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39:高級品なんですよ

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 迷宮を一瞬で抜けられる生活魔法――そんなものは無かった。
 徒歩で地上を目指す俺たちの前を、鎧を着たままのコラッドが歩く。

「コラッドは鎧を捨てないのか?」
『勿体ないですから。これ、高級品なんですよ!』

 そんな理由なのか……。
 まぁでも、鎧を着ているおかげで冑さえ脱がなければ、中身がアンデッドだとはバレないか。

 さくさくと進んで三十階層まで戻ってきた俺たちは、そこで遂に遭遇した。

「み、御霊!? お前、こんな所まで下りてきていたのかっ」
「樫田。まだ三十階だったのか?」

 三十階の安全地帯近くの通路でばったり遭遇。
 どうやら野宿のために安全地帯に向かっているようだな。

「まだ、だと? まさかお前っ」

 樫田を押しのけるようにして相田が出てくる。
 すると今度は隣のソディアが俺を押しのけ、相田と対峙した。

「私たちは五十階に到着し、お宝を手に入れて帰還途中よ! ね、レイジくん」
「あ、うん。地上に戻る途中さ」

 もう少し上の階層まで上がったら野宿する場所を探す――という流れだったんだけども。
 なのに相田が執拗に絡んでくる。
 樫田じゃなく、相田というのが日本にいた時にはなかったシチュエーションだ。

「お前が五十階? そ、そんな訳ないだろう。宝を持っていると言うなら、見せてみなよ!」
「えぇっと、これだけど?」

 背負い袋に刺してあった杖を取り出し、それを相田に見せた。
 後ろにいた戸敷がやってきて、俺の杖を見て何かを呟く。

「【鑑定】結果だと、確かにこの迷宮の宝箱から出るアイテムのようだ」
「かんてい?」
『うむ。対象の能力、性質を見ることが出来る魔法じゃ。なかなかに高等魔法でな。あやつ、これが使えるとは、儂の知識を上手く活用しとるわい』

 便利そうな魔法だな。あとで呪文を教えてもらおう。

 その鑑定結果に、相田は納得していないようすだ。

「お、おい、お前ら。御霊だぞ? 根暗で幽霊とお友達~な奴が、俺たちより先に五十階層にたどり着ける訳がないだろ?」
「その幽霊は、こっちの世界だとアンデッドモンスターになるらしいぜ。噂のアンデッド軍団ってのは、お前がやったのか?」

 あ、樫田鋭い。
 学校の成績は俺より下だったのにな。

「俺がやったっていうか……あいつらが勝手に――」
「なにぃ? だとすると、モンスターを使って俺たちを妨害していたってことか!?」
「妨害って……別に相田たちの邪魔もしてないし、襲ってもないだろ?」
「黙れ! 死霊使いなんだから、お前が命令しなきゃ奴も何も出来ないはずだぞっ」

 そう言われてもなぁ。案外あいつら、好き勝手にやってるし。
 そもそも大声で死霊使いなんて言わないで欲しいもんだ。
 こっちの世界じゃあ、死霊使いってだけで迫害されるっぽいからな。

「俺、行くからな。だいたい好きで死霊使いになったんじゃない。無理やりこの世界に連れてこられて、鑑定されて、それでそうなったんだから仕方ないだろ」
「まぁな。俺だって好き好んで剣士になったわけじゃない。どっちかつうと暗殺者《アサッシン》の方がカッコよさそうだったのにな」
「カシダ様、暗殺者などおやめください! あなた様は勇者なのですぞ。それが暗殺者など……」

 樫田の言葉に、冒険者が言う。
 口調からして、まさか帝国兵か?

 どうやら暗殺者ってのも、死霊使いのように忌み嫌われる職業みたいだな。 
 まぁゲームと違って、言葉通りの職業だとすれば……人を殺めるのが仕事なんだ、嫌われて当然とも言える。

「じゃあ、私たちの勝ちってことで」
「え、な!? ま、待てよ。御霊なんかより俺のほうが絶対――」
「お断りですよーだ」

 俺の腕をぎゅっと掴み、ソディアが悪戯っぽく舌を出す。
 う、腕に……彼女の胸が当たって……。

「行きましょ、レイジくん」
「うん。じゃあ――」

 この時俺は、何故挨拶をしたのか分からない。
 ただなんとなく、知っている人との別れだったからかもしれない。
 でも――。

「おぅ、じゃあな」

 そう返ってきた樫田の言葉には、正直驚いた。
 いつも俺に絡んで来ていた樫田。
 休み時間、ひとり静かに昼食を食べていても、大声で怒鳴って口の中のパン屑を飛ばしてくるし、放課後も残ってプリントの整理をしていればやってきて、あーだこーだとイチャモンを付ける。
 黙っていられないのか、静かな空間が嫌いなのか、いつも俺の周りで騒いでいた奴だ。

 異世界に来て、丸くなったんだろうか?

 相田は何か言いた気な顔だったけれど、樫田に頭を掴まれ黙って俺たちを見送る。
 その後、二十八階で野宿をし、翌日の昼までにヴェルタの町へと戻って来た。

「なんだかんだと、非常食もギリギリだったな」
「そうね。次はもう少し用意していった方がいいかしら。今回は勝負するのが目的だったし、ゆっくり滞在する気もなかったからよかったけど」
「まぁ金策、と考えた場合、長く滞在できたほうがいいんだろうね……けど、金策なんて出来るのだろうか」

 拾ってきたのは、最下層にあった宝箱の中身、杖だけだ。
 これを売ればお金にはなるだろうけど、今のところは俺が使う予定みたいな?

「金策なら十分できてるわよ」
「え?」

 ソディアがにっこり微笑んで俺の足元を指さす。
 足元――影から伸びた白い骨は、小さな石を摘まんでいた。

「水に浸すと――」
「光る石!? い、いつの間にっ」





 路地裏でスケルトン、ゾンビから回収した石を持って、冒険者ギルドへと向かう。
 各階でアンデッド軍団が倒したモンスターから出た石を、全部拾っていたようだ。
 俺は戦闘にほとんど参加せず、しかもアンデッド軍団が多すぎて落ちている物にも気づかず歩いていただけだった。

「全部買い取ると、金貨八枚ってところかね」

 小さな石は自分たちで使うことにして、比較的大きな物だけを売却。
 金貨八枚ってことは……八十万相当!?

 僅か四日間の稼ぎで八十万……異世界迷宮、旨過ぎる。

 その夜。
 町でもちょっと高級な宿に泊まり、ふかふかな高級ベッドで久々に快適な夜を過ごした。
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