全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

36話 不穏な気配

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そんなに悔やんでくれるのならば、どうしてあの時……。
本当に支えて欲しかった時は、別の女にうつつを抜かしていた癖に。
何で今更……。
遅すぎるんだよ、何もかもが。
失って初めて気付くなんて。

「愚かにも程があるだろ……」

分かっている。
前世の彼と今世の彼は、同じであって、同じじゃない、と。
けれども、どうしても割り切れない。
それは自分がシリルでありながらシルヴィアでもあるからなのか。
何でかな~と、ぼんやり考えていた。

呑気にそんな思考を巡らせる程、僕はもう常人の感覚からは離れていってしまっていた。
ただ、もうすぐ訪れる終わりを前に。
今度こそは、戻りたくない。
もう、全て終わりにしたい、と。
縋る希望を全て諦めて、暗闇の中を微睡んでいた。

あれから、どれほど時間が経ったのだろう。
暗い地下牢の中で時間の感覚が掴めないから、ほんの少しが永遠にも感じるし、長い時間がすぐに経った様にも感じる。
ただ、春先のこの時期。
服はしっかりと着込んでいるとは言え、冷たい床で横になっているだけだと、体の熱がどんどん奪われていく様に感じる。

寒いのは嫌いだ。
氷を作れる製氷機の癖に。

馬鹿な事を何と無しに考えていると、不意にまた物音がした。
何だ、また王太子か?
訝しんで振り返るが、足音が今度は一人ではない。
数人だ。

恐らくもう夜分だろう。
そんな時分に尋問か?
おかしい……。

あ、そう言えば……殿下が来られた時に離れた兵士達が、居ない。
まだ戻ってないのか?
そんな事、有り得るだろうか?

あんなに憎しみの篭った目で睨み付けていたのに。
それなのに、仕事をサボっているのか?
いやいや、そんな筈ないだろう。

近付く足音が大きくなるにつれ、僕の心臓はドクンドクンと嫌に大きく音をたてていく。
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