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番外編
それを人は「身から出た錆」と言う 【後編】
しおりを挟む「あの……これはどこに?」
「先日捕まえた窃盗犯から回収しました。ソイツの自供からエリックさんのものだと判断したのですが。アナタのもので間違いないですよね?」
「ええ、たぶん……」
笑顔なのに威圧を感じて、エリックの背筋にゾワリと悪寒が走る。
そもそも考えてみれば誘拐事件の時のケヴィンたちの対応はおかしかった。エリックが誘拐された原因を深く追究しなかったのだ。なぜコルトと間違われることになったのか、一言も聞かれなかった。
確かにコルトとエリックは容姿や雰囲気が似ている。だが名前を偽っているわけではないし、コルトを探しに来た者がエリックを攫うのは少し無理があるのだ。
エリックという偽名をコルトが使っているとでも思わない限りは、エリックが狙われることなどないだろう。
目の前でにっこりと微笑むケヴィンの顔が怖い。
「そうですか。それなら中身も確認していただけますか?」
「……はい」
エリックは震えそうになる手で財布を確かめた。中には硬貨がいくつか入っている。盗まれた時の正確な金額は覚えていないが少し多い気がした。あと、ファリシアンから託されたアクセサリーがない。
「少しお金が増えてるような……」
「そうですか。他には?」
ファリシアンから託されたものは「路銀に困ったら売ってもいいからね」と渡されたものだ。それだけの理由で持たされたものではないとエリックはわかっているが、盗まれて売られてしまっていても、取り戻す必要はないだろう。
あのアクセサリーはもう十分役目を果たしている。
もともとエリックは「何かあったらコルトを守るように」とファリシアンに期待されて採用された護衛だ。その意味をエリックは正しく理解しているつもりだが、辺境領へ来る時にファリシアンから解雇されている。「好きに生きていいからね」とは言われたが、コルト一人を辺境へ送り出すわけにもいかず、自ずとエリックの行動は決まった。ファリシアンに無言で強要されたと言うよりは、自分よりも何倍も不自由な立場でそれでも悲観せず、頑張って努力を実らせていく弟のようなコルトを守りたいと思っての行動だった。その辺りは言葉にしなくてもファリシアンとエリックの思いは同じだったのだろう。あるいはそんな善良なエリックの性格までも織り込み済みで、コルトの身代わりに率先してなるように仕向けられていたのかもしれない。
だが例えそうだとしても、エリックは自分の意志で敬愛する大切なコルトのためにここまでやってきた。
そもそもケヴィンがエリックをよく誘うのも親切心ではなく、コルトのことを探りたかったからなんだろう。コルトと共にいる以上、エリックもそういったしがらみに囚われるのは仕方がないことだと理解している。
突然王都からやってきた婚約者だ。辺境伯の腹心として、主に相応しいか、なにか良からぬ企みをしていないか、周りの者から探っていくのは基本である。
しかしそれももう必要ない。
コルトはルーティスと正式に結婚し、ランドリア辺境伯夫人となった。ケヴィンがエリックに探りを入れる必要はないだろう。
そしてエリックがコルトの身代わりになることもない。そんなことをする必要もないくらい、ランドリア辺境伯はコルトを守ってくれるはずだ。高位貴族だが子どもだったファリシアンとはわけが違う。ランドリア辺境伯は名実ともに頼りになる英雄なのだから。
ふとそこまで考えて、エリックの表情が曇ってしまった。
これからはケヴィンに誘われ二人で食事をする機会はなくなるのだろう。よく考えなくてもケヴィンはランドリア辺境伯同様、エリックがおいそれと会える人物ではない。こんな風に気さくに食事を囲む相手ではないのだ。
エリックは財布の中身から視線を上げると、笑顔で威圧してくる無言のケヴィンを見る。
ケヴィンは笑顔だがいつもの少年のような親しみやすさはなく、どこか余所行きのような、壁を感じるような冷たさがあった。
きっとこれからはこういう事務的な顔しか見せてくれなくなるのだろう。
チクリと胸が痛む。ケヴィンに会えなくなるのは寂しいと、エリックは素直に思った。
だが、それも仕方ない。身分が違うし、自分はなんのとりえもないただの平民βだ。エリックはそっと心のなかでため息をつく。ファリシアンに解雇された時よりも気持ちが沈んでいた。
「……ファリシアン様から頂いたものがなくなっていますが、あれは路銀に困ったら売るようにといただいたものなので、ないならないで構いません。その分、現金になっているようですし」
