婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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44.呪いの検証

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 ルーティスの言った通り、その日の夜に辺境騎士団の第二大隊の隊長含む数名が避難用の小屋へ迎えに来てくれた。ケヴィンやイヴェルザは港の戦闘の後始末やらでこれなかったようだ。馬車に揺られて無事にランドリア家の屋敷へと戻ると、コルトは保護されていたというエリックと再会し、安堵のあまりその場で倒れてしまった。

「コルト!」
「コルト様!!」

 幸いにも床に倒れることはなく、隣に居たルーティスに抱きかかえられて客用の寝室へ運ばれる。それから丸一日、寝込むことになった。
 その翌日からコルトは精力的にルーティスの呪いについて調べ直すことにした。誘拐事件の片がつくまではエリックと辺境伯邸に居る様にと言われていたのでこれは幸いと工房で寝泊まりしてしまい、エリックに怒られたのは言うまでもない。

 そうこうしているうちにあっという間に一週間が過ぎ去っていた。忙しいのかルーティスには屋敷に戻ってから一度も会えずにいる。その代わりケヴィンやイヴェルザが交代で工房に様子を見に来てくれていた。
 さっそくコルトは竜の呪いについての考察をまとめると、イヴェルザに聞いてもらうことにした。

「……まさか、魔術印が」
「はい。ケヴィンさんにも魔術印を見せてもらいましたが、本当に皆さん普通に身につけているんですね。ケヴィンさんのものも前ランドリア辺境伯夫人ルーティス様の母君が施したと聞いていますが、特に変わった効果はなさそうでした」
「ええそうよ、わたしのもそう。他にも何人も奥様に施してもらった者はいるわ。……だからまさかそれが原因だなんて思いもしなかった」

 魔術印を体に持つ者はルーティスだけではない。もちろん呪いを調べるのにイヴェルザ達だってルーティスの身体検査はしただろう。だが死にかけにでもならなければ魔術印は発動しない。いや、正確には目に見える魔力の流れが起きない、と言うべきか。

「赤ん坊の時に施したという『健康と成功を願う魔術印』自体は従来通りの効果しかなかったんだと思います。……そのあと、背中に施したという『守護の魔術印』がルーティス様の体に大きく影響して、もともとあった他の魔術印を変化させたのではないかと考えます」

 ルーティスの背中にあった『守護の魔術印』は竜との戦いで損傷しており、今となっては実際どんなものだったのかコルトが知ることはできないが、記録を見ただけでもかなり強い魔術が施されていたのは間違いない。
 前ランドリア辺境伯が亡くなり、十二歳でその重責を継いだ息子をうれいた母親の執念の魔術ともいえる。

(いや、執念というか強い愛と願い……かな)

 実際この魔術印のお陰でルーティスは二年前、九死に一生を得たという。背中をえぐられた時に光の幕が盾のように現れて、竜の爪を弾き飛ばしたのを何人もの騎士が目撃していた。そのおかげで反撃も出来、どうにか竜を打ち倒すことに成功した。
 
「たしかに『守護の魔術印』はルーティス様を守ったわ。でも魔術が常に発動していたなんて……」
「こちらを確認してください」

 コルトが工房の中央にある作業台に用意していたのは二つの鉢植えだ。ともに回復薬の原料としてよく使う水仙によく似た花が植わっている。

「リリキネの花です。両方とも手でちぎってもらってもいいですか?」

 イヴェルザはコルトの真意がわからず首を傾げつつも言われたとおりにリリキネの茎を手折る。片方はあっさりと千切れたが、もう片方の茎は硬く思った以上の力が必要だった。眉を寄せるイヴェルザに、コルトは硬い茎をもつリリキネの葉の裏をめくって見せた。

「これって……」
「『守護の魔術印』です。この魔法陣は魔力を内包するモノに付与することで皮膚強度を上げ、物理攻撃を受けにくくする効果がありました」
「そんな……」

 愕然とするイヴェルザに、コルトは『守護の魔術印』を使った検証結果を見せる。期間も短く生き物に魔法陣を正確に施すのはコルトには無理だったので、検証したのは主に植物だ。
 いくつか実験した結果、魔力を多く持つ植物ほど表皮が硬くなった。逆に魔力を全く持たない紙などは変化がなかった。

「この結果から、魔力を持つ者であれば意識がなくともこの魔法陣で魔術が発動することが分かります。少し話は逸れるのですが、この皮膚強化と同じ系統の魔術を竜やクケーは使えるんだと思います。たぶん魔獣は生まれつき魔法陣の代わりとなるような、魔術を発動させる器官というか体質を持っているのでしょう」

 コルトは素材となった竜の皮も確認した。生きている竜には魔剣でないと怪我を与えられないのに、皮だけになるとナイフでも切り裂くことが出来る。鱗も同じだ。硬いことは硬いが、ナイフで貫けないことはない。素材になると途端に強度が下がっている。これはつまり素材の状態では魔力もないし魔術を使うために必要な要素も足りず、強化の魔術が解けたからなのだろう。

「本来は魔獣と同じような皮膚強化のための魔法陣だったんだと思います。光の盾の出現は魔法陣が損傷したことによって意図せず発動したんじゃないでしょうか。いくつか魔法陣に傷をつけて再現できないか試したんですが無理でした」

 魔法陣は線や図形で描かれている。そこに線を一本足すだけで効果は違ってくるのだ。偶然にも竜の攻撃が意味をなす傷を作り、尚且つ大量の魔力が流れ込んだことで光の盾は発動した魔術なのだろう。
 それがルーティスを守ったというなら奇跡としか言いようがない。

 コルトの説明にイヴェルザは頭を抱えながら近くにあった椅子に崩れ落ちた。
 
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