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第4章
162話 涙と微笑み
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「シリル様っ……シリル様!!」
「シリルッ」
耳元で大きな声で名を呼ばれて。
全身が鉛の様に重く鈍い感覚だったが、それでもなんとか瞼をこじ開けた。
「……」
まだぼんやりする頭で、なんとか目に映る景色を捉えようとしたところ。
僕の視界に飛び込んで来たのは……。
「…え。サフィル?……あれ。カイト…カレン…テオも。」
僕はまた、サフィルの腕の中に居て。
その周囲には目に涙をいっぱい貯めたカイトとカレンと。
その後ろに居たのは、テオに、ロレンツォ殿下、ジーノも。
……更には、何故かカミル殿下も居て。
ヴァルトシュタイン侯爵は、そのカミル殿下の隣から、僕の方を見ていた。
「え……どういう事…?」
僕は訳が分からないまま、働かない頭で必死に状況を確認しようとして。
ちょっと体を動かそうとしたが、全然身じろぎが出来ない。
全身が本当に鈍く重たいのだ。
それでも動こうとして、不意に頬にぽたりと何かが触れる。
視線を向けると、それは、僕を抱きしめてくれているサフィルの零した涙だった。
「サフィル……」
「シリル様……目を覚まされて、良かった。本当に、良かったっ」
僕を抱きとめている肩を掴む彼の手に、少し力が籠るのを感じた。
僕は零れる彼の涙を拭ってあげたかったけれど、生憎上手く腕に力が入らない。
戸惑いながら、視線を彷徨わせると。
僕を見つめる皆の、張り詰めていた空気が一気に解き放たれたのか。
「うあぁぁぁん!よかったよぅーシリルー!!」
そう言って堰を切って泣いて抱き付いて来たカイトとカレンに、僕は自力で身動きが取れないまま、もみくちゃにされた。
「う、うぐっ…ちょ、苦しっ」
「シリルー!良かったぁぁぁ!滅茶苦茶心配したんだからねぇっ」
救世の巫子達は、いつも、どちらかが暴走すると、どちらかが止めに入るのだが。
今回は二人ともがぎゅうぎゅうに僕を締め上げる様に抱きしめて、完全に我を見失っていた。
僕はテオに助けを求めたが、テオも滅茶苦茶泣いてしまっていて、ちゃんと見えているのかよく分からない。
でも、二人に声を掛けてくれて、僕はようやく落ち着きを取り戻せた。
「こほっ……。その、沢山心配をさせてしまって……ごめんなさい。でも、あの、この状況は……どういう……」
未だ状況を理解しきれない僕に、一番奥に居たヴァルトシュタイン侯爵が側に寄って来た。
その事に、僕を抱きしめていたサフィルの手に力が籠ったのが分かったが。
僕は大丈夫ですよ、とサフィルに微笑んで見せた。
「侯爵。」
「シリル、説明しよう。座れそうか?」
「い、いえ。なんか…だるくて力が入らない感じで。」
「そうか…」
僕の返答に、侯爵は少し表情を曇らせたが。
それより、僕は早く教えて欲しくて、侯爵に先を促した。
「……お前がその魔力を全て開放し、私に全て受け渡してくれたんだ。私が、アナトリアにしたみたいに。」
「上手く、出来たんですか?」
「…あぁ。ちゃんと返してもらった。」
そう言って、胸を押さえる侯爵の手から、微かに僕が放っていたのと同じ色の光が漏れ出ている。
それは、少し前に感じていた、僕の魔力の気配そのものだった。
「……良かった。貴方に奪わせるのではなく、僕の方から渡せたんですね。」
僕が心底ホッとして微笑むと。
頭上から、僕を抱きしめてくれているサフィルが声を荒げた。
「良くありません!魔力の譲渡はとても難しく、魔術を使い慣れている者でもない限りまず無理だと、侯爵が言っていました。だから、貴方の命すら……助かるか分からないとっ」
「僕の事、心配して下さったんですか?」
「そうです!!また、貴方を失ったかと思うとっ」
込み上げて来る思いが涙で溢れて、サフィルは言葉を詰まらせた。
それを、僕はなかなか力の入らない腕をなんとか伸ばして、彼の涙をそっと拭った。
