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19話 幸せの形
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「この時計塔って修繕とかはされないのでしょうか?」
私はファング王子殿下と待ち合わせに利用していた、貴族街の外れに立っている時計塔を見上げながら言った。時を刻んでおらず、この場所だけは整備が行き届いていない感じだ。
「地理的な関係上、時計塔周辺の整備は意義が薄いとなっているらしい。その内、取り壊しになるかもしれないな」
「それは寂しいですね……せっかく、私とファング王子殿下との待ち合わせの場所なのに」
この時計塔は私にとっては思い出が詰まっている場所になっている。それだけに、取り壊しには賛同できなかった。ファング王子殿下も頷いているので、同じ気持ちなのだと思う。
「確かにそれは言えるかもしれない……私があまり目立つわけにはいかないので、二人で会う時は、この場所を指定してしまったわけだが……いつの間にか、なくてはならない存在になっていたな」
「左様でございますね、その点は本当に残念です」
「ふむ……」
ファング第三王子殿下と貴族街で会う……私と会うこと自体は王族からの許可は得ているだろうけど、それでもあまり、目立たない方が良かった。その理由の1つとしては、将来の結婚相手に影響してくる可能性があるからだ。
「ファング様、トーマス様の件で私を助けていただいたことは本当に感謝しております」
「今更、どうしたんだ? あれは私が助けたいと思ったから行ったことだ。そこまで感謝されることではないさ」
「それでも……申し上げたくなる時があるのです」
「そういうものかな?」
「はい、なぜなら……あの一件が解決してこうしてファング様と、デートを楽しめるようになったのですから。つまり……私は次のステップに進むことが出来たのです」
トーマス様との婚約が解消できない間は、私の時は刻まれてはいなかった。もしも、彼との婚約が今も続いていたならと思うと……それはそれで恐ろしい。ファング王子殿下はそんな私を救ってくれたのだ。
「トーマス殿からの接触はあれからはないだろう?」
「はい、おかげ様で……快適に生活出来ております」
「それは何よりだ、本当に良かったな、リリム」
「はい、ありがとうございます。ファング様」
私は老朽化した時計塔を眺めながら話している。少し前までの自分はこの時計塔と変わらなかったと感じながら。
「トーマス殿の一件が落ち着いたのなら……そろそろ、話しても良いかもしれないな」
「ファング様? 何をでしょうか?」
「ああ、つまりだな……」
ファング様は少し咳払いをしている……何か真剣な内容を話されるようだ。私も真剣に聞くことにした。
「リリム・テンパート伯爵令嬢……私と婚約をしていただけませんか?」
「ふぁ、ファング様……!?」
彼は急に頭を深々を下げながら、私に片腕を差し出して来た。まるで、ダンスの誘いを受けているかのようだ。でも、今回は婚約話……まさかファング様の方からおっしゃるなんて。
「お互いの気持ちは既に分かっているだろう? それならば後は、婚約をするかしないかだけだと思ってさ」
「ファング様……お気持ちはとても嬉しいのですが、私の立場で第三王子殿下と婚約は可能なのでしょうか?」
「そうだな……その辺りに関しては、クリアしていく必要があるだろう。ただし、トーマス・ベイル公爵の一件で王家も貴族の見直しを行っているようでな。良い意味で目立っていたテンパート伯爵家は、十分に可能性がある家系だと思われる」
「な、なるほど……そういうことですか……」
トーマス様の一件はどうやら、私が思っている以上に大きな出来事になっているようだ。でも、そのおかげでファング王子殿下との関係を続けていける可能性があるなら、むしろ感謝したいくらいかもしれない。
私はファング様と婚約をしたい……その気持ちに嘘はないから。
「ありがとうございます、ファング様。婚約のお話、お受けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ありがとう、リリム。とても嬉しいよ」
私達は時計塔の前で、お互いの気持ちを確かめ合った。握手という形でね。これが私達の幸せの形だ。
「しかし、ファング様……乗り越えるべき壁は高そうですね」
「そうだな……父上達からの承諾も必要にはなってくる。しかし、先ほども言ったようにトーマス殿の一件があったからな。上手く利用させてもらうさ」
「まあ……ファング様、悪い顔をしていらっしゃいますよ? うふふっ」
「はははは、そうかな?」
「ええ、その通りですわ」
トーマス様を利用して、私達は婚約を決めてみせる。そんな計画が始動した瞬間であった。成功するかどうかは分からない……でも、試してみる価値は十分にあると言えるだろう。
ファング様と結婚が成立したとして……子供は何人くらい欲しいかな? そんな会話を繰り返しながら、私達はデートを続けた。
それからしばらくして結婚を果たした私達だけれど、2人の子供を授かったことはまた別のお話……。
終わり
私はファング王子殿下と待ち合わせに利用していた、貴族街の外れに立っている時計塔を見上げながら言った。時を刻んでおらず、この場所だけは整備が行き届いていない感じだ。