「本当に? 探す必要はありませんか? アナタにとって、とても大切な物なのでは?」
「え? いえ、特に思い入れもないですし、探す必要もないです」
エリックが答えると、さらに目を細めてケヴィンが探るように問いかけてきた。あのアクセサリーはエリックにとってただの宝飾品以上の深い意味はない。
なぜか身を乗り出して確認してくるケヴィンに、エリックは少し体を引きながら答える。何故そんなに前のめりなのか。
「……わかりました。それは良かったです」
ケヴィンはエリックの回答に納得すると、深くため息をつき脱力したように天を仰いだ。きっとケヴィンはエリックが探してほしいと言ったら探すつもりだったのだろう。たしかに大きな魔石だったし追跡はしやすいだろうが、手間が増えることには違いない。それが不要だとわかり安堵したのだろう。
本当にランドリアの人たちはみんな面倒見が良くて親切だ。
これもきっとランドリア辺境伯の人柄のおかげだろう。最初は嫌な人だと思ったが、今となっては頼りになる立派な人物だというのがわかる。
「もし探し出してほしいと言うなら見つけ出すのはやぶさかではなかったのですが、発見次第、王都に行って突き返さなければと思っていたので、必要がないというなら助かりました」
「王都、に?」
なぜ? とエリックは不思議そうに首をかしげる。
「その様子なら本当に必要なさそうですね」
「そう、ですね?」
やれやれと言った表情を浮かべるケヴィンにエリックは首をかしげたまま頷いた。
「そういえば、最近コルトさんが見違えるように美しくなられたじゃないですか。幸せがにじみ出ているといいますか。エリックさんも色気を増す必要があるならオレがお手伝いしようと思っていたんですけど、それも必要なさそうですね」
吐息交じりに言うケヴィンの言葉を最初理解できなかったエリックはさらに首をかしげる。
そこでふと、ケヴィンは最近のコルトは雰囲気が変わり、エリックが似ていないと言っているのだと気づいた。
「……もし、コルト様に似ているべきなら考慮しますが」
ケヴィンの言葉の真意はエリックに全く伝わらなかったが、エリックの言葉の意図はケヴィンに正しく伝わる。
「ぐっ、違います。そうじゃないんです。そうじゃないんですよエリックさん!!!! アナタが犠牲になる必要はもうないので大丈夫ですからね!!」
「?? はぁ。そう、ですよね」
ケヴィンはエリック以上にランドリア辺境伯の実力を知っているだろう。コルトの替え玉なんて用意する必要はないとわかっているはずだ。
ではさっきのはどういう意味なのだろうかと、エリックは再び首をかしげる。
「……これは長期戦になりますね」
「えっと?」
「なんでもありません。財布をお返しできて良かったです。そういえば先日いいお酒を貰ったんですよ。よろしければこの後ウチにきませんか?」
ケヴィンに家に誘われたことは何度があるが、タイミングが合わなかったりさすがにそれは図々しいと思い今までエリックは遠慮してきた。
だが、今後こんな風に声をかけてくることもなくなるだろう。最後の思い出にはいいかもしれない。
「はい、是非」
エリックはしっかりとケヴィンを見つめ返すとどことなく切なげに微笑んだ。
その後、ケヴィンの好意に気づかず、執拗に誘われ続けることで「スパイとして疑われているのでは?」とエリックが疑心暗鬼になったり、それを見たコルトとイヴェルザがすれ違う二人にヤキモキすることになるのだが、それはまた別の話である。
◆ おわり ◆
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とっても面白かったです(^^)
ケヴィンとエリックの別の話も是非‼️
コルトもいい子でしたが、エリックもとってもいい子。
幸せになってもらいたいです💕
yu様
お読みいただきありがとうございます!
エリックたちも気に入っていただけて嬉しいです。
二人の話も書けたら…と思っておりますので、見かけた際にはよろしくお願いします。
改めまして感想ありがとうございました。
とても面白かったです!
文章も読みやすく、一気に読んでしまいました。
他の作品も読ませていただきたいと思います!
ありがとうございました!
なのはな様
お読みいただきありがとうございます!楽しんでいただけて嬉しいです!
他の作品もお読みいただけるとのお言葉も作者冥利に尽きます。
改めまして感想ありがとうございました!
ケヴィンさんが可愛すぎます!登場人物みんながラブリーなところがあって読んでてほっこりします!
ぴぴぴ様
感想ありがとうございます!
脇キャラたちも気に入っていただけて嬉しいです。