運命なんて知らない

なかた

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酔っ払いはタチが悪い

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「雪、今日、友達と飲んでくるからご飯いらない」
「飲みすぎないようにね」
「うん」
彼女と別れた友達を慰めるらしい。
なんでも、結婚まで考えたらしい。
運命の番だったとか。でも、相手は家で決められた婚約者と結婚することになり別れたらしい。
運命の番でも結婚できないなんて辛いだろうな。

「遅い!鮎川」
「ごめん。てか、もう飲み始めてんの?」
「南雲、相当辛いみたいでずっと飲んでるし泣いてる。俺、なんて慰めたらいいのか分からなくて」
早坂はβだから余計なこと言えないもんな。まあ、同じΩでもそこまで変わらないけど。
「南雲、大丈夫?」
「大丈夫ばない」
「まあ、そうだよね。運命だったんだもんね」
「もう、アイツ以外好きになれる気がしない。早く忘れないといけないのに」
「別に忘れなくていいんじゃないの。好きでいても」
「だって、そしたら俺、もう二度と幸せになれないじゃん。一緒にいれない相手を思ってるなんて虚しいよ」
「忘れようとして忘れるなんて難しいじゃん」
「でも、忘れたい」
忘れられたら、楽だろうな。
嫌いになれたらいいのに。
運命の番じゃなきゃ他にもっといい人いるとか言ってた。
俺はまだ会ったことないから分からないし下手に色々言えない。
「運命なんて信じなきゃよかった」
だから、俺は信じないよ。運命なんて信じたくない。運命の番の詳しい事はまだ分かってないことが多い。
強く惹かれるか理由は遺伝子レベルで相性がいいということぐらいは分かってる。
「霜はいい人いるの?」
「いい人なんて居ないよ」
「じゃあ、悪い人がいるんだ」
「何言ってるか分からないけど、もう飲むのやめな」
「好きな人いるでしょ」
「いないって」
「愛してる人か」

「やめろよ!」

「鮎川、どうしたんだよ。そんな大きい声出して」
「ごめん。何でもない」
「図星?」
「南雲。酔いすぎ。俺の話はいいでしょ」
「だって、霜はいつもはぐらかすからね。こういう時ぐらい教えてよ」
「いないから教えることなんてないよ」
残念ながら、そんな人はいない。
いても困らせるだけだし、困るだけだ。
この先、ずっと変わる事はない。
「へー」
「マジで南雲飲み過ぎ。鮎川のこと困らせんなよ」
「早坂はいるの?いい人」
「俺にまわってくんの?」
「早坂のそういう話聞いたことないかも」
「鮎川まで」
「教えても減るもんじゃないじゃん」
「しょうがないなぁ。いるよ。好きな人」
絶対、南雲だ。分かりやすい。
早坂は多分、ずっと前から南雲が好きだと思う。でも、南雲には運命の番がいたから諦めたんだろうけど。
別れた今がチャンスだ。
でも、早坂はβだし簡単に付き合えばなんて言えない。
「誰?」
今だ。早坂!頑張れ。
「言えないよ。それは」
言わないんだ。何だ。言えばいいのに。
「二人して秘密主義でつまんない」
「そもそも、南雲を慰めるために来てるんだし。俺らのそういうのはいいだろ」
「じゃあ、聞いてよ」
「うん」
高校の時に出会いそこからずっと付き合っていて、将来も約束した。
番になるのは二十歳を過ぎてからって決めていたらしい。
番になる前に籍を入れようとしたら、親が勝手に別の人と籍を入れていたのが発覚した。それで、親を問い詰めたら色々あって結局、音信不通になったらしい。
普通に親がやばい。知らないうちに結婚してるなんて怖すぎる。
「待って、音信不通ってだけでまだ別れてないじゃん」
「そうだけど、もう一カ月もだよ。別れた同然じゃん」
「分からないじゃん。あと、もうちょっと待ってみたほうがいいと思う。」
「分かった。もう少し待ってみる」
「人騒がせなやつだな」
「ごめん。話したら落ち着いた」
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「うん」
「彼氏と連絡取れたら教えて」
「うん」
運命ってだけであんなに好きになれるんだろうか。あんなに好きになっても苦しいだけな気がする。
雪に運命の番が現れたらこの生活も終わりだな。やだなぁ。
運命なんて現れなきゃいいのに。
「ただいま」
「おかえり!どうだった?」
「運命の番が音信不通なんだって」
「え!?運命の番って本当にいるの?」
「いるらしいね。雪が運命の番に会ったらちゃんと教えてね」
「そんなの当たり前じゃん!霜もだよ」
「うん」
「霜、聞いて。僕ね、酔ってるかも!」
「何で雪が酔ってるの?」
飲んできたのは俺なのに。
「霜いないから、寂しくていっぱい飲んだ」
「何それ。どのくらい飲んだの?」
「家にあるチューハイ全部」
「七缶はあったよね。珍しい。そんなに飲むなんて」
「寂しかったんだもん。寂しいとお酒進む」
「そっか。じゃあ、もう寝な」
「やだ!せっかく帰ってきたのに、もっと話す」
「酔っ払いと話しても」
「僕のこと嫌いなんだ」
「はぁ、それはない。雪のこと嫌いになんてなるわけがない」
「へへ、知ってる」
面倒くさいな。酔っ払った雪はかまってちゃんになる。
別にいいんだけど、まともに相手をすると自分が困ってしまう。可愛いけど、可愛過ぎて困る。いつも素直だけどそれの十倍素直になる。
「霜、ここきて」
雪がにこにこしながら、隣をぽんぽん叩いている。
「はいはい」
「霜、次はもっと早く帰ってきてね。あとお酒は飲みすぎないよーに」
「それは今の雪に言われたくない」
「そうだね。ぼくね霜みたいな人が番になってほしい」
「俺も雪みたいな子と番になりたいな」
「それはだめ」
何でだよ。雪はいいのに俺はだめって。
相当、酔っ払ってるな。
「なんで?」
「そしたら、霜、僕のこといらなくなっちゃうから」
「そんなの雪もそうじゃん」
いつかはそうなる。当たり前だ。
双子でも兄弟でもいつかは別々の人生を歩む。
「僕は結婚しないもん」
「そういう人ほどするんだよ」
「ほんとうだし」
「嘘だ」
「僕のこと信じてよ」
「信じてるよ。でも、変わらないものなんてないよ」
「あるよ!僕と霜が双子ってことは絶対に変わらない」
「血繋がってないかもしれないじゃん」
「そんなの関係ないよ。ずっと一緒に育ってきたもん。血なんて関係ないの」
「そっか。血が繋がってなくても変わらない?」
「うん!絶対に変わらない」
「じゃあ、ずっと側にいて」
「うん!当たり前だよ」
雪は明日になったら覚えてないんだろうな。酔っ払った雪はタチが悪い。
だから、酔っ払いは嫌いなんだ。


















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