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本編 第二部(シオン・エンド編)
86. 洗い場にて ※R18表現あり
しおりを挟むさすがは魔導具技師のフェルナンド家。
洗い場にも魔導具が置かれ、ボタンを一つ押すだけで、シャワーからちょうどいいお湯が流れ出す。
お互いに風呂椅子に座って、シオンは僕の頭を洗っている。石鹸で泡立てて、シャワーで洗い流した。
「よく考えると、貴族の当主にこんな真似をさせたら、マリアン様に怒られそうですね」
貴族は他人に世話されるのが当たり前で、世話をすることはほとんどない。王宮で王族に仕えることはあっても、風呂場仕事は下位の仕事だ。
「オメガが最高位だとお忘れではありませんか。何もおかしなことではありません」
「ああ……そうでしたね」
だいぶ慣れたつもりだったが、無意識に前世の常識が顔を出すので困る。
「ディル様の髪は絹のようにやわらかいですね」
うっとりした声でつぶやき、シオンは僕の髪を指先ですく。
「僕もシオンの髪を洗ってみたいです」
「今日はお疲れでしょう?」
「駄目?」
わずかに振り返って首を傾げると、シオンがうぐっと変な声を出した。
「なんです、その返事は」
「その顔は可愛すぎて危険です……」
「はあ……」
この濡れねずみ状態が可愛い? 僕には意味が分からない。外出のために身なりを整えている時は、それなりに見栄えするようにしているが、今はそういった防御がまったくできていないのに。
「また今度にしましょう。早めに洗い終えて、お部屋にお送りします」
「ちょっと池に落ちただけじゃないですか」
蓮の池は眺めるのは綺麗なのに、池は泥水だった。泥くささも、風呂につかって、こうして洗い流せばほとんど消えたが。
「ディル様、少し前に大病をなさったのに。あまり言いたくありませんが、オメガは肉体的に弱いところがあるので、無茶してはいけません。領と私を救ってくださった恩人ですし……好きな方が寝込むのは見たくありませんから」
「病気にかかりやすいかもしれませんが、貧弱ではありませんから! シオンと会えない間も、剣の稽古はしていたんですよ。見てください、ほら! ちょっと力こぶが……」
ムッとした僕は右腕を曲げて見せたが、騎士と比べればささやかなものなので、自分でやって自分で落ち込んだ。
「……なんでもありません。忘れてください」
「すごいです! ディル様は努力家ですね」
「シオンも髪を洗っては? 少し泥臭いですよ」
褒められてもうれしくないこともある。僕があからさまにすねるので、シオンが苦笑するのが、壁にかけられている鏡に映った。
シオンは隣のシャワーに移動して、手早く髪と体を洗い終える。あっという間に洗い終えたので、僕は目をまん丸にした。
「速すぎでは?」
「汚れが落ちればいいんですよ」
見た目は綺麗な騎士様なのに、言うことは大雑把だ。
「次はディル様ですよ」
やわらかい布をしっかり泡立て、シオンは僕の体を洗っていく。首、腕、背中、胸から腹と、優しくこすっていった。
使用人に洗われてもなんとも思わないのに、シオンだと思うと緊張する。下はさすがに自分で洗おうと考えている間に、止める暇もなく足に布が滑る。
長くて綺麗な指を見て、ふとレイブン領での一夜のことを思い出した。彼の手が僕の体を優しくなで、そして秘められた場所に……と記憶をたどったところで、顔に熱がこもり目をつむる。僕の動揺をよそに、あっさり洗い終わった。
「シャワーで流しますよ」
「は、はい」
僕は頷いたものの、ゆるく立ち上がった前を隠そうと、少し前かがみになる。せっけんを綺麗に流し終えたシオンがシャワーの取っ手を台に戻し、僕の耳元でささやいた。
「もしかして、期待されました?」
カーッと首まで赤くなる。
「だ、だって、あの夜のことを思い出してしまって……」
僕は慌てて言い訳を付け足す。
「あの、使用人……タルボに洗われても、こんな風には感じませんよ。相手がシオンだからで……」
余計なことを言った気がする。
(これって、シオンだからいかがわしい気分になったって言ってるのと同じだよね。気持ち悪いって思われたらどうしよう)
想像して、今度は青くなる。どうやってこの場を逃れるか必死に考えていると、突然、僕の身体が浮いた。
「わ!?」
驚いたのもつかの間、シオンの右ひざの上に移動させられ、真横からぎゅっと抱きしめられた。
「……ディル様が可愛すぎてつらいです」
シオンがうなるようにつぶやいた。
「お怪我の確認ついでにお世話で満足して、絶対に何もしないつもりで我慢していたんですよ。どうしてそう理性を削ぐようなことをおっしゃいますかね」
「我慢してるんですか?」
「当たり前ではないですか。あなたはついさっき、おぼれたばかりなんですよ? 病人に無体な真似をするようなものです」
僕の体を洗いたいと言うから、下心があるのだろうと思っていたことを恥じた。怪我の確認のためだったとは。
「すみません、シオン……」
王宮でもまれていたせいで、反射的に他人を疑っているようだ。
(本気で優しい人ですね!)
