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不思議な力のヒント
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「あ、あの……魔王様?」
「やはり、魔力は感じられない……か」
「? 私は人間ですから」
当たり前の事を確認されて、戸惑いが更に深まる。
ロイトが飲んだ果実水に何を感じて、そしてナティスの何を確認したいのだろう。
ナティスの腕を解放してくれないまま、ロイトは手に持った果実水の入ったグラスををゆっくりと持ち上げた。
「これは、ナティスが一人で作ったのか?」
「は、はい。果物を集めるのは、タオ君やサラちゃんに協力して貰いましたけど……」
ロイトの好きそうな果実を数種類集め、後はざっくり切って水に浸しておき、薬草を最後に浮かべただけだ。
誰かに手伝って貰う程の、代物ではない。
「この果実水には、闇の魔力が付与されている」
「え!?」
思いもよらないロイトの言葉に、声がひっくり返る。
魔族の中でも、闇の力を使えるのはロイトだけだ。
そしてナティスが作った果実水に、忙しいロイトが手を加えた事実は、もちろんない。
むしろ、ロイトが休める為にと思って作ったのだから、手を患わせる様な事を考えつくはずもない。
(それで真剣な顔をして、私に魔力がない事を再確認したのね……)
ロイトの突然の行動の意味は理解出来たけれど、それが果実水に闇の魔力が付与されていた理由には繋がらない。
だってナティスは間違いなく人間で、魔力なんて少しも持ち合わせていないのだから。
ティアだった頃には、自覚はなかったものの聖女として光の魔力を持っていたらしい。
けれど今のナティスに、その片鱗はなかった。
魔王しか持たない闇の魔力となると、尚更だ。
「ほんの僅かだが、間違いない」
「どうして……?」
「それは、俺が聞きたいんだがな」
はっきりと告げるロイトの言葉に嘘はなく、自身と同じ力だからこそ、その存在に気付けたとも言える。
先に果実水を飲んだ、マヤタやフェンがそれを指摘しなかったのは、四魔天である二人でさえも気付かない程の微量だったからなのか、ナティスが作った物に闇の魔力が付与される可能性などないという、思い込みによるものなのかはわからない。
少なくとも、二人共が異変を感じなかった事だけは確かだろう。
マヤタとフェンには、ロイトの為に作った物だと最初から告げていたのだから、もし少しでも違和感を覚えたなら、放っておくはずがないからだ。
「もしかして、効果に即効性があったのは……そのせいだったんでしょうか?」
「そう考えるのが妥当かもしれないが……闇の魔力にそんな力があるなんて、俺も知らない」
「そうなのですか?」
とうとう、ナティスが思っていた以上の効果が出る理由に、辿り着けた気がした。
けれどロイトは、闇の魔力にそんな力はないと言う。
だが、ナティスに特別な力がないのは確実だ。
分からない事はまだ多いけれど、未知の力が働く理由はそこにあるに違いない。
「元々闇の魔力は、回復系とはあまり相性が良くない。それに、魔力を持たないナティスが、一体どうやって闇の力を……? もしや今まで作っていた治療薬や万能薬にも、闇の魔力が付与されていた可能性があるのか?」
「かも、しれません……付与出来た理由は、わかりませんが……」
そう言いつつ、ナティスには心当たりが全くない訳ではなかった。
ぎゅっと服の下に忍ばせてある、革袋に入ったロイトの魔石を握りしめる。
ナティスに魔力はない。それは本当だ。
治療薬を調合する時も、今回の果実水を作った時も、闇の魔力を持ち操る事の出来る、この世界にたった一人の魔王であるロイトに、協力して貰った訳でもない。
となれば、闇の魔力の出所は一つしかないだろう。
リファナに封印してもらっているとはいえ、ナティスの持つお守りは魔石であり、ロイトの闇の魔力が純粋な形で凝縮された物だ。
そしてこれはいつも、ナティスに力を与えてくれる。
今までは、ただの気持ちの問題だろうと思っていたけれど、本当に力を貸してくれていたとしたら。
ナティスが願う「誰かを助けたい」という気持ちに、寄り添ってくれていたのだとしたら。
不思議なことの一つや二つ、起きてもおかしくはないと思う。
だってナティスが今、ここに存在する事そのものが、奇跡のような現象なのだから。
「そういえば、ナティスが調合した薬を、実際に手に取ってみたことはなかったな……」
「そう、でしたか?」
出来上がったら見せに行くと意気込んで作っていた万能薬も、そう言われてみるとロイトにはまだ見せていなかった。
効果の即効性についての検証が終わってからと思っていたら、そのままずるずると見せる機会を失っていたのだ。
実際に使用したセイルから、詳細な報告は受けているだろうし、その他の治療薬についても様々な事例が報告されているだろう。
一緒に試行錯誤してくれた、マヤタやフェンからも途中経過は報告されているに違いない。
ロイトは実物を手に取って確認しているものだと思っていたけれど、そうではなかった様だ。
確かによくよく考えれば、「必要とする者に、早く行き渡るように」、ロイトならきっとそう采配する。
実物を見なくても、四魔天達からの報告がきちんとされていれば、ロイトにとってその安全性は確保されていると、判断出来たのだろう。
それは即ち、四魔天達を全面的に信用しているという証拠でもある。
一度、倒れたナティスに助言をくれた時に、リファナから聞いた調合方法が書かれたメモを見ていたのも、大きかったのかもしれない。
薬草や調合の知識のあったロイトなら、内容の理解は容易いだろう。
その通りに作られていると感じて貰えたのならば、危険性はないと認める材料は揃っていた事になる。