「僕の為に、泣いて下さるんですか?…ありがとう、サフィル。」
「シリルッ」
耳元で大きな声で名を呼ばれて。
全身が鉛の様に重く鈍い感覚だったが、それでもなんとか瞼をこじ開けた。
「……」
まだぼんやりする頭で、なんとか目に映る景色を捉えようとしたところ。
僕の視界に飛び込んで来たのは……。
「…え。サフィル?……あれ。カイト…カレン…テオも。」
僕はまた、サフィルの腕の中に居て。
その周囲には目に涙をいっぱい貯めたカイトとカレンと。
その後ろに居たのは、テオに、ロレンツォ殿下、ジーノも。
……更には、何故かカミル殿下も居て。
ヴァルトシュタイン侯爵は、そのカミル殿下の隣から、僕の方を見ていた。
「え……どういう事…?」
僕は訳が分からないまま、働かない頭で必死に状況を確認しようとして。
ちょっと体を動かそうとしたが、全然身じろぎが出来ない。
全身が本当に鈍く重たいのだ。
それでも動こうとして、不意に頬にぽたりと何かが触れる。
視線を向けると、それは、僕を抱きしめてくれているサフィルの零した涙だった。
「サフィル……」
「シリル様……目を覚まされて、良かった。本当に、良かったっ」
僕を抱きとめている肩を掴む彼の手に、少し力が籠るのを感じた。
僕は零れる彼の涙を拭ってあげたかったけれど、生憎上手く腕に力が入らない。
戸惑いながら、視線を彷徨わせると。
僕を見つめる皆の、張り詰めていた空気が一気に解き放たれたのか。
「うあぁぁぁん!よかったよぅーシリルー!!」
そう言って堰を切って泣いて抱き付いて来たカイトとカレンに、僕は自力で身動きが取れないまま、もみくちゃにされた。
「う、うぐっ…ちょ、苦しっ」
「シリルー!良かったぁぁぁ!滅茶苦茶心配したんだからねぇっ」
救世の巫子達は、いつも、どちらかが暴走すると、どちらかが止めに入るのだが。
今回は二人ともがぎゅうぎゅうに僕を締め上げる様に抱きしめて、完全に我を見失っていた。
僕はテオに助けを求めたが、テオも滅茶苦茶泣いてしまっていて、ちゃんと見えているのかよく分からない。
でも、二人に声を掛けてくれて、僕はようやく落ち着きを取り戻せた。
「こほっ……。その、沢山心配をさせてしまって……ごめんなさい。でも、あの、この状況は……どういう……」
未だ状況を理解しきれない僕に、一番奥に居たヴァルトシュタイン侯爵が側に寄って来た。
その事に、僕を抱きしめていたサフィルの手に力が籠ったのが分かったが。
僕は大丈夫ですよ、とサフィルに微笑んで見せた。
「侯爵。」
「シリル、説明しよう。座れそうか?」
「い、いえ。なんか…だるくて力が入らない感じで。」
「そうか…」
僕の返答に、侯爵は少し表情を曇らせたが。
それより、僕は早く教えて欲しくて、侯爵に先を促した。
「……お前がその魔力を全て開放し、私に全て受け渡してくれたんだ。私が、アナトリアにしたみたいに。」
「上手く、出来たんですか?」
「…あぁ。ちゃんと返してもらった。」
そう言って、胸を押さえる侯爵の手から、微かに僕が放っていたのと同じ色の光が漏れ出ている。
それは、少し前に感じていた、僕の魔力の気配そのものだった。
「……良かった。貴方に奪わせるのではなく、僕の方から渡せたんですね。」
僕が心底ホッとして微笑むと。
頭上から、僕を抱きしめてくれているサフィルが声を荒げた。
「良くありません!魔力の譲渡はとても難しく、魔術を使い慣れている者でもない限りまず無理だと、侯爵が言っていました。だから、貴方の命すら……助かるか分からないとっ」
「僕の事、心配して下さったんですか?」
「そうです!!また、貴方を失ったかと思うとっ」
込み上げて来る思いが涙で溢れて、サフィルは言葉を詰まらせた。
それを、僕はなかなか力の入らない腕をなんとか伸ばして、彼の涙をそっと拭った。
「僕の為に、泣いて下さるんですか?…ありがとう、サフィル。」
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