感動した僕はシオンを抱きしめ返し、彼の右頬にキスをする。
「いくらシオンでも下心があるのかなと疑ってすみませんでした。許していただけます?」
数秒固まったシオンが、再びぎゅーっと抱きしめた。
「もちろんです……!」
「ちょ、ちょっと、苦しいですよ。あっ」
「うっ」
もがいた拍子に、僕の左手がシオン自身に当たった。シオンが息をのむ。つい下を見た僕は、たかぶっているそれを凝視してから、シオンの顔に視線を戻す。耳まで真っ赤になりながら、シオンに問う。
「それで……何もしないんですか?」
「お許しいただけるなら」
シオンはあくまで慎重に答える。横顔がいかにも気まずそうで、僕は笑ってしまった。
「はっきり言わせるのが趣味ですか」
「意地悪をおっしゃらないでください」
眉尻を下げて困り顔をするシオンが、かわいそうなのに可愛いと思ってしまい、僕は改めて口にキスをする。
「いいですよ。でも、手早く。あまり待たせたくないので」
ここで放置されてもつらいので、僕は降参した。外に待っているだろうタルボやフェルナンド家の人々のことが気にかかる。
「かしこまりました」
シオンはふっと微笑み、僕と抱き合ったまま、ゆっくりと口づけをかわす。
そうしながら、シオンの大きな手が僕の体をゆっくりと滑っていく。指先が背骨のラインに沿って下へ動き、尻をやわやわともむ。
僕はむずがゆいような心地で、身を震わせた。
すっかりその気になってしまっている僕の体は、勝手にとろけている。シオンの指が後孔に触れ、シオンは驚いたようにつぶやく。
「濡れていらっしゃる」
「だって……レイブン領での夜のことを思い出してしまって」
「あの営みがあなたにとって悪いものとして残らなくて良かったです」
誰かとこうしてむつみあうのは、あの日以来だ。すでに一ヶ月半近くあいている。
オメガに生まれたせいで、家族にはうとまれたり物扱いされたりしていて、正直なところ、僕は自分の第二性別が好きではない。せめてベータだったらと想像して、ため息をついていた日もある。
それでも、この世界に来て、シオンやネルヴィスと親しくなるにつれ、同性ながら結婚相手の子どもを産めるというのはうれしいことだと思うようになった。家族愛がどんなものなのか、僕には分からない。でも、想像できる。彼らのどちらでも、きっと穏やかで幸せな日々になるだろう、と。
しかし、ふと、僕の胸に恐れが湧いた。
「シオン、もし結婚したとして、僕が子どもを産めなかったらどうします?」
「親戚から養子をとればいいのでは?」
あっさりと返事があったので、僕はちょっと驚いた。シオンをまじまじと見つめる。
「いいんですか?」
「あなたとの子どもができたら、きっと素晴らしいでしょう。ですが、子どもがいなかったとしても、あなたとは幸せに暮らせると思います。最初は確かに、領の復興のために婚約を申し出ましたが、今はあなた自身のことが好きなので」
シオンは僕の首筋をちゅっと吸い、そのまま下へ移動して、胸の飾りを甘噛みする。彼の銀髪が首筋に当たり、僕はくすぐったさに笑いをこぼす。
「ふふ。そうですか」
「なんでも聞いてください。できる限り、あなたの不安は一掃すると誓います」
「ありがとう。……あ、んっ」
胸への刺激に、僕は声を漏らし、思ったより声が響いたので唇を閉じた。
「あなたの傍仕え以外、盗み聞きする者はいませんよ」
その一人が問題だ。僕はふるふると首を振る。
シオンは自分の指を口に含んで唾液をまとわせてから、僕の後孔に触れた。久しぶりだというのに、一本目がゆっくりと中へ入ってくる。さすがに圧迫感があって、僕は息をつめる。
シオンは慎重に中をほぐす。
「ん、んっ。ふっ」
声を押し殺す僕にキスをして、シオンは指の本数を増やす。三本目をのみ込んだところで、中の良いところをぐっと押した。
「んんーっ」
僕の身体がびくりとはねる。膝から落ちるかもと、僕はシオンにしがみついた。
「これだけとろけているなら、大丈夫でしょうか」
シオンはふいに僕の左耳をやわく噛む。
「こんなに簡単に受け入れるなんて、私がいない一ヶ月の間、フェルナンド卿とさぞかし楽しまれたのでしょうね」
嫉妬心の混ざった響きに、僕は首を振る。
「してない……」
「は? 一度もですか?」
意表を突かれたようで、シオンはあ然と問い返す。
「ネルも言っていたでしょう? 食事やお茶を楽しんだ、と」
「それだけですか?」
「シオンが屋敷に軟禁されているのに、ネルと夜を過ごすのはフェアではないと思って」
「そうなんですか……今は本当に私とフェルナンド卿は同等の位置にいるのですね」
