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34.探しものの行方
しおりを挟む呼ばれた応接室に入ればケヴィンと大人姿のルーティスがすでに待っていた。
そういえば本来の姿のルーティスに会うのは久しぶりである。コルトは鼓動が速くなるのを感じたが、以前のような威圧によるものではなく何とも照れくさいような不思議な感覚だった。
昨日まで見ていた発情期の夢の余韻が抜けきれていないのだろう。
(余計なことを考えてる場合じゃないのに)
コルトは立ち止まると意識を切り替えるように大きく深呼吸をしてから、二人が待つソファーへと向かった。
「結論から言えばエリックさんは攫われました」
一緒にやってきたイヴェルザとコルトが着席するのを確認すると、ケヴィンは説明を開始した。ちなみに空いている場所に座ったので、コルトがルーティスの隣に、イヴェルザがケヴィンの隣に座っている。
ケヴィンの言葉に覚悟はしていたがコルトは衝撃を隠せなかった。そんなコルトの手にそっとルーティスの大きな手が重なる。
(エリックは子どもでもないし貴族でもない。さらに言えば女性でもΩでもない。それなりに腕の立つ傭兵だ。攫われる候補としてはかなり低いはず。なのに何でエリックが?)
困惑するコルトの前にケヴィンが懐からハンカチを取り出した。
「こちらをご覧ください」
「これって……」
「御守りか?」
ケヴィンが懐から出してテーブルに置いたのは、新緑色の屑魔石が縫い付けられたハンカチだった。見間違えるはずもない。コルトが作った御守りである。
「念の為に確認しますがコルトさんが作ったもので間違いないですよね? オレがもらったものと糸の処理が同じですし、間違いないと思いますが」
「はい、俺が作ってエリックにあげた御守りです」
ハンカチを手に取るまでもなくコルトは大きく頷く。財布とともに無くしたと言っていたものだ。
「ルーティス様の情報から逃げた男たちを探していたところ、昨日捕まえたスリの一人と人相が一致しました。ソイツの押収した物の中からこちらを発見しましたので厳しく尋問したところ、エリックさんを連れ去ったことを認めました」
「どうしてエリックを?」
コルトの質問にケヴィンは答えずルーティスを見る。ルーティスが小さく頷き返せばケヴィンは説明を再開した。
「正確に言えばソイツが攫うよう依頼を受けていたのは、黒髪の男のΩ、です」
「!?」
「エリックさんはコルトさんと間違えられて連れ去られたんです」
「なん、で……?」
(たしかに男のΩなら狙われる理由はわかる。だけど、なんで俺がΩだってバレて)
そこまで考えてコルトはあることを思い出す。エリックを酒に誘った二人組は王都から来たと言ってなかったか?
「王都にいる誰かがコルトの情報を流したか、あるいはそいつ自身がコルトを手に入れようとしたんだろう。だが、似通った容貌のエリックと間違えた」
「そんな、一体誰が……」
「それはまだ調査中だ」
(もしかしてファリシアン様が……? いやでもこんなまどろっこしいことをする方ではないし)
一応とはいえコルトは南の英雄と名高いランドリア辺境伯の婚約者になった。そんなΩにおいそれと手を出すような輩にコルトは心当たりがない。歴代の夫たちもファリシアンとの婚約時代にはすでに嫌がらせをしてくることもなかったし、男のΩが狙われたというのはわかるがコルトが狙われたというのは腑に落ちない。
「それで、その男はエリックをどこへ連れて行ったのかしら?」
沈黙になったからか、今まで黙っていたイヴェルザが話の続きを促す。
「大通りの宿で引き渡したと言ってました」
「二人組みだったのでしょ? もう一人は?」
「……報酬のやりとりで仲違いして、稼ぎを持ち逃げされたと言ってました。そちらの男の行方も追っています」
「それで、引き渡した相手の調査は?」
「自白に出た宿に確認をしましたが、台帳に書かれた名前は偽名のようでした。取引のためにサリ島から来た商人だと言っていたそうですが、エランドゥーダ語で会話しているのを従業員が聞いています」
ケヴィンの報告にコルトは眉をひそめる。
「サリ島なら独自の島国言語ですよね? エランドゥーダ語は使わないはずです」
「コルトさんのおっしゃる通りです。ですから偽名だろうと判断しました。その商人らしき男たちは、こちらも二人組だったそうですが、大きな荷物を運んでいて売り物だと言っていたそうです」
「そういえば、サリ島は大きな木製彫刻が有名だったわね」
「はい。商人たちもまさしく彫刻だと言っていたそうです。布で覆われた大人くらいの大きさの荷物だったと言っていました」
「それって」
「間違いなくエリックさんだろうと思われます」