そう考えると確かに、悪い影響が報告されている訳でもなかったのなら、ロイトがナティスの作った物を実際に確認するまでもなかったのかもしれない。
「やはり、魔力は感じられない……か」
「? 私は人間ですから」
当たり前の事を確認されて、戸惑いが更に深まる。
ロイトが飲んだ果実水に何を感じて、そしてナティスの何を確認したいのだろう。
ナティスの腕を解放してくれないまま、ロイトは手に持った果実水の入ったグラスををゆっくりと持ち上げた。
「これは、ナティスが一人で作ったのか?」
「は、はい。果物を集めるのは、タオ君やサラちゃんに協力して貰いましたけど……」
ロイトの好きそうな果実を数種類集め、後はざっくり切って水に浸しておき、薬草を最後に浮かべただけだ。
誰かに手伝って貰う程の、代物ではない。
「この果実水には、闇の魔力が付与されている」
「え!?」
思いもよらないロイトの言葉に、声がひっくり返る。
魔族の中でも、闇の力を使えるのはロイトだけだ。
そしてナティスが作った果実水に、忙しいロイトが手を加えた事実は、もちろんない。
むしろ、ロイトが休める為にと思って作ったのだから、手を患わせる様な事を考えつくはずもない。
(それで真剣な顔をして、私に魔力がない事を再確認したのね……)
ロイトの突然の行動の意味は理解出来たけれど、それが果実水に闇の魔力が付与されていた理由には繋がらない。
だってナティスは間違いなく人間で、魔力なんて少しも持ち合わせていないのだから。
ティアだった頃には、自覚はなかったものの聖女として光の魔力を持っていたらしい。
けれど今のナティスに、その片鱗はなかった。
魔王しか持たない闇の魔力となると、尚更だ。
「ほんの僅かだが、間違いない」
「どうして……?」
「それは、俺が聞きたいんだがな」
はっきりと告げるロイトの言葉に嘘はなく、自身と同じ力だからこそ、その存在に気付けたとも言える。
先に果実水を飲んだ、マヤタやフェンがそれを指摘しなかったのは、四魔天である二人でさえも気付かない程の微量だったからなのか、ナティスが作った物に闇の魔力が付与される可能性などないという、思い込みによるものなのかはわからない。
少なくとも、二人共が異変を感じなかった事だけは確かだろう。
マヤタとフェンには、ロイトの為に作った物だと最初から告げていたのだから、もし少しでも違和感を覚えたなら、放っておくはずがないからだ。
「もしかして、効果に即効性があったのは……そのせいだったんでしょうか?」
「そう考えるのが妥当かもしれないが……闇の魔力にそんな力があるなんて、俺も知らない」
「そうなのですか?」
とうとう、ナティスが思っていた以上の効果が出る理由に、辿り着けた気がした。
けれどロイトは、闇の魔力にそんな力はないと言う。
だが、ナティスに特別な力がないのは確実だ。
分からない事はまだ多いけれど、未知の力が働く理由はそこにあるに違いない。
「元々闇の魔力は、回復系とはあまり相性が良くない。それに、魔力を持たないナティスが、一体どうやって闇の力を……? もしや今まで作っていた治療薬や万能薬にも、闇の魔力が付与されていた可能性があるのか?」
「かも、しれません……付与出来た理由は、わかりませんが……」
そう言いつつ、ナティスには心当たりが全くない訳ではなかった。
ぎゅっと服の下に忍ばせてある、革袋に入ったロイトの魔石を握りしめる。
ナティスに魔力はない。それは本当だ。
治療薬を調合する時も、今回の果実水を作った時も、闇の魔力を持ち操る事の出来る、この世界にたった一人の魔王であるロイトに、協力して貰った訳でもない。
となれば、闇の魔力の出所は一つしかないだろう。
リファナに封印してもらっているとはいえ、ナティスの持つお守りは魔石であり、ロイトの闇の魔力が純粋な形で凝縮された物だ。
そしてこれはいつも、ナティスに力を与えてくれる。
今までは、ただの気持ちの問題だろうと思っていたけれど、本当に力を貸してくれていたとしたら。
ナティスが願う「誰かを助けたい」という気持ちに、寄り添ってくれていたのだとしたら。
不思議なことの一つや二つ、起きてもおかしくはないと思う。
だってナティスが今、ここに存在する事そのものが、奇跡のような現象なのだから。
「そういえば、ナティスが調合した薬を、実際に手に取ってみたことはなかったな……」
「そう、でしたか?」
出来上がったら見せに行くと意気込んで作っていた万能薬も、そう言われてみるとロイトにはまだ見せていなかった。
効果の即効性についての検証が終わってからと思っていたら、そのままずるずると見せる機会を失っていたのだ。
実際に使用したセイルから、詳細な報告は受けているだろうし、その他の治療薬についても様々な事例が報告されているだろう。
一緒に試行錯誤してくれた、マヤタやフェンからも途中経過は報告されているに違いない。
ロイトは実物を手に取って確認しているものだと思っていたけれど、そうではなかった様だ。
確かによくよく考えれば、「必要とする者に、早く行き渡るように」、ロイトならきっとそう采配する。
実物を見なくても、四魔天達からの報告がきちんとされていれば、ロイトにとってその安全性は確保されていると、判断出来たのだろう。
それは即ち、四魔天達を全面的に信用しているという証拠でもある。
一度、倒れたナティスに助言をくれた時に、リファナから聞いた調合方法が書かれたメモを見ていたのも、大きかったのかもしれない。
薬草や調合の知識のあったロイトなら、内容の理解は容易いだろう。
その通りに作られていると感じて貰えたのならば、危険性はないと認める材料は揃っていた事になる。
そう考えると確かに、悪い影響が報告されている訳でもなかったのなら、ロイトがナティスの作った物を実際に確認するまでもなかったのかもしれない。
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