感慨深くつぶやきながらも、シオンは中をほぐす手は緩めない。
「だから、あなたとの夜を思い出したと言ったじゃないですかぁ。もう、いいから入れてください」
時間が気になるし、一ヶ月半の禁欲生活で、僕もたまっている。我慢がきかなくて涙目で催促すると、シオンがごくりと唾をのんだ。
「ああもう、あなたという方は!」
シオンは僕の体をひょいと持ち上げ、彼の両ひざの上に座らせた。自然と僕の足は大きく広げられ、鏡に映る姿に赤面する。尻に彼の一物が当たり、僕はドキッとした。
「床に膝をつかせるわけにいきませんから、少し苦しいかもしれませんが、こちらでしますね」
「え?」
腰をつかんで持ち上げられ、後孔にシオン自身の切っ先が当たる。自重もあって、僕の体はゆっくりとシオンをのみこんで沈んでいく。
「あ、んんんんっ」
声を上げそうになり、僕は両手で口を押える。太いものでいっぱいにされて、圧迫感があってさすがに苦しい。かと言って、体を持ち上げようと膝を踏ん張ると、逆に力を入れてしまい、シオンを絞めつけた。
「うう……っ」
はあはあと息をしながら、僕は彼がなじむのを待つ。シオンは後ろから僕の胸に触れ、右手は僕自身に触れた。
「ん、んん、や、あ」
シオンの膝が邪魔で身動きがとれないのに刺激を与えられ、僕は嫌々と首を振る。
「ディル様、あなたは本当に美しい」
シオンが後ろから甘くささやく。彼が鏡を見ていると気付いて、僕はかあっと赤くなった。
「いやぁっ」
「嫌でしたか、すみません」
すぐにやめようとする彼を止める。
「ちがっ。鏡……恥ずかしいから……」
「そうですか? 私は後ろからでもあなたの顔が見られて、とてもうれしいですが」
今度は甘すぎる言葉に、照れてむずがゆくなった。そうするうちに、僕は彼に慣れてきて、ふうと息をつく。すると、それに気づいたようで、シオンが腰を突き上げた。
「んっ」
「動いても良さそうですね。とはいえ、これだと少し動きづらいので、ディル様、失礼します」
「ひゃっ、えっ?」
後ろから僕の膝を抱え、シオンは僕を揺さぶる。
「あっ、んっ、嘘っ」
座ったまま人を一人抱えて、好きに動かせる腕力に、僕は改めて驚いた。弓が得意なだけあって、シオンは特に腕力が強い。魔獣を一人で仕留めたのを見る限り、きっと力いっぱい殴るだけでも、打ちどころが悪ければ人を殺せるはずだ。
いつもほどよく距離をたもち、優しく接する彼は、実は鋼のような強靭な体を持っている。こんな場面で再確認するとは思わなかったが。
僕の身体が揺れるたびに、聞くにたえない水音が響く。彼の切っ先がぐっぐっと奥へ少しずつ進み、奥にある生殖器の入り口をノックする。発情期ではないから閉じているが、僕はそこへの刺激に弱い。
「ああっ、待って、だめ、そこはっ」
僕はなんとかシオンを止めようと、シオンの腕を押さえるが、なんの意味もない。声に甘えた響きがあるせいで、シオンも動きを止めない。
「手早くというお願いですので。それともこちらのほうが良いのでしたっけ」
思い出して探るようにつぶやき、シオンは少し角度を変える。おかげで、前立腺をゴリゴリとえぐるように突かれた。
「んんんんっ」
甲高い嬌声を上げそうになり、手前で口を閉じることに成功する。くぐもった苦鳴は、泣きを帯びた。そのまま同じ所を狙って突き上げられ、徐々に高みに押し上げられていく。
「好きです、ディル様」
シオンの手に力が込められ、僕の身体が少し浮く。それをぐっと下へ落としながら、シオンは腰を突き上げた。最奥を突かれ、僕の目の前が真っ白になる。
「ん――――っ」
シオンがキスをしたため、僕の悲鳴はシオンの口の中へ消えた。
僕が身を震わせて高みに昇るのに遅れ、シオンは自身を抜いて、外に白濁をまき散らした。
シオンが口を離す中、僕はぐったりとシオンにもたれかかって息をする。
「心配しなくても、あなたの可愛い声を誰かに聞かせたりはしませんよ」
僕の頬に、シオンは優しくキスを落とす。
そういえば、レイブン家の男は嫉妬深いと、シオンの母マリアンが言っていた。シオンの独占欲をうれしいと感じているあたり、僕もどうしようもない。
☆彡☆彡☆彡
いきなりこんなR展開入れても興ざめかしらと迷ったんですが、入れてしまいました。どうでしょうかねえ。
相変わらずベッドシーンを書くのは苦手で、時間がかかりすぎました。一応、9/15の分です。
応援ありがとうございます!
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