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40.海の魔獣
しおりを挟むドゴンとすごい音と共に甲板は陥没し、船が大きく揺れる。コルトは思わずよろめいて片膝をついた。
(な、なに????????)
「クケーだ! 気をつけろ!!」
コルトが丸太だと思ったものは大きなイカの足だった。一本がコルト三人分くらいの太さがある。
(クケーって巨大イカの魔獣……ええ、そんなものまで連れてきてたの??)
暖かい海に生息するクケーはランドリア周辺の海には生息していない。十本の巨大な足を縦横無尽にうごめかせるため行動が読めないだけでなく、ヌルヌルとした体は剣が通りにくく物理攻撃が効きにくい厄介な魔獣だ。焼いて食べると美味しいので倒した際にはお祭りを開く地域もあるというが、そうそう姿を見せる魔獣でもない。そのクケーが船に足を絡ませている。
(さっきの魔法陣の変な魔力……きっとクケーを呼び寄せるものだったんだ)
むしろクケーにとってひどく不快なものだったのかもしれない。船に絡みつく足の数は増えており、徐々に大きな体も船に乗り上げ始めている。全部乗ってしまえばその重みで船は沈むだろう。その前に絡みついた足で船体の半分くらいは破壊されてしまうかもしれない。
ルーティスは既に行動を開始していた。
船体に絡みつく足に攻撃を与えている。そのたびに魔剣が青く輝き、斬撃が月光を反射して煌めいた。一撃目ははじかれているようだが、二撃目となる水属性の魔術攻撃は効いているようで、少しずつ足が切り取られていく。
ぐねぐねと動く標的を相手に何度も同じ場所へ打ち込む技量と、邪魔をしてくる他の足を避ける瞬発力。まるで踊っているように優雅で無駄がない。美しい魔剣とルーティスの容姿も相まって完成された絵画のようだ。とても現実だとは思えない。
しかし実際は荒れ狂う船の上であり、コルトはどうにか立ち上がるだけで精いっぱいだった。それなりに鍛錬もして腕に自信はあったがレベルが違いすぎる。下手に近寄ればクケーの足の一撃でコルトなんてすぐに木っ端微塵となるだろう。
(どうしよう、攻撃は効いているけどクケーは海に棲む魔獣だから水の魔術には耐性が高い。このままだとルーティス様の体力が持たないかもしれない……)
ここにもしケヴィンがいたならば共闘して難なく倒すことも出来るのだろう。
(いや、違う。ここにいるのは俺なんだ。俺がルーティス様をフォローしないと……水に有効な魔術は)
コルトはウエストポーチから該当する魔道具を取り出す。先程と同じ石で出きた投石用の魔道具だ。
「ルーティス様! 雷撃で本体を攻撃して援護します!!」
荒れる船の上で激闘を繰り広げるルーティスにコルトの声が届いたかは疑問だが、雷撃は魔獣を伝って広がる可能性がある。近寄りすぎればルーティスにも被害が出る。
「さん! にー! いちっ!!!!」
コルトはめいいっぱい叫びながら魔道具をイカの頭へ投げつける。ルーティスがそれに合わせるように後ろに飛び距離をとった。魔道具はクケーに命中すると弾けて雷撃を走らせる。しかし一瞬クケーはのけぞりひるんだものの、大きなダメージはなかったようだ。
(くそ、この程度じゃ牽制にしかならない……!!)
それでもないよりはましかもしれないが、先程よりもメキメキと音をさせながら船にめり込んでいくクケーの足に危機感は募る。ルーティスは微々たる効果であってもクケーの隙を見逃さず、二本目の足を切り落としていた。
(もっと、大きな雷撃でないと……)
コルトは雷撃の魔道具を三つほどハンカチで包むとありったけの魔力を流し込む。
「もう一回やります!! さん! にー! いちっ!!!!」
コルトはパチパチと手の中で今にも弾けそうな魔道具をもう一度クケーに投げつけた。
(お願い! 大きな落雷みたいに弾けて、イカを丸焼きにしてくれ!!)
この魔道具にそこまでの威力がないことは知っている。だけど。
コルトは願う。空から落ちた雷が山の木を引き裂き燃やすように、どうか、強い閃光を発しますように。
コルトの願いが通じたのか、複数まとめたことにより魔道具の威力が変化したのか、コルトの投げた魔道具はクケーの身体にあたる前に白くスパークすると、空と海に向かって黄色い稲光を放った。クケーの身体を覆いつくすほどの雷が天地を貫く。
雷の振動でビリリと船が小刻みに揺れた。
「グオォォォォォォォオオオオオオオ」
クケーが空気を震わすような雄たけびを発し、海へと倒れていく。その体は黒く煤けており、命中した雷撃の効果があったことが見て取れた。
「よっし!! やった!!」
まさかこんな上手くいくとは思っていなかったコルトは浮かれていた。
だから隙が出来てしまった。
「コルト!! 避けろっ!」
「へ?」
ルーティスの叫び声に気づいた時には目の前に大きな壁があった。いや違うこれは壁でなくクケーの足だ、とコルトが気づいたのはその足に弾き飛ばされて上空に体が浮いてからだった。
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