44 / 57
44.呪いの検証
しおりを挟むルーティスの言った通り、その日の夜に辺境騎士団の第二大隊の隊長含む数名が避難用の小屋へ迎えに来てくれた。ケヴィンやイヴェルザは港の戦闘の後始末やらでこれなかったようだ。馬車に揺られて無事にランドリア家の屋敷へと戻ると、コルトは保護されていたというエリックと再会し、安堵のあまりその場で倒れてしまった。
「コルト!」
「コルト様!!」
幸いにも床に倒れることはなく、隣に居たルーティスに抱きかかえられて客用の寝室へ運ばれる。それから丸一日、寝込むことになった。
その翌日からコルトは精力的にルーティスの呪いについて調べ直すことにした。誘拐事件の片がつくまではエリックと辺境伯邸に居る様にと言われていたのでこれは幸いと工房で寝泊まりしてしまい、エリックに怒られたのは言うまでもない。
そうこうしているうちにあっという間に一週間が過ぎ去っていた。忙しいのかルーティスには屋敷に戻ってから一度も会えずにいる。その代わりケヴィンやイヴェルザが交代で工房に様子を見に来てくれていた。
さっそくコルトは竜の呪いについての考察をまとめると、イヴェルザに聞いてもらうことにした。
「……まさか、魔術印が」
「はい。ケヴィンさんにも魔術印を見せてもらいましたが、本当に皆さん普通に身につけているんですね。ケヴィンさんのものも前ランドリア辺境伯夫人が施したと聞いていますが、特に変わった効果はなさそうでした」
「ええそうよ、わたしのもそう。他にも何人も奥様に施してもらった者はいるわ。……だからまさかそれが原因だなんて思いもしなかった」
魔術印を体に持つ者はルーティスだけではない。もちろん呪いを調べるのにイヴェルザ達だってルーティスの身体検査はしただろう。だが死にかけにでもならなければ魔術印は発動しない。いや、正確には目に見える魔力の流れが起きない、と言うべきか。
「赤ん坊の時に施したという『健康と成功を願う魔術印』自体は従来通りの効果しかなかったんだと思います。……そのあと、背中に施したという『守護の魔術印』がルーティス様の体に大きく影響して、もともとあった他の魔術印を変化させたのではないかと考えます」
ルーティスの背中にあった『守護の魔術印』は竜との戦いで損傷しており、今となっては実際どんなものだったのかコルトが知ることはできないが、記録を見ただけでもかなり強い魔術が施されていたのは間違いない。
前ランドリア辺境伯が亡くなり、十二歳でその重責を継いだ息子を憂いた母親の執念の魔術ともいえる。
(いや、執念というか強い愛と願い……かな)
実際この魔術印のお陰でルーティスは二年前、九死に一生を得たという。背中をえぐられた時に光の幕が盾のように現れて、竜の爪を弾き飛ばしたのを何人もの騎士が目撃していた。そのおかげで反撃も出来、どうにか竜を打ち倒すことに成功した。
「たしかに『守護の魔術印』はルーティス様を守ったわ。でも魔術が常に発動していたなんて……」
「こちらを確認してください」
コルトが工房の中央にある作業台に用意していたのは二つの鉢植えだ。ともに回復薬の原料としてよく使う水仙によく似た花が植わっている。
「リリキネの花です。両方とも手でちぎってもらってもいいですか?」
イヴェルザはコルトの真意がわからず首を傾げつつも言われたとおりにリリキネの茎を手折る。片方はあっさりと千切れたが、もう片方の茎は硬く思った以上の力が必要だった。眉を寄せるイヴェルザに、コルトは硬い茎をもつリリキネの葉の裏をめくって見せた。
「これって……」
「『守護の魔術印』です。この魔法陣は魔力を内包するモノに付与することで皮膚強度を上げ、物理攻撃を受けにくくする効果がありました」
「そんな……」
愕然とするイヴェルザに、コルトは『守護の魔術印』を使った検証結果を見せる。期間も短く生き物に魔法陣を正確に施すのはコルトには無理だったので、検証したのは主に植物だ。
いくつか実験した結果、魔力を多く持つ植物ほど表皮が硬くなった。逆に魔力を全く持たない紙などは変化がなかった。
「この結果から、魔力を持つ者であれば意識がなくともこの魔法陣で魔術が発動することが分かります。少し話は逸れるのですが、この皮膚強化と同じ系統の魔術を竜やクケーは使えるんだと思います。たぶん魔獣は生まれつき魔法陣の代わりとなるような、魔術を発動させる器官というか体質を持っているのでしょう」
コルトは素材となった竜の皮も確認した。生きている竜には魔剣でないと怪我を与えられないのに、皮だけになるとナイフでも切り裂くことが出来る。鱗も同じだ。硬いことは硬いが、ナイフで貫けないことはない。素材になると途端に強度が下がっている。これはつまり素材の状態では魔力もないし魔術を使うために必要な要素も足りず、強化の魔術が解けたからなのだろう。
「本来は魔獣と同じような皮膚強化のための魔法陣だったんだと思います。光の盾の出現は魔法陣が損傷したことによって意図せず発動したんじゃないでしょうか。いくつか魔法陣に傷をつけて再現できないか試したんですが無理でした」
魔法陣は線や図形で描かれている。そこに線を一本足すだけで効果は違ってくるのだ。偶然にも竜の攻撃が意味をなす傷を作り、尚且つ大量の魔力が流れ込んだことで光の盾は発動した魔術なのだろう。
それがルーティスを守ったというなら奇跡としか言いようがない。
コルトの説明にイヴェルザは頭を抱えながら近くにあった椅子に崩れ落ちた。
361
あなたにおすすめの小説
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。
夏笆(なつは)
BL
公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。
ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。
そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。
初めての発情期を迎えようかという年齢になった。
これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。
しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。
男性しか存在しない、オメガバースの世界です。
改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。
※蔑視する内容を含みます。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる