全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

41話 約束

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巫子達とシルヴィアが来てからそろそろ十日が過ぎようとしていた。

ヴァルトシュタイン侯爵は、あの事件から数日後には本国へ帰ってしまったが、その前に個人的に会う機会を得られて、シルヴィアと共に両親の話もたくさん聞く事が出来た。
侯爵とシルヴィアはまだどこかぎこちない空気もあったが、それでも自身の知らない父と母の話を聞けた事は、彼女にとってとても良い財産となった事だろう。

巫子達は街を散策の傍ら、相変わらず救済に奔走してくれたし、こちらでも幻惑の虜の中毒患者も救ってくれた。
その事に、国王陛下もヴァレンティーノ王太子殿下らも、とても感謝なされていたが。
パーティーだけは断固拒否を貫いていた。
簡単な食事会は行われ、彼らはそれに胸を撫で下ろしていたが。
その様子を見たヴァレンティーノ殿下が、ようやく巫子達の好みを分かってこられたのか、後日あの事件の功労者を集めて内輪だけで無礼講の簡単なパーティーを開いて下さったら。
何も活躍出来なかったとしょげていた二人が一番喜んではしゃいでいたのは、ちょっとおかしかった。

そうして日々を楽しく過ごしていた昼下がり。
街を見下ろせる小高い丘へ案内して、一息ついてのんびりしていた、そんなのどかなひと時だった。

「あー、楽しかった!こんなに街中を遊び歩いたのは初めてだったもの!」
「うん!前は私達も救済で必死だったしね。」
「こんなに心置きなくシリルと遊べて、本当に良かったよー!」

シルヴィアとカレンとカイトが、口々に感想を述べてくれていたら。

「……あれ?シルヴィア、髪の色が……目もっ?!」

彼女と目を合わせたら、僕と同じ筈の銀色の髪と藍色の瞳の色が変わってしまっていて。
淡いプラチナブロンドの髪に、茶色の瞳になっていた。

「……あ、ホントだ。元に戻ってる。」
「どういう事?……そう言えば、此処へ来た時も、最初その色だったよね?」
「向こうの世界の両親の影響でしょうね、私、あっちの世界じゃこの髪と目の色なの。2Pカラーみたいよねー。」
「…つーぴぃカラー?」

聞いた事のない言葉に首を傾げるが、そんな呑気な反応をしている場合ではなかった。

「えぇ~!もう終わりぃ?!」
「早すぎるわよぉーっ!」

傍で文句を口にするカイトとカレンは、空に向かって拳を振り上げるが、その手が透けて空の青と同化していた。

「うわーん、シリルーぅ!まだ居たいよぉ!帰っても今年の夏マジで暑いんだよぉ~。」

カイトはまだ帰りたくないと僕に縋って泣き付くが、嫌がる理由が下らなすぎる。

「もー、ゼルヴィルツのケチィ!……テオさーん!私達もう帰んなきゃなんないのぉ…」
「あぁ、カレンさん。せっかくおいで下さったのに、もうですか?」
「うん…。テオさん、どうかシリルの事これからもよろしくね。」
「はい、任せて下さい。」

少しずつ薄くなる体をフワリと宙に浮かせながら、カレンはまたテオに僕の事を託していた。

そして、シルヴィアは。

「く…っもうだなんて。……シリルお兄様、名残惜しいですが…シルヴィアはカレン達と戻ります。離れても、ずっと……お兄様の幸せを願ってるから!」
「それは僕もだよ。向こうでもどうか元気でね。あんまり無茶しちゃ駄目だからね。」
「大丈夫よ!それなりにやってるから。あ、でも…来年は受験があるから来れないかも……。再来年!再来年の夏、絶対大学合格してまた来るから!そしたらまた遊んでくれる?」
「もちろんだよ。勉強頑張って。その頃には僕も仕事頑張ってるって、胸を張れる様に励むから。」

約束だよ、と透け始める彼女と指切りをした。
必ずまた、会える事を願って。

シルヴィアもカレンとカイト同様、フワッと体が浮き始めたが。
僕との別離に涙ぐんでいたかと思ったが、空へと引っ張られる力に抗って、彼女はロレンツォ殿下の方へ寄って行った。

「絶対また来るからね!私の言った事忘れんじゃないわよ?!」
「あぁ。充分胸に刻んだ。」

また高圧的なキツイ口調で言ったのに、穏やかな声音で返されて、シルヴィアは毒気を抜かれた様だったが。
すぐさま視線を隣のサフィルへと向けた。

「サフィル!シリル兄様泣かしたら、許さないんだからね!分かった?!」

急に話を振られた彼はギョッとなって、何故か、そろ~っと彼女から視線を外している。

「え?!ちょっと、何よその反応!どういうつもり?ねぇ…っ」

ふわふわと舞い上がっていっても、シルヴィアはそれに抗おうと泳ぐ様に下へ降りて来ようとするが。

「ちょっと、シルヴィア!離れたら危ないよ!はぐれて上手く戻れなかったらどーすんの?!」
「そうよ、もう!……皆さん、お騒がせしました。ちゃんと連れて帰りますから。お世話になりました~。」

体を宙に漂わせながら、シルヴィアの両腕を両片方から掴んで、カレンとカイトがぐいぐいと引っ張って行く。
彼女は暴れて抗っている様だが。

「!」
「シルヴィア様、何も心配ございません。シリルは絶対に離しませんから。」
「?!最後に見せつけてんじゃないわよ、バカァァァァァァ………」

背後から僕を抱きしめたサフィルは、消えゆくシルヴィアに自信たっぷりの声でそう答えたが。
彼女は姿が消えるその瞬間まで、大きく声を響かせていた……。

「………行っちゃった。」
「最後まで騒がしかった…。」

光の粒の残滓が煌めき消えるのを見届けて、ポツリと呟いた僕に、ジーノがうんざりした声でぼやいていた。
その言葉に苦笑していたら、抱きしめられたままサフィルから頬に軽くキスをされる。

「あっという間でしたが、思い出は作れました?」
「うん…!ありがとう。お陰でとても楽しい思い出がたくさん出来たよ。」

少し潤む瞳を細めて微笑んだら、皆が笑顔を返してくれたのだった。
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