「そいつらの追跡は出来ているのか?」
「いえ、残念ながら。宿屋の前で馬車を使ったようですが、どこにでもある似たような馬車だったため、そこからの足取りはつかめていません。これが四日前の話です」
エリックが魔獣討伐遠征に参加する予定だった日だ。
「エリック……」
「他に何か情報はないのか?」
「協力してくれている情報屋全員に確認を取ったところ、ひとつだけ興味深いものがありました」
「いちいち勿体ぶらないで早く説明しなさいよ」
ケヴィンが言葉を止めればイヴェルザがすかさず突っ込む。ケヴィンは急かす姉に苦笑した。
「勿体ぶってるつもりはないんですが……情報屋によれば「黒髪の錬金術師が担がれているのを見た」と」
「どういうこと? その情報屋はコルトのことを知っているということかしら? それともあなたが不要にコルトの情報を渡したんじゃないでしょうね?」
ケヴィンの報告にイヴェルザがすごむ。その圧に負けることなくケヴィンは目を細めて呆れたような表情を作りイヴェルザを見つめた。
「そんなことするわけないじゃないですか。姉さんでもオレを馬鹿にするなら怒りますよ?」
「わかったわ信じるわよ。じゃあ何でまるでコルトが攫われたような事を言ってくるのかしら?」
「わかりません。今からその確認に行くところです」
次々と目まぐるしく報告される事実に、コルトは正直どうしたらいいのかわからなくなっていた。
ただここでじっとケヴィンやルーティスに頼んで静観しているべきなんだろうか。
自分の代わりにエリックが攫われたというのに?
今エリックがどんな酷い目にあっているのか怖くて想像もできない。本当に、無事でいるんだろうか。
「大丈夫だ」
「ルーティス……様」
不安で蒼白になったコルトの手をルーティスの大きい手が包み込む。
「その情報屋はどこで見たと言っていた?」
「港です」
「予想通りか」
「もしかして、エランドゥーダの大型船……?」
「たぶん、そうだろうな」
思案顔で黙り込むルーティスにイヴェルザがため息をつく。
「その船が怪しくてもエランドゥーダのものなんでしょう? さすがに証拠もなく乗り込むのは賛成しないわ」
「そんなことはわかってますよ姉さん。とりあえず情報屋に話を聞いてから周辺を再度調査します」
(証拠……)
「せめてエリックさんが船にいるとわかれば、すぐにでも乗り込めるんですが」
「っ!!!!」
「? どうしたコルト?」
突然立ち上がったコルトにルーティスが驚きの声をあげる。
「エリックの居場所ならわかるかもしれません! 無くしたものを発見する魔術と隠蔽の魔術をエリックの財布に使っています!!」
(そうだ、そうだよ。なんで忘れてたんだよ! エリックが財布を持っているなら居場所を探せたじゃないか!)
コルトの言葉に三人が顔を見合わせる。
「財布だから抜き取られて別の場所にあるかもしれませんが、隠蔽が上手くいっていれば気付かれていない可能性もあります!」
「なるほど。試す価値はあるな。財布だけでも船にあれば人攫いに関与した疑いで調べる理由にはなる。確実にエリックの居場所に近づけるだろう」
「それはいい案ね。だけど、あの魔術の有効範囲はそんなに広くなかったから、先に船に乗らなくてはならないのが少し不安要素だけど」
「あ、少し改良したので、たぶん港地区全体くらいなら魔術範囲に入ると思います」
コルトの説明に、先程よりも神妙な面持ちで三人がまた顔を見合わせる。
「オレでもわかりますが、それは少しとは言わないと思いますよ」
「ええ、本当に。人の考えた魔術をいじるのって結構難しいのに。末恐ろしいわ」
「クッ、それなら好都合だ。どうせ話を聞きに行く情報屋は港の魔女だろう? コルトも連れて行ってエリックの財布の捜索と、お前が見た人物は別人だと伝えてこい」
「え、港の魔女って」
誰? とコルトが聞けぬまま、話はどんどん進んでいく。
「あら、それならわたしが連れて行くわ。エルメダには最近会ってなかったし、あなたたちは他にしておくこともあるでしょう?」
「ああ、そうしてもらえると助かる。必要なものも買っておいてくれ」
「頼みます、姉さん」
「任せてちょうだい」
トントン拍子に話は進み、コルトが口をはさむ隙も無くイヴェルザと港地区へ行くことになった。普段は乗合馬車で通っていたが、さすがに今回は辺境騎士団にある物資輸送用の目立たない馬車で行くことになった。
「必要になるかもしれないから、さっき作った回復薬も持っていきましょう」
コルトはイヴェルザに言われるままに荷造りをすると、ジェイクに渡されたお弁当を持って港地区へと向かった。
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