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1章

第──11

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 穴が出来たあと、ノームたちは腐王団子の下にある土をもこもこと盛り上げ坂道を作り転がした。
 ごろんごろん、どすんと転がった団子は見事穴にすっぽりとはまり……。

「完全に埋めてしまうと、漏れ出した瘴気が地中にすっかり浸み込んで危険なのでこのままにしておく方がいいだろう」

 ということで穴に落とすだけにした。
 あとはここで寝泊まりできる小屋を作るだけなんだが、さすがにそんなもの、ゲームじゃないんだしポンとは出来ない。
 一度エルフの里へ戻り、長老に知恵を借りようと思う。
 それに今日はもう陽が暮れ始めるし、案外疲れた。
 戻ってゆっくり休みたい。

 それに──。

「空さん、戻ったら新しいスキルのチェックをしませんとね」
「そうよ空。どんなスキルなのか、ちゃぁんと見てないんでしょ?」
「あぁ、うん、そうだな。ステータスを見ただけだから、確認はしてないな」

 空気操作だもんなぁ。
 いや、そもそも空気操作って何をやるんだ?

 それをゆっくり落ち着いて調べるためにも、エルフの里に帰る。





「なんと!? い、今なんと言ったのだ空殿?」
「はい。腐王から漏れてる瘴気を浄化しました。すっげー濃い瘴気だったんで、しばらくあちこちに広がらないと思いますよ」
「まぁ、空様は本当に凄い方ですわ。異世界から無理やり召喚されたそうですが、私たちエルフにとってはほんに救世主。あなた様には迷惑かもしれませんが、本当に感謝しております」
「い、いや。お、俺もリシェルやシェリルに助けられましたし、こうしてこの里に住まわせてもらって衣食住の世話も受けてます。感謝しているのは俺の方ですよ」
「ふふ。空様は謙虚な方ですのね」

 長老フロイトノーマさんには綺麗な奥さんがいる。
 おっとりとした、いつもふんわりとした笑顔を浮かべた女性だ。
 見た目は20歳かそこいらなんだけど、まぁエルフなので実年齢はお察しくださいだろう。
 
「それで長老。空は腐王を埋めた穴の近くに家を建てるっていうんです」
「危険ですよね?」

 シェリルとリシェルがずいっと出てきて、「危険だと言ってください」アピールをする。
 だけど長老はニコニコ顔で「なるほど良い案だ」と。

「もちろんただ家を建てるだけでは危険だ。周囲にここと同じ結界を張れば大丈夫だろう」
「結界? 風の精霊で瘴気を内側に入れないってう?」
「それとは違う。風の上位精霊では魔物を寄せ付けない結界は張れぬ。生命の樹を媒体にした魔物の侵入を阻む結界だ。そうでもなければここだけ魔物が入って来ぬのは不自然だろう? なに、結界は生命の樹を触媒にしている。こうなることが生命の樹には分かっていたのだろうな」
「分かって?」

 なんのことだろうかと思ったら。長老が部屋の奥から木の枝を持って来て俺に見せた。

「生命の樹の苗木だ。さっき樹の根を状態を確認していたら、頭に落ちてきた」

 頭に落ちてきた……刺さらなくて何よりだ。
 しかし枝だと思っていたそれは確かに枝ではあるのだが、よく見ると根っこのようなものがもさっと生えていた。
 家を建てたい場所の近くに苗木を植えれば、そこに長老が結界を張ってくれるという。

「明日は儂も同行しよう。苗木を植える場所を決めるといい」
「はいっ。ありがとうございます」

 長老宅を出て借りている家へと向かう。
 その間、双子の姉妹はずっと黙ったままだった。

 長老がいいと言ったのだから、二人としてはこれ以上の反対はできないんだろう。
 俺も少しは修行して強くもなれた。これからも修行は続けるし、出来れば森からモンスターを一掃したい。
 空気が清浄化されれば、新たに動物からモンスターに変異する奴もいなくなるだろう。
 そうなれば森は安全になる。

 まぁ、熊とか猪は普通に危険だけどさ。

 ついに家まで付いてきてしまった二人。
 なんか家に入りづらいんですけど。

「ふ、二人も中に入るか? お、お茶ぐらいしか俺用意できないけど」

 ここでの食事も、実はリシェルとシェリルのお世話になっている。
 この家には厨房みたいなものはない。
 中には部屋が一つあるだけだ。
 なお、トイレは里の中にいくつかあって、共同で共同に使う。風呂も同じだ。
 イケメン揃いのエルフの中に交じっての風呂って、なかなか凹むんだぜ。

 そう声をかけたものの、二人はぼそぼそと内緒話をして中へ入ろうとしない。
 俺、スキルの確認とか早くしたいんだけど……。

「「空」さん」
「え、あ、は、はい?」

 内緒話が終わったのか、突然二人は俺に迫る勢いでぐいっと身を乗り出した。
 俺、クラスではやや背の高いほうだったし、二人は比較的小柄だ。いや、この世界のエルフの平均身長がやや小柄なのかもしれない。ニキアスさんも俺と同じぐらいだし、長老は微妙に低いぐらいだ。
 だから二人は俺の胸元にピッタリ顔を寄せて、見上げるような姿勢になる。

 双子だから顔の作りは同じなんだけど、それぞれ目元は性格を現しているようでハッキリと見分けがつく。
 リシェルは大人しそうな印象の、タレ目がちで大きな瞳の可愛らしい感じ。
 シェリルはややツンとした印象の、ツリ目で大きな瞳の綺麗なタイプ。

 要約するとどっちも可愛い。

 そんな二人が俺の胸元の服を掴み、ぐいっっと攻めてくるんだ。
 ドキっとしないわけないだろ?

「ど、どうしたんだ、二人とも」
「「空」さんっ」
「は、はい!?」
「ご一緒します」
「一緒に暮らすわ」

 ……え?

「私とシェリル、二人で話し合いました」
「あんたは異世界からこっちに来てまだ二カ月にもなってないのよ」
「そんな空さんをひとりにさせておくなんてできませんっ」
「だからわたしとリシェルがあんたと一緒に暮らすって言ってるのっ」

 二人はそう、顔を真っ赤にさせながら宣言した。
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