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 ──新月ノ夜ニ探セ。

 夢のお告げを信じる訳じゃないが、こうもレア個体が見つからないなら気晴らしにってことで数日は別のモンスターを狩った。
 そして新月の夜──

「あれ? 新月だから月が見えないんじゃなかったっけ?」

 夜空を見上げると、青白く光る月があった。
 小さい気がするけど、星にしてはデカ過ぎる。

「ん? 何言ってうのリヴァ。月はふたつよ」
「は? 月が二つぅ?」

 二つって、どういうことだ?
 い、いや。ここは異世界なんだ。俺が知ってる夜空と違うのかもしれない。
 でも俺だってあの空気穴から夜空を見ることも──あったけど、月なんて季節次第で年間通してほとんど見たことなかったもんな。

「え、この世界って月、二つあったのか……」
「あっ……リヴァ、しぁなかったのね。うん、えぇっと、二つなの。大きいのと、小さいのでね」

 小さい月は常に大きな月の傍に寄り添っていた。光も弱く、そのせいで地上からだと大きな月の光の一部にしか見えないそうだ。
 だが、新月の夜には大きな月が太陽を背負うので影になって見えなくなる。
 この時だけは小さな月が自身の存在感をアピール。
 どうやら月自身が発光しているようだ。

「ふぅん。不思議なもんだな」
「そうなの?」
「まぁお前は当たり前のように見ていたもんだし、不思議には思わないんだろう」

 まして俺は前世で見ていた夜空が「普通」だと思っているんだ。そうじゃない夜空だと「不思議」に思うんだよ。

「しかし新月だから暗いだろうと思っていただけに、ちょっと安心したぜ。さて、ルガーウルフを探すか!」
「うん、は──あ、いた」
「さっそくか? まぁいつものノーマルだろ──おぉ?」

 前方の平原に、ぽぉっと青白い光を放つ獣がいた。
 シルエットは完全にルガーウルフだけど……青い月に照らされてるからあんな色に光っているのか?

 とりあえず近づいて行くと、向こうもこちらに気づいて向かって来た。

 瞬き。一時停止からのハンマー振り下ろして止めを刺す。
 ハンマーを振り下ろしながら確信した。

「レアだ! 背中の毛が蒼いぞっ」

 ようやく見つけた。
 もしかしてあの蒼い小さな月と関係性があるのか。

 新月の夜にだけ見えるようになる、小さな蒼い月。
 ルガーウルフのレア個体は、その月がハッキリ見える夜にだけ巣穴から出てくる──ってことなんだろう。

 絶対数が少ないこともあるのだろうが、その晩、狩ることが出来たのは三体だった。
 これまでゼロだたのを考えると、万々歳だ。
 残りは次の新月に頑張ろう。

 夢のお告げは本物だった。あの声はいったい、なんだったんだ?





 次の新月まで、山をあちこち歩き回った。
 五日ほど適当に彷徨うと、大きな湖を発見。こういう場所に家でも建てて暮らせれば、優雅だよなぁ。モンスターが出るのはひとまず横においといてだが。
 だがその絶景ポイントには、大きな岩の壁に地下へと続く穴を見つけた。
 最初はゴブリンか何かの巣穴かなと思ったが、入ってみてビックリ。

「まさかこれ、ダンジョンかよ」
「リヴァ、ゴブリンいう」

 出てくるのはゴブリンと、それにアンデッドのスケルトンか。
 このスケルトン、ツルハシなんか持ってるじゃないか。まるで炭鉱夫だな。

「探索したいのはやまやまだが、転移の指輪はダンジョンじゃ使えないんだよなぁ」
「でぅ?」
「あぁ、また今度にしよう」

 帰還の指輪ならダンジョン内でも使えるが、転移はダンジョン専用のものしか使えない。
 電気くんからのステータス強奪もあるが、何より迷って出られなくなった時に新月を迎えられなかったら嫌だからな。
 だけどせっかくなので、この場所も玉に記憶させておこう。

 これで位置情報の記憶は、『電気くんの近く』と『獣人族の里』、そして『見知らぬダンジョンの前』だ。

 そうして次の新月の夜には、ルガーウルフのレア個体を三体追加することが出来た。

「うぅ、さむっ。依頼期間満了まで三週間ぐらいあるが、いったん町に戻らないか?」
「う、うん。それいい、思う」

 ここ半月で一気に冷え込んだな。
 まぁここは山の上だし、秋も終わりに近づいているもんな。

 電気くんが封印されているこの場所を記憶した玉は上書きしないようにして、防寒具を揃えてまた来よう。
 素材依頼があるといいな。

 朝からタレに漬け込んだ肉を焚火で焼きながら、テントを片付ける。

「だいぶん肉が余ったな。また獣人族の里に持って行くか」
「うん、きっと喜ぶね」

 一部は持って帰ってガキどもに食わせたやるが、それでも多すぎる。
 空間収納袋をセシリアに渡し、転移の指輪で里に向かって貰った。
 俺はここの片付けと火の番だ。

 セシリアが戻ってきたころ、肉も丁度焼き上がり。
 それを持って、電気くんの封印石まで向かった。
 匂いで気づいていたようだ。既に封印石ギリギリのところで待機していやがる。  

「素材集めの依頼も終わったし、俺たちは帰るぜ」

 肉を放り投げると、見事にキャッチ。
 味わっているのか、普段より長めに噛んでるな。
 ようやく肉を飲み込むと、電気くんはさっさと踵を返して定位置に戻って行った。

 帰るって言ったの、理解しているのか?

「まぁ……また明日《・・》な」

 電気くんに別れを告げ、帰還の指輪を嵌めた。

「セシリア、帰るぜ」
「ん。オッケー」
「オッケーってお前、なんでそんなくっつくんだよ」

 ぎゅむーっとセシリアがくっつく。

「指輪、転移する。くっつかないと、落ちるかもぉ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものかもしれないのぉ」

 ま、まぁいいか。

「"帰還《リターン》"」

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