「地理的な関係上、時計塔周辺の整備は意義が薄いとなっているらしい。その内、取り壊しになるかもしれないな」
「それは寂しいですね……せっかく、私とファング王子殿下との待ち合わせの場所なのに」
この時計塔は私にとっては思い出が詰まっている場所になっている。それだけに、取り壊しには賛同できなかった。ファング王子殿下も頷いているので、同じ気持ちなのだと思う。
「確かにそれは言えるかもしれない……私があまり目立つわけにはいかないので、二人で会う時は、この場所を指定してしまったわけだが……いつの間にか、なくてはならない存在になっていたな」
「左様でございますね、その点は本当に残念です」
「ふむ……」
ファング第三王子殿下と貴族街で会う……私と会うこと自体は王族からの許可は得ているだろうけど、それでもあまり、目立たない方が良かった。その理由の1つとしては、将来の結婚相手に影響してくる可能性があるからだ。
「ファング様、トーマス様の件で私を助けていただいたことは本当に感謝しております」
「今更、どうしたんだ? あれは私が助けたいと思ったから行ったことだ。そこまで感謝されることではないさ」
「それでも……申し上げたくなる時があるのです」
「そういうものかな?」
「はい、なぜなら……あの一件が解決してこうしてファング様と、デートを楽しめるようになったのですから。つまり……私は次のステップに進むことが出来たのです」
トーマス様との婚約が解消できない間は、私の時は刻まれてはいなかった。もしも、彼との婚約が今も続いていたならと思うと……それはそれで恐ろしい。ファング王子殿下はそんな私を救ってくれたのだ。
「トーマス殿からの接触はあれからはないだろう?」
「はい、おかげ様で……快適に生活出来ております」
「それは何よりだ、本当に良かったな、リリム」
「はい、ありがとうございます。ファング様」
私は老朽化した時計塔を眺めながら話している。少し前までの自分はこの時計塔と変わらなかったと感じながら。
「トーマス殿の一件が落ち着いたのなら……そろそろ、話しても良いかもしれないな」
「ファング様? 何をでしょうか?」
「ああ、つまりだな……」
ファング様は少し咳払いをしている……何か真剣な内容を話されるようだ。私も真剣に聞くことにした。
「リリム・テンパート伯爵令嬢……私と婚約をしていただけませんか?」
「ふぁ、ファング様……!?」
彼は急に頭を深々を下げながら、私に片腕を差し出して来た。まるで、ダンスの誘いを受けているかのようだ。でも、今回は婚約話……まさかファング様の方からおっしゃるなんて。
「お互いの気持ちは既に分かっているだろう? それならば後は、婚約をするかしないかだけだと思ってさ」
「ファング様……お気持ちはとても嬉しいのですが、私の立場で第三王子殿下と婚約は可能なのでしょうか?」
「そうだな……その辺りに関しては、クリアしていく必要があるだろう。ただし、トーマス・ベイル公爵の一件で王家も貴族の見直しを行っているようでな。良い意味で目立っていたテンパート伯爵家は、十分に可能性がある家系だと思われる」
「な、なるほど……そういうことですか……」
トーマス様の一件はどうやら、私が思っている以上に大きな出来事になっているようだ。でも、そのおかげでファング王子殿下との関係を続けていける可能性があるなら、むしろ感謝したいくらいかもしれない。
私はファング様と婚約をしたい……その気持ちに嘘はないから。
「ありがとうございます、ファング様。婚約のお話、お受けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ありがとう、リリム。とても嬉しいよ」
私達は時計塔の前で、お互いの気持ちを確かめ合った。握手という形でね。これが私達の幸せの形だ。
「しかし、ファング様……乗り越えるべき壁は高そうですね」
「そうだな……父上達からの承諾も必要にはなってくる。しかし、先ほども言ったようにトーマス殿の一件があったからな。上手く利用させてもらうさ」
「まあ……ファング様、悪い顔をしていらっしゃいますよ? うふふっ」
「はははは、そうかな?」
「ええ、その通りですわ」
トーマス様を利用して、私達は婚約を決めてみせる。そんな計画が始動した瞬間であった。成功するかどうかは分からない……でも、試してみる価値は十分にあると言えるだろう。
ファング様と結婚が成立したとして……子供は何人くらい欲しいかな? そんな会話を繰り返しながら、私達はデートを続けた。
それからしばらくして結婚を果たした私達だけれど、2人の子供を授かったことはまた別のお話……。
終わり
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最後まで読んでいただきありがとうございます!
あの王女というのはラーナのことですか? ラーナであればガーファ王子と結婚ということですね
ファング王子とリリムはお似合い!
リリムはファング王子に夢中だしね。
2人が婚約出来ると良いな。
二人がどういう経路を辿るのか……といったところでしょうか
婚約はなかなか難しい障害になるかもしれませんが
ト-マスに『今後は名前呼びや呼び捨てはやめてくださいね』とハッキリ言っておかないとマズかったんじゃないかなぁ😥
そうですね……確かに言っておいた方が良かったかもしれないですね