が特殊というわけではないが」
「タイミングが良すぎますよね」
「ああ」
もし二人組が家の荷物もそのままに消えたのなら、エリックと一緒に何かに巻き込まれたとも考えられる。だが隣人の証言ではきちんと荷造りをして立ち去っているらしいので、どう考えても自発的に姿を消していた。
「! まさかエリックはその二人に殺されて……」
「いや、その可能性は低いだろう。実力が違いすぎる」
「そう、ですよね」
「ああ」
真っ青になるコルトを見上げて、ルーティスは冷静にコルトの悲観的思考を否定した。泥酔させられたり薬を盛られたらあるいはとは思ったが、なにも無駄に不安を煽ることはないとルーティスは口をつぐむ。
「とにかく、居なくなった二人を探しましょう!」
コルトは気を取り直したように言うと、人通りの多い方へ歩き出した。
「いや、屋敷にもどろう」
そんなコルトをルーティスが止める。
「むやみやたらに探しても意味がない」
「ですが……っ」
「エリックと最後に会ったであろう人間の特徴はわかった。ケヴィンの方でも得ている情報があるかもしれない。共有したほうが効率よく探せるはずだ」
「わかりました。ではティスはケヴィンさんに報告をお願いします! 俺は大通りあたりを探してきます!」
「コルト」
走りだそうとするコルトをしっかりと見据え、ルーティスは低い声でコルトの名を呼ぶ。
(うっ、わかってる。俺が走り回っても無意味だってことはわかってるけど、でも、もしかしたらその逃げた新参者を見つけられるかもしれない)
最善策でないことくらいコルトにもわかっている。だけどじっとなんてしていられない。
呼び止められて振り返ったコルトに、ルーティスは子どもとは思えない低い声で告げる。
「これがもし仕組まれた犯罪なのだとしたら、不用意に行動することでお前の身も危険にさらすことになるんだぞ」
「そんなことはわかってます!」
たとえ自分の身が危険になろうとも、どんな状況に居るのかわからないエリックを放っておくことなんてできない。
辛い時、むなしい時、励まし合ってきた、コルトにとって大事で大切な盟友なのだ。もはや実の家族よりも絆が深いと思っている。
「わかってるけど……俺が探してやらなきゃエリックが……」
「コルト、今のお前は、いやお前たちは独りじゃない。この瞬間だってケヴィンや信頼できる部下たちが血眼になって探している。自分だけですべてを解決しようとしなくていいんだ」
「ルーティス……様」
「私たちを信じて任せてくれ」
ルーティスは一歩前に出ると、呆然と見下ろしてくるコルトの手を握る。
「お前が一人でなんでも頑張ってこなそうとしなくていい。周りがお前を利用したようにお前も周りを利用しろ」
「利用だなんて……」
「ああ、そうだなすまない、言葉が悪かった。お願い、だな。お願いして、叶えてもらえばいいんだ」
(お願い……)
不思議なことにその言葉を聞いたコルトはファリシアンとの日々を思い出した。幼い元婚約者にお願いされるのは嫌ではなかった。自分が頼られているようで嬉しかった時期もある。
(そうか、ここで俺が勝手に動くのはルーティス様やケヴィンさんを信用してないってことになる。それに俺の迂闊な行動が、彼らの邪魔になるかもしれない)
そんな簡単なことにも気づかなかったなんて。冷静に行動しているつもりだったがかなり動揺していたんだろう。このままではルーティスたちの足を引っ張るところだった。ルーティスはそれをコルトに気付かせてくれたのだ。
「すみません。気が動転していたみたいです。自己満足でルーティス様たちのご助力を無駄にするところでした。……どうかお願いします。エリックを探すのを手伝ってください。俺に力を貸してください」
コルトが気を取り直したように言えば、ルーティスは少しばかり複雑そうな表情を浮かべる。
「なんだか少し意図したのとは違う解釈をされた気がするが、わかってもらえたならいい。行くぞ」
「はいっ」
ルーティスはそういうとコルトの手を引き歩き出す。コルトは小さな手を握り返すと一歩前に出て、ルーティスと並んで屋敷へと向かった。
屋敷に戻ったコルトだったが待つだけの時間に落ちつけるはずもなくうろうろとしていると、ルーティスに呼び出されたというイヴェルザと一緒に急遽回復薬を製造することになった。回復薬の作成はイヴェルザの弟子になったあと割と早い段階で叩き込まれていたので迷うこともなく作ることが出来た。
他にも爆発する魔道具の作成方法など聞いているうちにいつの間にか日は沈みかけており、ケヴィンが到着したとジェイクがコルトを呼びに来た。
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