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15 フィリア4
「避妊薬を、王妃様の茶会で?」
「はい……」
「王妃様の茶会で、どう薬を使うの?王室騎士団が警備にあたっているわ」
「紅茶です」
「え?」
侍女はまたカタカタと震えはじめ、ポロポロと泣きだした。
「シェリール様は、王妃様のお茶会で、紅茶をプレゼントに持っていきます……
そして皆で飲みましょうと、美味しい紅茶があると勧めるのです……」
「勧めると、皆飲むかも、しれないわね……?」
私は答えを導きだしてしまい、目を見開き固まってしまう。
嘘でしょう?シェリール……そこまで……
「はい……シェリール様は、茶会に出席する皆様に薬を飲ませようとしています……っ」
ぞっとすると、私は息を呑んだ。
「……茶葉に、薬を入れられるものなの?」
「紅茶の茶葉自体に、強い避妊効果があるそうです……もし検査されても、王室は毒薬検査しかしないから大丈夫だろうと……っ味も甘くて美味しいから大丈夫だと……っ」
動揺する心を抑えつけながら、私は侍女に質問していく。
「薬はどこにあるの?」
「シェリール様が何処かに隠されています。場所は存じ上げません……」
「購入経路は?」
「シェリール様が購入されたので、分かりません。シェリール様のことですから、証拠も消されているのではないかと……っ」
「そう……」
私は目を瞑る。
この侍女が告発して、シェリールに自白させる?
でもシェリールは認めないわ……。
王室騎士団にシェリールの部屋を捜査させる?
でもそれで見つからなかったら……。
決定的な証拠がないと、シェリールはきっとうまく逃げる。
茶会で紅茶の茶葉を暴いても、未遂なら貴族が入る修道院かしら。
茶葉が見つかった時の言い訳も考えているなら、自宅謹慎だけの可能性もある。
それに、殿下が庇うかもしれない……。そしたら罪にも問われなくなってしまう。
殿下が庇った時点で、私はきっと何も言えなくなってしまう……。
頭にぐるぐると色々な考えが駆け巡った。
だけど最後に浮かんだのは、私の大切な人たちだった。
お父様、お母様……私によくしてくれた使用人たち、大切な友人、
愛していた殿下、可愛かった妹──。
私の、大切な人たち──。
「フィリア、様……」
私はいつの間にかはらはらと涙を流していた。
侍女の悲しい声だけが部屋に響き渡ると、私はゆっくりと目を開けた。
「毒は、入手できる?」
私は澄んだ声で侍女に問うと、彼女は大きく目を見開き、「どうするのですか……?」と震える声で聞いた。
「私が、飲むの……」
王太子妃が死んだら、シェリールは必ず死刑になるでしょう……殿下がシェリールを庇っても、彼女の罪は確実に問われる。
それにもう……こんな気持ちのまま、生きていたくなかった……
殿下に抱かれ愛してると告げられ、王太子妃の仮面を被る日々……
ズタズタに引き裂かれた心で、見せかけの笑顔を作る日々……
こんな毎日がこの先ずっと待っていると思うと、死にたくなるほど、苦しかった。
「手紙を、書かなきゃね……」
はらはらと涙を流しながら呟く。
私は全てを終わらせようとしていた。
◇
侍女に毒を二つ用意させ、一つは当日シェリールの部屋へ置かせた。
これで私が同じ毒を飲めば、確実な証拠となるでしょう……
そして侍女に涙ながらに証言してもらう……本当と嘘を交えて……
シェリールの侍女は、とても後悔しているようだった。
こんなことになる前に、もっと早い段階でフィリア様に告げていればと……。彼女は解毒剤も一緒に渡してくれたが、私が使うことはないだろう。
私はシルビア宛に、殿下とシェリールのことを手紙に書いた。
ずっと悩んでいたこと。苦しかったこと。許せなかったこと。
そして、私が亡くなったら殿下へ手紙を渡してほしいこと──。
彼女は次期王太子妃になるはず。私が亡くなった後、上手くやってくれるだろう。
シルビア、ごめんね。私の大好きな親友。
それから、私によくしてくれた王妃様……。
王妃様にはなるべく公爵家へ咎が行かないようにしてほしいと書いた。
勝手なお願いだから、どうなるかは分からないけれど。
そして皆に、今までの感謝と、謝罪を──。
手紙に全てを託した。私の想い、私の気持ち。
全ての手紙を、ドレスのポケットへ入れる。
ここなら私が毒を飲んだ後、誰かが見つけてくれるだろう……。
茶会当日、シェリールは侍女の話していた通り、茶葉を持ってきた。
私の目の前で、シェリールの持ってきた、ピンク色をした紅茶がカップに注がれていく。
今から毒を飲むというのに、私の心は妙に凪いでいた。
スッキリしたような気持ちだった。
紅茶が注がれると、私は誰よりも早く毒を塗ったコップの縁に口を付けた。
ごくり。
私の喉に、毒入りの紅茶が通っていく。
そして──。
一話に至るまでのお話でした。
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